何もかも道具と割り切って見せれば。本当の願いに気付かずに済んだけど。僕等は心無い宇宙人(エイリアン)にはなれない。上手に嘘の吐ける大人にもなれないから。 この背中に、白い翼は 無いとしても。3-5:託す者、託される者。 自分にもいずれその時が訪れるのだろう。 ひょっとしたら己は既に、未来を予期していたのかもしれない。「何をする気だ、モール」 低い声で問うメトロン。嫌な予感しかしなかった。モールの眼と、自分達を命懸けで逃がしたクリプトの眼が、そっくりだったから。モールはメトロンの問いには答えず、passを保持しているゼルに尋ねる。 「そのシャッター、開ききるまでどれくらいかかるのかしら?」「これはカードキーの無いタイプだからな…開ききるまで十秒、その後自動で閉 まるまで二十秒ってとこだが…」 「なるほど…じゃあ、三十秒も護りきれば充分ってとこか」 ちょっと待ってて、と彼女は近くの調理室に駆けていく。一体何を考えているのか。すぐに戻ってきた彼女は、気合いを入れるように腕を回した。「あいつらを一網打尽にするわ。…シャッターを閉めても…奴らが開けられない なんて保証は無いもの」「そりゃ、出来る事ならそうしたいけど…ととっ!」 慌てて後ろに下がる。さっきまでメトロンが立っていたあたりが、電撃で真っ黒に焦げついていた。 作戦会議の暇もないらしい。「迷ってる暇は無いわよ。私に任せて…言う通りにして。まずゼル、シャッター を開けて」 さっきまで泣いていた少女とは思えない凛々しさだ。 彼女に指示されるまま、ゼルがシャッターまで走る。だが、その背中を追いかけるロボット達。passを入力している隙に彼がやられてしまう。 「シャッターが開くまで、私がみんなの盾になる」 モールは凛と言い放った。「私は…デザーム様の技を受け継いでるのよ。デザーム様やゼルの代わりにGKを やったこともある。あんな奴らから三十秒くらいもぎ取るなんて簡単よ」 確かに、一理あるかもしれない。自分達がシャッターまでたどり着き、開くまでの間、彼女になら防御を任せても大丈夫かもしれない。 しかし。 いくら強力な技と身体能力があるからといって、とてもモールが無事で済むとは思えない。「悩んでる暇なんてない。これが唯一の活路よ」 言いながら、既に彼女は技を出す為力を溜めている。「大丈夫。私を信じて!!」 ロボット達はさらに数を増している。どうにも二階のどこかに保管庫でもあったらしい。彼女の言う通り、選択肢がさほど多くないことは見てとれた。 メトロンは意を決して、ゼルの元まで走る。後にはマキュア、ファドラ、ケンビルが続き、最後尾にモールがつく。 自分達もソルジャーの端くれだ。全力で走れば追いつける者など殆どいない。ある程度ロボット達を引き離すことも出来る−−走る距離さえ長ければ。六人全員がシャッターまで行き着き、ゼルがpass入力を始めた。その隙を狙っ て、ロボットの数体が彼に襲いかかって来る。「ドリルスマッシャー!!」 阻止したのはモール。彼女は自らが受け継いだ、敬愛する人の持つ最強のキーパー技で皆の盾となる。 果敢にも体当たりしてきたロボット達は、巨大なドリルに巻き込まれてバラバラに吹き飛んでいく。 物理攻撃では無理だと悟ったのだろう。彼らは距離をとると、電撃攻撃の構えを見せた。「モール!」「平気よ…っ」 放たれる凄まじい電撃。彼女のおかげで自分達は浴びずに済んでいるが−−ドリルを通じてモールにもダメージがいく。 半減されているとはいえ殺人級の電気を浴びて、少女は歯を食いしばる。「この程度じゃ、ない…ッ」 苦しげに、しかしそれ以上に悔しげに。放たれる声が、言葉がメトロンの胸を抉る。「デザーム様が受けた痛みはこの程度じゃない…あの人はもっと、もっと、もっ と…ずっと痛かった筈よ…!苦しかった筈なのよ!!」 ああ、と気付く。 護られて。護られて。護られて。 無力な己を、誰もが悔いて此処にいる。だけど、デザーム様もまたそうだったのかもしれない。 護られるしかない苦しみを自分達が味わっていたように。 護るしかできない悲しみを、彼も感じていたのかもしれない。「デザーム様のシュートは…私達の誇りは!こんな軽いもんじゃないのよ!!」 モールが叫ぶのと、シャッターが開くのは同時だった。メンバーは大急ぎで、シャッターの向こう側へ駆け込んでいく。「モール!?」 少しだけ走って−−メトロンは気付いた。モールが後ろ手でスイッチを操作し、シャッターを閉め始めたことに。 彼女自身を残したまま。「ごめんなさい」 まさか。メトロンの背を冷たい汗が流れる。慌てて引き返そうとすると、その手をマキュアに掴んで止められた。 何故止めるんだ。視線で責めたてるメトロンにマキュアは首を振る。行っては駄目、と言うように。彼女の眼は泣きぬれて真っ赤になっていた。 閉まっていくシャッターの向こう、一瞬だけモールと眼が合った。「私は、貴方達みたいに強くなんかないの」 彼女は何を想っていたのだろう。 どんな風に後悔し続けていたのだろう。 敬愛−−いや、それはもっと苛烈な愛情であったのかもしれない。愛する人を置き去りにするしかなくて、亡くした愛するの名を呼び続けて、そして。 もしかしたらとうに、終わらせ方を決めていたのだろうか。「デザーム様のいない世界なんて、耐えられないの」 だから、お願い。 閉まる扉の向こうで、最後に見たのは、ライターを取り出す少女の姿。「せめて…みんなを護って死なせて」 走ろうとしていたメトロンの体は、マキュアとゼルによって押し戻されていた。 扉が閉まった瞬間。 ドォォン!! 響き渡ったのは、凄まじい爆音。 メトロンは思い出していた。さっきは逃げるのに必死ですぐに分からなかったけれど−−廊下にうっすら妙な刺激臭が漂っていたことを。 プロパンガスの臭い、だ。 モールは調理室で、ガスの元栓を片っ端から開けて来たのだ。それがゆっくりと、廊下にまで流れ出してきて−−。 その後は考えるまでもない。モールがライターの火をつければ、シャッターで密閉された廊下がどんな有様になるかなんて。「逃げろっ!走れ−−ッ!!」 ゼルの絶叫。言われるまでもなくメトロンは走り出していた。あちこちでガラスが割れる音や地響きが断続的に聞こえてくるが構ってなどいられない。 自分達はこんな彼女の結末を予感出来た筈である。 だって知っていたから。元々活発じゃない彼女が、いかつい酸素マスクをつけてまで特訓を繰り返していた訳。それでも尚強くなりたいと願っていた訳を。 みんな、薄々気付いていた。モールが一人の女の子として、自分達のキャプテンを慕っていた事を。 デザームを失って、生きていく事がどれだけ酷であるのかも。「畜生ッ…」 バラバラと降る小さなガラスの破片が、メトロンの二の腕や背中を突き刺した。メトロンだけではない。仲間達みんなの体に赤い血の線が引かれ、それぞれの肌を伝っていく。 だけどそんな痛みなど今はどうでも良かった。 もっと別の場所が、痛くて仕方なかったから。「ちくしょぉぉぉっ!!」 自分達に、朝が来る気配はない。 叫んだ声を、聴き届ける神はいなかった。 聖也が語る。 雷門イレブンが持つ、魔女にも勝る希望についてを。 アルルネシアと雷門イレブンの因縁については、語るにはまず、アルルネシアの名前の由来となった魔女・アルティミシアについても触れなければなるまい。 まだ名もなき少女だった頃のアルルネシアが、自らの魔女としての名を借りるほど、尊敬していた大魔女アルティミシア。時を自在に操る彼女は千年を生きた時空の魔女として、様々な世界にその名を轟かせていた。 理想の差から道を違えた二人。しかしアルルネシアはまだ、敬愛するアルティミシアを手に入れる事を諦めていなかった。 彼女の気を引くにはどうすればいいのだろう。アルルネシアは七日七晩考え続けたという。 奇しくもその頃。アルティミシアは神竜という召喚獣の罠にかかり、ある世界に閉じ込められていた。 その世界を簡潔に表現するならば−−修羅地獄。 終わりなく続く戦争。無限に繰り返す時。何度戦争で死に、血と涙を流そうとも、朝になればまた生き返っている。そしてまた戦争に参加させられ、死ぬ。そんな恐ろしい鳥籠の世界だ。 アルティミシアは仲間と共に、神竜を倒してその世界から脱出する方法を模索していた。 だったら。 よく似たゲームを用意すれば、アルティミシアは自分を見てくれるのではないか。身勝手な思考から、アルルネシアはその“ゲーム”を思いついたのである。 彼女はその気になれば、アルティミシアを鳥籠から救う力があった。にも関わらず彼女がやった事は敬愛する人を助ける事ではなく、自分の用意した新たな鳥籠に閉じ込める事だったのである。 舞台となったのは、稲妻町。 アルルネシアは稲妻町のある世界に、無限の魔法をかけた。ある条件が満ちると自動的に時間が巻き戻ってしまう魔法を。その頃。稲妻町の時間軸では、FFの全国大会の真っ最中だった。千羽山との試 合が行われる前日である。 アルルネシアがかけた魔法によって、起きた明確な歪み。その一つが、千羽山の試合前にはまだアメリカにいた筈の一之瀬が、鬼道より先に召喚された事である。 そして起きる惨劇。 一之瀬を加えた雷門イレブンが千羽山との試合に勝ち、事件は確実にその日に起こる。 その日の晩。雨に降られて雨宿りをするべく彼らは空き家に逃げ込む事になり。その晩のうちに全員が謎の死を遂げてしまうのである。生き残るのは偶々不在だった春奈だけ。 彼らが皆殺しになると、また時間は千羽山との試合前まで巻き戻るのである。その繰り返しだ。アルルネシアは、捕まえたアルティミシアに言うのである。 惨劇の謎を解き。 時間の巻き戻しを止めてみせろ。 そうすれば、彼らを救う事ができる。 貴女を捕らえる鳥籠を打ち破るヒントにもなるかもしれない、と。 つまり。雷門イレブンは完全にとばっちりを食ったわけである。当時のアルルネシアがたまたま選んだ世界が稲妻町だったというだけなのだから。 だが、ここで予期せぬ事が起きた。記憶を消され、時間の巻き戻しに気付く筈のない鬼道が、世界がおかしくなっている事を自力で察知したのである。 また、鬼道以外のメンバーも次々と違和感に気付いた。そして彼らは最終的に、自らの手で惨劇の謎を解き、アルルネシアに一矢報いてみせたのである。 ゲームにおいて探偵に謎を解かれる事は即ち、支配者たるアルルネシアの負けを意味する。 アルティミシアの助けがあったとはいえ、ただの一般人である筈の彼らがアルルネシアに勝ったのだ。彼女が脅威に感じるのも当然と言えよう。 正常な時間を取り戻したイレブンは何も覚えていないが。 彼らは証明した。 魔女を打ち倒すほどの力を秘めている事を。NEXT |
追いかけるボール、行く先は出口?