祈るように、生きて。 願うように、生きて。 叫ぶように、生きて。 謡うように、生きる。 この背中に、白い翼は 無いとしても。2-22:厳かに、幕間劇。 携帯の番号やメアドは、常に手動で打ち込む事にしている。そして部下達の殆どに、定期的なアドレス変更を頼んでいる。 万が一本体やデータを奪われた場合、何に利用されるか分からないからだ。勿論本当に重要な連絡は専用の携帯を使うし、一般人相手にかける事などまず無いのだけど。終焉と創造。二つの真逆の性質を持つ魔女キーシクス=桜美聖也の“仕事”は 、それだけの危険が伴うものだった。 チーム・ラストエデン。それが、聖也を筆頭とした者達で構成される、特別な管理組織の名前だ。 仕事は雷門メンバーに語ったように、あらゆる世界の管理と監視。そして一定の治安維持。アルルネシアのような凶悪犯−−世界を渡る力を持つテロリスト達−−を取り締まるのも自分達の役目である。 アルルネシアほど面倒で厄介な魔女はそうそういないが。残念ながら干渉値を積極的に破りたがる小物は絶えないのである。 その度に、ラストエデンのメンバーが派遣されて、討伐に向かう。今回のように、トップである聖也本人が長期的に出陣するケースは極めて稀なのだが。−−軍隊で仕事してんのかって訊かれた事あったな…鬼道に。 電話での連絡に、ある国の軍事用語を模範とした暗号を用いる事がある。多分それを聴かれたのだろう。鬼道が知っていたのは意外だったが。 軍隊。間違いでは、ない。 自分達のやっている事や組織形態は、なるほど軍隊と呼んで差し支えないものだ。メンバーの全員が歴戦の兵士。その気になればあっという間に世界一つ滅ぼせる人材が揃っている。 部下達は皆、ある契約から聖也の家具という名の従者になった者ばかり。ナミネもその一人だ。聖也の力の加護を受けている分、さらに力量をアップさせている。 どちらにせよ、管理できる者が必要だったのだ。彼らはヘルパーでありながらも、本心は人間のルールで生きたいと願っていたから。元は人間だったのだから当然と言えば当然か。 でも、それでは普通に召喚士の元で修行するのは困難なのである。ただでさえ潜在能力が高く、扱いにくいメンバーが揃っているのだ。 それもあって、聖也はナミネ達の主人だった者から、彼らを一時的に借り受けているのである。他にも理由はあるのだが、今はその説明は割愛するとしよう。とにかく確かなのは。聖也は今この時“仕事中”にあたるわけだが、他の“仕 事”に関する事も多少やらなければならないわけで。 この世界に来ても度々仲間達と連絡をとっていたのは、自分の仕事状況を報告し、さらに仲間達の報告を聴く為であったりする。「もしもし〜俺だけど」 番号を素早くプッシュ。着信音は長くない。件の人物は、言われた通り電話口で待機していてくれたらしい−−お菓子でも食べながら。『オレオレ詐欺はお断りですよ、誰かさん。…ああ、今は振り込め詐欺って言う んでしたっけ?』 艶やかな女性の声−−なのに、ポテチを食べる音が台無しにしている。頼むから仕事中くらいまともな食事をとってくれ、と頭が痛い聖也。「辛辣だなぁ…俺ですよキーさんですヨ。ってかまたソファー占領してるワケ? 」『私の部屋ですから』「嘘つけ。そこは皇帝の部屋だろが」 はぁ、とため息をつく。仏頂面で仕方なしにに世話を焼く皇帝(と呼ばれるが実際は“元”がつく。本 名はマティウスという男だ)の姿が目に浮かぶ。なまじ彼女と親友であるばかりに、毎日雑用が増えて迷惑している事だろう。「で。…確認だ、ミシア」 その電話の向こうの女性の名は−−アルティミシア。愛称はミシア。時間の魔女、時空の魔女と呼ばれる大魔女だ。 長い銀髪と金色の眼、赤いドレスが特徴の妖艶な美女。毒舌だが礼儀は正しい。ただしハンパなく不器用でものぐさなのが玉に瑕だ。「アルルネシアに関する報告書。ちゃんと届いてるよな?」『……』 その名前を出した途端、押し黙るアルティミシア。 アルティミシアとアルルネシア。二人の名前が似ているのは偶然じゃない。アルルネシアはアルティミシアをかつて尊敬−−否、崇拝していた。それゆえによく似た名を名乗るようになったそうな。 だが、好意を寄せていたのはアルルネシアのみ。アルティミシアは最初から、アルルネシアの思想を相容れないものと認識していた。 しかし、彼女は無理にアルルネシアを引き離す事は無かった。それは、何百年も前のアルルネシアがまだ能力的にも未熟な少女であったのもある。「…何回も言うけどよ」 アルティミシアを師と慕い、くっついてきたまだ年若い災禍の魔女。けれど二人の思想と目的の違いは、明白にして真逆で。「アルルネシアがああなったのは…お前のせいじゃねぇよ」 ある日突然。静かに、そして盛大に。アルルネシアの“片思い”は終わったの である。自分の望む世界と、師の望む世界があまりにかけ離れている事に気付いて。去っていった彼女はやがて、世界に災厄を撒き散らす“災禍の魔女”になって しまった。今や世界的な指名手配犯。最上級のSSSランクに位置するテロリストだ 。 アルティミシアは悔いているのである。自分にはできた事があったのではないか。彼女を止められたのではないか、と。『…分かってるんですがね。起きてしまった過去を、今更悔いてもどうしようも ないのは』 起きてしまった、過去。瞬時に、聖也の脳裏に思い浮かんだのは、救えなかった大切な二人のこと。 鬼道の死も影山の死も。回避できたのではないかとグダグダ悩み続けるしかできない自分。どうにもならないと分かってはいるけれど−−本当に、心は不自由でいけない。 多分電話の向こうで、アルティミシアも似たような顔をしているのだろう。『頼みがあります、キーシクス。“その時”が来たら…必ず、私を呼んで下さい ね』 その時。 即ち−−アルルネシアとの決着が着く時が来たら。『せめて、全てを見届けるのが…私の役目ですから』 本当は、自分の手でアルルネシアを殺したいのだろう。それを言ったら、聖也とて同じだ。そして一回では気が済まないのも分かっている。あの女はそれだけ赦されない事をしたのだから。「……ああ」 干渉値とは厄介なものだ。 最終的に。世界にとって異物たるアルルネシアを殺す事は赦されている。しかしそれを成すには、この世界のルールに則ってなくてはならない。つまり。この世界の“人間”として手を下さなければならない。ゆえに大きく 力は制限されてしまうのである。 だが、元々この世界の住人達は別。全力でアルルネシアと戦う事が赦されている。聖也が円堂達の協力を必要とする最大の理由がそこにある。『それと、こちらからも報告があります』「なんだミシア」『その世界に派遣しているメンバーのうち…ゼクシオン、オニオン、クラウドの 三人が見つけました。アルルネシアが“二ノ宮蘭子”として姿を現す前の痕跡で す』「本当か」 現在二ノ宮ことアルルネシアがどこにいるかは分からない。けれど、それ依然の足取りが分かれば、現在の所在を掴む糸口になる。 また、アルルネシアの能力にはまだ謎な点も多い。それを解明する意味でも重要だ。『ええ。…アルルネシアは貴方と違い、年齢や性別は変えられても容姿はさほど 変えられません。偶然、アルルネシアと酷似した少女が、東京の防犯カメラに映っていたそうです。雷門中のすぐ側の市街地で』 東京。雷門中のすぐ側? そんな近くに潜んでいたというのか?『ただし、これは八年近く前の記録。映像が残っていたのが奇跡ですね。…当時 は、“沼津マリエ”と名乗っていたそうで』 なんだか古めかしい名前である。あの女のことだから、なんとなーく直感で決めてみた、レベルの名前だろうが。“二ノ宮蘭子”にしたって、某人気アイドルの名字と、某有名テニスマンガの ライバルキャラの名前をくっつけてみたとか、そんなんだろうし。『確認してみたところ、沼津マリエは東京以外に北海道にも出没しています。そして…驚くべき事に、周辺住民にサッカーを教わっていたそうで』 「サッカーだって?」『はい。上達の早さと、少女とは思えぬパワーで大人達を驚かせていたそうで。…短期間ですが、サッカークラブに所属していた事もあったらしくて』 「……」 アルルネシアが、八年も前からこの世界に来ていた。そして子供の姿で、サッカーをやっていた?−−何だ?何が目的だったんだ? ただサッカーがやってみたかったから?そんな訳ない。あの女の欲は健全なスポーツなんかで発散できるものじゃない。−−まさか…八年後のこの展開を、予見していたとでも? そんな馬鹿な。だが、相手は災禍の二つ名を持つ大魔女。有り得ないなんて事は、有り得ない。「……アルルネシア自身で、サッカーができるかもしれない。つまり…あの女本 人とサッカーで、雷門が戦う可能性があるって事だな?」『その可能性は充分にあるかと』「めんどくせぇ…」 通常の戦闘よりかは、サッカーならば雷門にも勝機はある−−と言いたいが。あの女がまともな試合を仕掛けてくるわけがない。真帝国の一戦だけ見ても明らかなのだ。「…仕方ねぇからそう考えて、対策練るよ。報告ご苦労。また電話する」 電源ボタンを押して、通話終了。 対策、とは言ったが。アテがあるわけではないのが辛い。基礎的な身体能力の底上げも大事だが、それ以上に必要なのが精神力。これだけは確かな事だ。 度重なる悲劇に、皆の心はどんどん擦り切れていっている。特に、吹雪、風丸、栗松のあたりがまずい。ある意味、肉体的な強さを得るよりもそちらの対策が急務だろう。−−吹雪…。 シュート練習の部屋から、絶えず聞こえてくる−−ボールを蹴り付け叩きつける音と、気合いの声が。 染岡が離脱した事で、彼もまた焦り、ゆえに間違った思考に走りつつある。完璧でなければ何一つ守れない、と。完璧な人間なんてこの世にいる筈がないというのに。−−俺には…何もできねぇのかよ…? 魔女でありながら。サッカー戦士としてはあまりに無力な自分。自らの力をコントロールできないせいで、シュートもろくに打てないMFなんて役立たずにもほ どがある。「聖也君」 通路の向こうから、照美が歩いてきた。今日も今日とて美人だ。これで男だなんて信じられない−−とそうではなくて。「ちょっと、提案があるんだけど。いいかな」「な…何だ?」 ヤバい。その上目遣いは反則だ。色気がありすぎて、悩殺されそう。ドキドキしている聖也に気付いてない様子の彼は、真剣な眼差しで言った。「必殺技、作らない?私と、君で」「……へ?」 目をまん丸くする聖也に、照美は文字通り悩殺レベルのスマイル。美貌が眩しいったらない。「ネタはあるんだ。これが完成したら…相当な攻撃力になる」 見せられたノートにはこう書かれていた。 神の矢−−サジタリウス、と。NEXT |
射抜け、貫け。