貴方の罪を赦しましょう。 だからどうか、もう責めないで。 貴方の咎を清めましょう。 だからどうか、私を許して。 この背中に、白い翼は 無いとしても。4-0: Message from Mamoru Endo 考えちゃいけない事だと思う。 でも気付けば、考えちゃってるんだ。 俺とさえ出逢わなければ、俺さえいなければ。 風丸を不幸にしないで、済んだのかなって。『わぁ…』 初めて出逢った日のこと、お前は覚えてるかなあ。幼稚園の時だ。稲妻幼稚園は男女の服の違いが分かりにくいデザインだっ たから、俺最初、お前を女の子だと思ったんだ。 一番最初に目に入ったのは、すっごく綺麗な水色の髪。『きれーい…』『え?』さらさらと、まるで風が流れるみたいで。俺はつい触っちゃってた。初対 面なのにいきなり髪触られて、風丸ってば目をまんまるくしてたよな。『きれいだなー。おれ、円堂守!キミ、ベッピンサンだーってよく言われな い?すっごくきれいな、かみ!』 その言葉に、風丸はポカンとして−−次の瞬間。『おれは!男だぁっ!!』 いきなり、パンチが飛んできた。そりゃもう盛大に吹っ飛んださ。どうや ら“別嬪”という言葉が基本的に女性に向けて使うものだと知っていたらし い(父ちゃんが使うのを聞いて真似してみたのだ。確かにあの時相手は親戚 の女の子だった気がする)。多分、風丸は幼い頃から、女の子みたいな自分の容姿を気にしてたんだろ う。綺麗、と言われる事すら嫌だったのかもしれない。俺はものの見事に地 雷を踏んじまったわけだ。『これ以上よけいなこと言ってみろ!マジでぶっとばしてやる!!』 そして愛らしい見た目と裏腹に。大変男らしい、もっと言えばかなり喧嘩 っぱやい性格をしていた。白状する、俺はこの日風丸に数回パンチとキック をくらって思いきり泣かされたんだよな。正直、風丸と喧嘩して勝った試しがない。小学生時代や幼稚園時代は俺の 方がちょっとだけ大きかったのにな。めちゃくちゃ喧嘩が強かった。きっと コンプレックスを克服したくて、やや間違った方向に男らしくしようとして たんだと思う。 サッカーは、気がついたら当たり前のように傍にあった。母ちゃんはじいちゃんの事があって、サッカーが嫌いだったから。母ちゃ んの目があるところで堂々とやる事ははばかられたけど。俺と風丸は、クラ スのみんなと一緒にいっつもサッカーやってたっけ。 そうそう。あれは、小学一年生の時。覚えるかなぁ、冬っぺのこと。本名は冬花で…あー、名字は忘れちゃった けど。稲妻町にちょっとの間だけいたあの女の子だよ。突然転入してきて、 また突然転校して行っちゃったんだけど。 一年生の時は、よく三人でサッカーやったな。きっかけは、冬っぺをいじめてたガキ大将達を俺が追っ払った事だっけ。 最初は俺にさえなんか怯えてたあの子が、風丸には随分あっさり懐いたん だ。何でだと思う?『だって風丸くんってすごく綺麗で…男の子ってかんじがしないから』 ははは、こりゃ参った。風丸、結構ヘコんでたろ?さすがのお前も冬っぺに喧嘩は売れなかったみ たいだしな。あっちに悪気があったわけでもないし。この頃までの俺達は、多分平凡で平和で−−ありきたりな幸せに護られた 世界に生きてたんだろう。そのままいけばもしかしたら、雷門サッカー部は フットボールフロンティアに出ないまま終わってたかもしれない。俺はこん なにサッカーに打ち込むことなく、普通に大きくなって、普通の大人になっ たかもしれない。今ではもう、その全てが有り得ないと知っている。過去も未来も、いつの 間にか全てが定められたものになっていたから。ああ、俺は否が応にも思い 知らされた。 冬っぺが転校してから暫く後に起きた、あの事件。 ひょっとしたらアレ自体、アルルネシアが仕組んだ事だったんだろうか。 風丸が殺された。 俺は人殺しになった。だけど起きた筈の悲劇は隠され、封印されてしまった。俺達の記憶も、周 りの現実も、その先の未来も。全てが全て、魔女の手で改竄されたんだ。死んだ筈の風丸と、俺が殺した通り魔の男は生き返させられた。生き返っ た通り魔を警察が捕まえるように仕向けたのも間違いなくアルルネシアだ ろう。風丸は襲われかけたけど助かった。シナリオはそう、書き換えられた。でも、何もかもを忘れられたわけじゃない。記憶は消されても多分、俺達 の心の何処かは惨劇を覚えていた。そして恐怖していたんだ。真実を思い出 す事も、同じ事が繰り返すかもしれないという事も。 俺は、自分の罪を忘れて。 風丸は、自分が死者である事を知らずに。俺達は運命に導かれるまま成長した。そして雷門中に入り、部活でサッカ ーを始める事になる。風丸は俺の幼なじみで、だけどサッカーはやった事がない。きっとそうい う“設定”にされていたのもあって、お前はその足を生かし陸上部に入った んだろう。よくよく思えば不思議なことはたくさんあったんだ。だってそうじゃん、 サッカー殆どやった事ないのに、風丸ってば最初からサッカーが上手かっ た。初心者でいきなりリフティングを三十回続けてみせた時点で、やっぱり 何かがおかしかった。だけどあの時の俺は風丸がサッカー部に入ってくれた のが嬉しくて、深く考える事もしなかったんだ。 きっと、何もかもが定められた“必然”だった。 俺が雷門中でサッカー部を率いたことも。 風丸がサッカーを始めた事も。フットボールフロンティアにエイリア学園と、立て続けに闘いの渦中に放 り出された事も。そして−−“期限”が切れた時。風丸がもう一度何らかの形で命を落とす 事になるのも。 何もかもが誰かの手の上で踊らされた、運命だったのかもしれない。 でもさ。 それでも俺、思っちゃうんだ。たとえ俺達の過去が、俺達の力だけで切り開いてきたものでないとして も。全部が全部、俺達の意志で無かったとしても。 楽しかった。楽しかったんだよ、風丸。お前と一緒にやるサッカー、すっげー楽しかったんだ。毎日毎日みんなと ボールを追いかけてさ、ゴールを目指して勝った負けたって−−そんなシン プルな事が本当に楽しかったんだ。だから否定したくないし、出来ない。そう思う事自体罪だとしても、俺は そこに風丸自身の想いが一つも無かっただなんて、思いたくないんだ。 最低だろ。死者だとしても、お前がアルルネシアに生き返させられた事実さえ、肯定 したくなってしまうなんて。そもそも俺とさえ出逢わなければ、きっとお前は不幸になんかならなかっ た。死ぬ事も生き返る事も、魔女に弄ばれる事だって。 俺と出逢わなければ。 俺が“断罪の魔術師”の資格者でなければ。 俺とサッカーをやらなければ。 俺がサッカーをしてなければ。 そしてあの日、喧嘩なんかしなければ。『なんだよ、悪いのは風丸じゃんか!風丸なんかだいっきらいだ!!』 −−ごめん。ごめんな、風丸。あんな酷いこと、言ってさ。 結局、謝っていない。思い出した時、君はもう世界にいない。 ごめんね、なんて遅すぎるけど。それでも言わせて欲しいんだ。−−大嫌いなんて、嘘だよ。本当は、大好きだったんだよ。大好きな大好きな、最高の親友だったんだ。中学生になって、どんどん友 達が増えて、最高の仲間がたくさんできてもそれは変わりなかった。喧嘩っぱやかった風丸は随分変わったよな。凄く目が優しくなって、丸く なった。きっと本当の“強さ”ってヤツを真剣に考えてたんだと思う。だか らまあ、考えすぎて悩んじゃう事も多かったんだよな。今思うと、謝らなきゃいけない事だらけだった。この一連の戦いにしたっ てそう。お前の生真面目な性格を思えば、どれだけ精神的に追い詰められて たかなんて、簡単に分かりそうなものなのに。『なぁ…教えてくれよ円堂。俺達はいつまで頑張ればいいんだ?』頑張っても頑張っても報われない。先が見えない。焦るばっかりで、思う ように動かない身体を引きずって、這いずるような日々。そうだよな。サッカーは楽しいもので−−誰かに強制されて無理矢理頑張 るようなものじゃなかったのに。『みんながみんな!お前みたいに強いと思うな!!そもそも俺は…俺達は世界を救う為にサッカーを始めたわけじゃない!!そんな大それた目的、背負いきれるわけないのにっ…』 俺が、風丸にもみんなにも強制させてた。 ルールを守った正々堂々としたサッカーを“やらなくちゃいけない”。 特訓して特訓して、もっともっと強く“ならなくちゃいけない”。勿論、そんなつもりなんか無かった。でもきっと俺は、俺自身が思ってい た以上に余裕が無かったんだと思う。俺、このチームのキャプテンなのにさ。自分の事だけで精一杯になって、 周りの事がちっとも見えてなかった。風丸はあんなにはっきり、SOSを出してくれてたのにな。ただ、楽しいサッカーで上を目指す為に。フットボールフロンティアで優 勝する為に、風丸はサッカーをもう一度始めてくれた。俺の為に助っ人にな ってくれて、最終的に正式な部員になってくれた。 そうだ。風丸の言う通り。世界を救う為に、こんな辛い闘いを強いられるだなんて、誰が予想してた だろう。俺達、ただの中学生のサッカー部員だった筈だぞ?おまけに−−やっとの思いで優勝したフットボールフロンティア制覇の その日に。積み上げた全てを否定されるような負け方するなんて、考えても みなかった事だ。そこで心が折れても仕方なかったのに、風丸は俺に着いて きてくれたよな。「…風丸」 呟きは、泣き出しそうな曇空へ溶けていく。「俺だって、強くなんかないよ。強くなれるって、思い込もうとしてただけ なんだよ…」 強いのは風丸、お前の方じゃないか。たくさん、たくさん悲しい事が起きた。プライドをズタズタにされたあげ く、仲間達が次々いなくなっていく。豪炎寺は行方不明。鬼道は殺された。 佐久間や源田の魂は汚され、染岡は離脱して。イプシロンもジェネシスも、 みんなみんな悲鳴を上げていて。そんな中で俺はいつも無力。ゴールだけじゃない、みんなを護れる本当の 守護神になろうって決めたのに−−何一つ止められやしなかった。なのにお前は、自力で立ち上がってみせたんだ。それが本当の強さだ。今 の風丸は俺の何万倍も強い、うん、間違いない。 だから、さ。お礼も謝罪も足りなすぎるんだよ。俺はまだたくさん、お前に伝えたい事 があるんだ。なぁ、聴いてくれよ。あの日言えなかった“ごめんなさい”。あの日の続きの、仲直りをしよう。 今度はちゃんと声に出して本当の気持ちを言うから。許せないなら、それで もいいから。『サッカーやろうぜ、円堂』 お願い。どうか帰ってきて。そしてまた、笑って。どんな風丸だって、俺の最高の親友な事に違いはな いんだから。 どうか、終わらせて下さい。 全ての悲しい事を。 誰か、嘘だと言って下さい。全ては悪い夢だと。目を覚ました時夜は明けていて、朝日が輝いているか ら大丈夫だと−−ねぇ、どうか。 NEXT |
抗う事に、疲れてたんだ。