捜すなよと云われたから捜してしまうの。 後悔してでも希望が欲しいの。 お願い、絶望の海に溺れる前に。 引き上げて欲しいなんて、ねぇ馬鹿げてる? この背中に、白い翼は 無いとしても。3-6:掲げる手、祈る声。 雷門イレブンは、かつてアルルネシアと対峙し、打ち勝った事がある。 そう聞いても、殆どのメンバーは俄かに信じがたいといった顔だ。自分も彼らの立場なら仕方ないだろうなあ、と聖也は思う。 魔女は人間とは隔絶した存在。覚醒し月日を得た魔女は、新たなる超人類と言っても過言ではない。普通なら人間が太刀打ち出来る相手ではないのだ。 しかもあの戦いの記憶は、全員の脳から消去されている。 あの一件が起こる前の本来の時間軸では、桜美聖也という人間も存在していなかった。なんせ聖也が雷門に転校を決めたのは、あの事件でアルルネシアが彼らに目をつけたと知ってからであったのだから。 稲妻町でループさせられていた時間は、千羽山との試合前日から試合翌日の昼間までの三日間。時間が解放された結果、全ての時間は帝国との最初の試合の日 まで戻ってしまう結果となった。「あの恐ろしいアルルネシアに…俺達はどうやって勝ったって言うんだ」 困惑する風丸。「ゲームって言ったって。それは所詮アルルネシアにとっては遊びだったんだろ?それで勝ったからって、あいつに物理的なダメージが与えられるわけでもないのに…」 「そうでもないんだな、コレが」 腕組みをして、聖也は言う。「アルルネシアの能力に、“魔女の夜会”ってのがある。指定した相手を、自分 の選択した様々なゲームに強制参加させる事が出来る力だ。敗者や…逃げ出した り、アルルネシアの定めたルールを破った者は大きな罰を受ける事になる」 その罰は、高い確率での死。あるいは死に至る呪いや、死よりも恐ろしいペナルティが課せられる事もある。自らの楽しみを増やす為にアルルネシアが開花さ せた魔法と言っていい。実に恐ろしい力だ。 しかし、穴もある。それはこのペナルティの対象に、アルルネシア自身も含まれるという事。 そしてゲームを設定するにあたり、ルール上は両プレイヤーが公平でなければならないという制約もある。「アルティミシアとの勝負の際、アルルネシアはこの“魔女の夜会”を発動させ ていた。そしてゲームに負けたんだ…いくらあの女といえど、ペナルティで相当 ダメージを食らった筈だぜ」 ここまで来て、雷門メンバーにも合点がいったようだ。 非力な自分達が、あの恐ろしい魔女たるアルルネシアに勝つ唯一の方法が。「魔女の夜会…その能力をアルルネシアに使わせれば、俺達でもあいつと対等に 戦えるかもしれないって事か…!」 「その通りだよ、土門」 アルルネシアは、雷門を見下している。一度は自分に勝ったとはいえ、所詮非力な子供達にすぎない、と。 そこに付け入る隙がある。 最悪ながらも結局は愉快犯である彼女に、能力を使うよう誘導するのは難しい事じゃない。 そしてアルルネシアは相手のプライドをズタズタに引き裂き悦に浸る為、時にはわざと敵の得意な土俵に上がって来るのである。 ならばこの世界で、最終的にアルルネシアが何をゲームに選ぶかは、考えるまでもないだろう。「サッカーでアルルネシアに勝てば…俺達でもあいつを倒せるってわけだ」 パン、と円堂がグローブを鳴らす。その眼に強い決意の光を湛えて。「だったら問題は…もっともっと強くならなくちゃいけないって事と。イプシロ ンやガゼルの事を考えるとゆっくりしてる時間がないって事だよな…」 「その二つの問題を、一度に解決する方法があるわ」 ずっと沈黙を守っていた瞳子が口を開く。「さっき情報が入ったの。…福岡の陽花中に、エイリアから襲撃予告が入ったわ 。イプシロンではなく…そのワンランク上、マスターランクのジェネシスってい うチームからね」「ジェネシス!?」 皆がざわめく。マスターランク−−という事は、ガゼルのダイヤモンドダストと同じランクということだ。 そういえばデザームは言っていた。マスターランクは3チームある。それぞれ、ガイア、ダイヤモンド、プロミネンスという名前だと。 だが、ジェネシスという名前は聞いた事がない。「イプシロンが正式に除名されて、さらに上が出て来てるとしたら…かなり危な い状況よ。でも、マスターランクチームと接触すれば、新しいエイリアの情報が手に入るかもしれないわね」 危ない現状。 新しい名前のチームが学校破壊に加わったならば、正式にイプシロンがお払い箱になった可能性が高く。彼らの安全が全く保証できなくなった事を意味する。 しかし最上位のマスターランクならば、イプシロンより遥かに大きな情報が期待出来る−−そういう事だろう。「さらに…この陽花戸中には、貴方達……特に円堂君がスキルアップするのに役 立つものがあるらしいわ。往年の名プレイヤーにして名監督・円堂大介の遺品…とかね」「じいちゃんの?」 眼を丸くする円堂に、瞳子は頷く。「貴方のおじいさん…大介さんは、元は福岡出身よ。途中で雷門に転校したの。 通っていた陽花戸中には、大介さんがかつて使っていた裏ノートが遺されているらしくて。…貴方達の、役に立つんじゃないかしら」 裏ノート。今円堂が使っている特訓ノートの進化版、みたいなものだろうか。 ジェネシスに襲撃予告されたのも、裏ノートが遺されているのも、同じ陽花戸中。「凄ぇ!一石二鳥!!」 「円堂君、不謹慎よ」 祖父のノートに目を輝かせる円堂を、なしなめる夏未。その一方で−−一之瀬、照美、塔子、春奈といった面々は厳しい顔をしている。 聖也と同じように、彼らも気付いたのだろう。 このタイミングでの襲撃予告に、よりによって大介の縁がある陽花戸中。これが偶然であろう筈がない、と。 考えられる事は二つ。エイリアは、円堂大介の裏ノートを狙っている。もしくは雷門イレブンを福岡まで誘導したがっている。 あるいはその両方が目的−−。−−円堂大介が元福岡出身なんてこと、少し調べりゃすぐ分かる。円堂守がその孫だってのも一目瞭然だしな…。 罠かもしれない。が、現状他に打つ手が無いのも事実。 必殺技が要るのだ。アルルネシアの策略を超えられる、新しい力が。−−生き残るには強くなるしかねぇ…。能力的にも、精神的にも、だ。 それは聖也が、己自身に向けた言葉でもあった。 現状雷門イレブンにとって、自分がまったくの戦力外である事は痛いほどよく分かっている。照美との連携必殺技であるサジタリウスもまだ完成していない。 強くならなければ。愛する者達を護る為にも。「…残念ながら今すぐに、イプシロンやガゼルを助けに行く手だてはねぇ」 エイリアのアジトであるナニワ修練場は、あれだけ早く発覚したのに。本拠地は巧妙に隠されているのか、なかなか尻尾を掴ませてくれないのだ。 だが、聖也率いるラストエデンも、この世界についてほぼデータが揃いつつある。あとは本拠地の“存在できる”場所を消去法で潰していける段階だ。 なんせこっちは数がいる。ローラー作戦ならお手の物だ。「でも、俺が…俺達ラストエデンが必ず、本拠地を暴き出してみせる。歯痒いだ ろうが待っていてくれないか」 戦場に立てるのが彼らの力であるならば。 自分には、自分にしか出来ない役目がある筈である。「……分かった」 苦い表情ながらも、円堂は頷いてくれた。本当は真っ先に、走り出したくて仕方ないだろうに。 とりあえずは、酷い有り様になっている修練場を片付けて、福岡へ発つ準備をしなければ。聖也がそう考えた時、携帯電話が鳴った。−−おい、緊急用のヤツじゃねぇか。 顔を強ばらせながら、画面を見る聖也。名前は表示されない仕様だが、番号ですぐ誰かは分かった。「はい、もしもし」『急でごめんねキーシクス。でも雷門の試合が終わってるのは知ってたからさ』 電話口から聞こえる、穏やかな少年の声。外見だけを見れば、こいつも中学生−−円堂達とさほど違わない年だったな、と思い出す。雷門の試合が終了する時間。多分彼はそれを、“イプシロンとの再戦が決まる 前から”知っていたのだろう。彼はラストエデンメンバーでもそう多くはない、ESP とSPKの両方に長けた超能力なのだから。 「ヨシュア。渋谷UGからお前がわざわざ連絡よこすっつー事はだ…また嫌な予知 でもしてくれるわけか」 聖也の言葉に、電話の相手−−ヨシュアが苦笑する気配があった。『否定はしないよ。良いニュースと悪いニュース、両方あるからね。…落ち着い て聴いてくれるかい?』そして。告げられた“未来”に、聖也は愕然と眼を見開いた。 息を切らし、少年達は走りつづける。メトロンは涙を乱暴に拭いながら、仲間達を振り返った。 ゼル。マキュア。ケンビル。ファドラ。 十一人いたイプシロンメンバーはもう、自分を含めて五人しか残っていない。−−なぁ、何でこんな事になったんだ。 イプシロンの誇りを忘れるなかれ、と微笑ったクリプト。 愛する人のいない世界なんて耐えられない、と泣いたモール。 そして。 文字通り、命懸けで自分達を救ってくれたデザーム。−−俺達が、一体何をしたよ。 また涙が滲みそうになる。拭っても拭っても、滴が止まる気配はない。−−ただ。みんなでサッカーが出来ればそれで良かったのに。 ただ。 ただ。「幸せになりたかった、だけなのにさ…」 ささやかな幸せすら赦されないほどの罪を、一体誰が犯したというのか。「立ち止まるなよ、メトロン」「ファドラ…」 メトロンと同じく泣きはらした眼で、それでも前を見てファドラは言う。「俺達はもう…自分の意志で立ち止まる事も赦されねぇんだ」 分かってる。 分かってるよ。 嗚咽を漏らしながらもメトロンは頷く。もうこの命が、自らだけのもので無い事くらいは。「分かって、る…」 二階は突破した。三階の通路を、全速力で駆け抜ける。階下からは未だに時折爆発音が響いていた。モールの自爆、その余波だろう。 ガラス張りの連絡通路。その手前で、メンバーは一時停止する。連絡通路を渡っている最中で敵に遭遇すると非常にマズい。挟み撃ちにされる危険もある。「なんとか大丈夫そう…だな?」 壁に張り付き、顔だけ覗かせてゼルが様子を窺う。このルートが駄目となると、もっと人目の多いエリアを通さなくてはならなくなる。 そして、爆発の続く二階を通るのは極めて危険。ならば、多少なり不確定要素があろうとも、突っ切るしかない。「よし…走れ!!」 五人はまるで弾丸のようなスピードで走り出した。大した距離もない連絡通路。順当に行けば五秒程度で走り抜けられる−−筈だった。 ピッ。 不穏な機械音。その直後。 ドゴォォン!! 爆発音と共に。 連絡通路が音を立てて、崩れ始めるまでは。「わああああっ!!」 五人は絶叫し、宙に放り出され。 三階から真っ逆様に、墜落していった。NEXT |
落ちていく、堕ちていく。