甲高い雑音が部屋を埋め尽くすの
サイテイな意味をぐるぐる廻して。
当然、良い事なんて起きやしない。
もう一層思い切り吐き散らかしましょうか。
 
 
 
 
 
この背中に、
白い
無いとしても。
5-2:ールズエンド、ダンスホール。
 
 
 
 
 
 鬼瓦はあっけにとられて、待ち合わせに現れたその二人を見た。
 聖也の今までの行動や、今まで起きた出来事から、きっととんでもない援軍
が来るに違いないとは踏んでいたし、そう簡単に驚くまいとは思っていた。
 だが−−だが。それがたった二人で、揃って武闘派からはあまりにほど遠い
外見だとは。これはあっけにとられるなというのが無理な話だ。
 
「初めましてだね、鬼瓦刑事。貴方の事は聖也から聞いてるよ。子供の話も馬
鹿にしないで聞いてくれる、優しいオジサンだって」
 
 そう言ったのは、長い癖のある銀髪に紫色の瞳の人物。年は二十代前半か。
喋るまではてっきり女性だと思っていたが、男性らしい。その眩いばかりの美
貌もさながら、体格も華奢で服装も中性的−−というより寧ろ女性的だ。実際
腿と臍を剥き出しにしたジーンズ系のパンツもジャケットもボーイッシュな
女モノっぽく見える。。服装のせいか若干胸があるようにさえ見えてしまうの
で、これは間違えても仕方あるまい。
 思い出したのは照美の事だ。あの子も成長したらこんな大人になるのだろう
か。男性的な体格になった彼は、今の鬼瓦にはとても想像がつかなかった。
「僕は“煉獄の死神”、クジャ。聖也率いるチーム・ラストエデンでは、遠距
離射撃と諜報活動をメインにやってるよ。射撃って言っても魔法射撃だけど
ね」
「は、はぁ…」
 ちらり、と隣の部下二人を見る。佐藤も高木も、やや惚けたような顔で目の
前の美青年を見ていた。想像していた戦闘要員の姿とはかけ離れていた事もあ
るだろうし、女優顔負けの美にあっけにとられたのもあるだろう。
 魔法、という言葉を否定する事さえ忘れているらしい。言わずもがな鬼瓦は
もはや魔女や魔法を信じないわけにいかない立場だ。いちいちツッコミを入れ
る事はしない。
 
「そして僕の隣にいるのが“鉄槌の獅子”ことスコール。この子の得意分野は
正面突破と密偵になるかな。今回僕とこの子と、あと裏方二人で仕事をさせて
貰う事になる」
 
 クジャの隣にいたのは、蒼い切れ尾の眼に焦げ茶髪の青年−−いや、まだ少
年と呼べる年であろう、人物だ。まだ高校生かそこらの年ではなかろうか。す
らりと長い手足はまだ細く、全体的にまだまだ華奢である。クジャが派手な美
ならばこちらは冷厳な美。整った顔はよく出来た絵画のようですらある。額に
刻まれた傷ですらその美を損なうものにはならない。
 実はタレントでした、と言われた方がまだ納得できるだろう。そんな彼ら−
−しかもたった二人が、このハードミッションにあてがわれるとは。聖也は一
体何を考えているのやら。
 
「援軍って…たったの四人ですか…!?
 
 佐藤が明らかに動揺して声を上げた。普段は冷静な彼女が、この場所が人目
につく喫茶店の中である事を失念した瞬間である。
「む、無茶です!ビルに配備された人員はおおよそ二十五人はいるのに…しか
も人質を救い出すのが今回の目的です!それを我々七人だけでやるだなんて
…そんな…!!
「佐藤美和子巡査部長、といったか。あんた」
 そんな佐藤を遮るように、スコールが口を開いた。少年らしからぬ落ち着き
払った声だ。
「我々四人だけで充分。上はそう判断したからこそ我々を寄越した。意味のな
い采配などけして無い…サッカーの試合と同じようにな」
「……!」
「それに」
 スコールはやや睨むような眼で、敏腕女刑事を見る。
 
「下された命令に対し、余計な言い訳はせず黙って従い全力を尽くすのが優秀
な兵だ。信頼出来る上司なら尚のこと。どんな仕事であろうと俺達は全力で望
むだけだ」
 
 その眼が言っている−−不満があるなら帰れ、足手まといは要らない、と。
気圧された佐藤が冷や汗をかいて押し黙る。
 鬼瓦はつい、まじまじとスコールを観察してしまった。顔立ちはまだまだ幼
さが残るし、子供と呼べる年に見えるのに−−なんと意志の強く洗練された眼
をしているのか。
 優秀な兵、と言った。ひょっとしたら彼は軍人としての経験が長いのかもし
れない。その言葉は、山のような修羅を乗り越えてきた者の重みがあった。
 
「…相手はアルルネシアの配下だ。聖也だってけしてナメてる訳じゃない。当
然、僕達もね」
 
 長い髪をなぶりながらクジャが言う。
 
「少々準備はいるけど。このメンバーなら千人だって軽く相手に出来る。まあ
今回は貴方達と人質がいるから、切り込み隊長はスコールに任せて僕は防御に
徹する事になりそうだけどね」
 
 まるで自分と佐藤と高木が、お荷物であるかのような口ぶりだった。若干腹
は立つが事実なので仕方ない。自分達は刑事だが、あくまで“それだけ”だ。
特別な力など何一つ持たないし、常識と法律に縛られた戦い方しか出来ない。
彼らのような超越者からすれば、足手まといも同じなのだろう。
 そして荷物になるのが分かっていながら、彼らがアジト突入に自分達を突き
合わせる訳は分かっている。あの場所に豪炎寺夕香や要人達が捕らえられてい
たという、証人が欲しいのだ。犯人グループを現行犯逮捕して動きを封じてし
まいたいのもあるだろう。となれば、自分達をお留守番させる訳にもいくまい。
 
「…愛知県警には話を通してある。我々三人だけならば、今すぐにでも動く事
が可能だ。お前さん達の作戦を聴かせてくれんかね」
 
 感情を押さえ込み、鬼瓦は言う。
 拳銃の携帯許可も取ってある。防弾チョッキも装備済み。あとはクジャ達の
作戦を聞いて判断するつもりだ。
 もしあまりにも無謀な作戦ならば、佐藤と高木には外れて貰う。最低、警察
の証人は自分一人で充分な筈だから。
「そう焦らないでよ。残念だけど作戦決行は今日じゃない、明日だ」
「明日…?」
「言っただろ、準備がいるって」
 どさくさに紛れてチョコパフェを注文しながら言うクジャ。その顔は状況に
似合わずにこやかだ。
 
「当日は二手に別れて突入する。僕ら五人が正面から、あと二人が裏口から。
アジトの入り口がもう一カ所あるのも調べがついてるからさ、裏方二人はそっ
ちを塞ぐ」
 
 警察の特権を使わないテはないでしょ?と美貌の青年は微笑む。スコールは
相変わらず黙り込んだままだが。
 
「ちょっと汚い手を使って貰う事になるかもだけど…いいかな?」
 
 
 
 
 
 
 
 空港まではかなり時間がかかった。知る人ぞ知る、よく混むと悪評高い交差
点。あろう事かその手前で玉突き事故が発生し、片道車線から来るハンパない
渋滞が発生していた為である。
 やっと駐車場に辿り着いた時。塔子はややぐったりと座席に沈みこんだ。
「裏道…通れなかったのかよ?」
「あのな塔子…バスだぞこれ」
「そーいやそうだった…」
 土門の実に真っ当なツッコミに、ぐうの音も出ない。
 件の交差点が混みやすい原因は、大きな国道との合流地点である事もある
が、付近に飲食店が多いせいもあった。駐車場に入る車に出る車。強引に抜け
ようとする奴や運転が下手な奴が一人いるとそれだけで渋滞に繋がるのであ
る。
 と、塔子が妙に詳しいのには理由があった。あの辺りよくスミスの車に乗せ
てきて貰い、助手席から見ているのである(実はやんちゃして無免許運転をし
た事も複数回あっry…げふんげふん)。普段は冷静なスミスが、苛つきがMAX
になると途端豹変して暴言を吐きまくるのも知っていたりする。
 
「けどさぁ、そもそも高速乗ればこうはならなかったし。一個手前で左に折れ
ればだいぶマシだったんでない?」
 
 するとそんな塔子の呟きを拾ってか、運転手の古株が疲れた声で返してき
た。
「高速はもっとドデカい事故で渋滞してたんじゃよ。一個手前…は…カーナビ
の推奨ルートを外れたくなくてだな…」
「え?推奨ルート外れたらすぐ新しいルート計算してくれるナビじゃない
の?」
 まあ種類によっては、ルートを外れると“ルートを外れています”ばかり繰
り返しちっとも修正してくれない残念なナビもあるが。イナズマキャラバンの
ナビはそれなりに値の張る代物だった筈だ。というか雷門理事長が安っぽいナ
ビをキャラバンにつけるとも思えない。
 
「…このナビの計算能力はアテにしない方がいいのよ…。私の私用車もたまた
ま同じナビなんだけど」
 
 意外なところからフォローが入った。瞳子である。心なしか遠い眼だ。
「ルート計算した途端現在地と地図がズレる確率30%。あとたまにとんでも
ないルート指示してくるわよ。中央に縁石のある二車線道路に右折で出ろ、と
か…」
「…クレーム言っていいレベルじゃないですかそれ…」
 普通の二車線道路に右折指示ってだけでうんざりするというのに−−もは
やどうしようもないだろう、それは。
 
「ま、まぁいいじゃん!なんとか着いたし、念の為超早く出たからまだ飛行機
出るまで時間あるだろ?」
 
 気まずい雰囲気を払うように円堂が言う。そうだ、何はともあれ空港には着
いたのだ。その経過は忘れてしまおう。ここからは飛行機が出るまでの時間を
いかに潰すかだけ考えればいい。
 この空港にはいろんなお土産屋もあるし、最近入った美味しい餡蜜屋さんも
あると聞いている。ちょっとしたレジャー施設だ。そう苦もなく時間を潰せる
事だろう。
「僕はさくっとご当地限定グッズをゲットしたいのです!まだ空港のは集め
てなかった筈…っ!」
「おい待てや目金!抜けがけは許さねーぞ!!
 どっぴゅーん!というスピードでキャラバンを飛び出していく目金と、それ
を追いかける聖也。お前ら頼むからその瞬発力を試合で生かしてくれ、と思う
塔子である。
「荷物出しさり気なくサボりやがってあいつら…後でシメるか」
「協力するで、ダーリン☆」
 そしてドス黒い会話を繰り広げる一之瀬とリカである。目金と聖也の安否な
ぞどーでもいいが(シメたい気持ちには同意する)頼むから周りに被害は出さ
ないでくれよ、というのが本心だ。
 我々超次元サッカープレーヤーがガチでマジな喧嘩をやらかしたら死人が
出る。絶対出る。少なくとも必殺技の余波で周囲の建物が損壊する。
 
−−そーいや飛行機かぁ…みんなは乗った事無かったりするのかな?
 
 気になったので、荷物降ろしをしながらさり気なく訊いてみた。
 
「因みに飛行機乗った事ある人〜挙ー手」
 
 すると当然渡米経験のある土門&一之瀬は手を上げる。夏未もだ。しかし他
のメンバーは誰も手を上げない。
「あれ、塔子はあるのか?」
「あのな円堂…あたしのパパが総理大臣だって忘れてない?」
「あ、そーいやそうだった。塔子ってお嬢様っぽくないからさーつい」
「相変わらずデリカシーの欠片もないわね貴方は!」
 円堂の発言に対し、夏未がぱしりとその後頭部を叩く。塔子は苦笑いするし
かない。
「いいっていいって!あたしも色々やらかしてるしさー。家出して飛行機で国
外まで逃げた事もあったなあ」
「え゛」
 あれ、何故みんな固まるのだろう。自分はそんなにおかしな話をしただろう
か。
 お嬢様っぽくも女の子っぽくもないと言われる塔子だが、それでも感覚は一
般人からズレている。本人に自覚はないのだけれど。
 
 
 
NEXT
 

 

どうでしょう、一緒に此処で!