悪い夢にダイブして。 喰らい尽くして忘れられたら。 傷だらけの過去さえ無かった事にできればなんて。 甘い夢なら見飽きてるのに。 この背中に、白い翼は 無いとしても。 5-9:召喚、リヴァイアサン。 貸し切りにした、という夏未は本気だったらしい。広い浜辺には夏にも関わ らず人っ子一人いない。−−いいのかこれ…実は犯罪じゃないのか。塔子は頭痛がした。確かに浜辺で特訓したいとは願っていたが、少々やりす ぎてるのではなかろうか。まあ自分も総理大臣の娘としてアレコレやった過去 はあるので、あまり大きな事は言えないが。そんなこちらの意向もなんのその、当の夏未達は着々と準備を進めていく。 秋や春奈ももはやツッコミを放棄しているらしい。スルーする気満々で夏未を 手伝っている。「幾つか練習メニューを組んでみました。浜辺で特訓できる機会なんてそうそ うないですからね」 春奈がボードをひらひらさせながら言う。「砂浜はグラウンドと違って足場が不安定で、イレギュラーバウンドを起こし やすいです。走るだけでも消費するスタミナは段違いでしょう。その代わり、 倒れた時のダメージも軽減されるでしょうが」「足腰を鍛えるいい機会って訳だな」「ええ」普通に歩くだけでも、砂浜になれてない自分達は苦労する。走るならさらに その上を行くし、ドリブルなんてキツい事間違いなしだ。「この砂浜でもドリブルできるだけの脚力と、地面に落とさないでボールを繋 ぐコントロールが要求される。それを実戦で学んで身につけようって訳だな」「正解です土門さん」春奈の提案はこうだ。まずランダムでチームを分けてサッカーバトルをす る。一番最初は全員が砂浜に慣れてない為まずまともな勝負にならないだろ う。決着が着く着かないに限らず勝負は一端十五分で切り上げる。そしてバト ルを行った八人がプレイした感想を、その他のメンバーが見ていた上でのアド バイスを言う。そしてそれを吟味した上で同じメンバーで二回戦。一回戦目から、言葉と感 覚だけでどれだけ改善できるかが課題だ。技術をいかに早く吸収し成長させる かがポイントになるだろう。そしてまたゲーム後に互いに意見交換をした後、 今度は見ていた人間を中心に次のチームを組む。ちなみにメンバーをアトランダムで選ぶのも理由がある。チームにはありが ちな、“連携力の偏り”を消す為だ。誰と組むか分からない。不利な配置をさ れるかもしれない。その中でいかにその場の発想力と対応力で切り抜けるかが 鍵になってくる。チームの誰とでもとっさの連携が組めなければ強敵には勝て ないのだ。エイリア学園は、そんな甘い相手ではない。「GKですが…キャプテンは固定しますが、立向居君はMFと交互にやって貰 います。私個人の考えですけど、立向居君はGK専任にするより、オールラウ ンダーとして育てた方がいいと思うんです」「それは、私も同じ考えよ」 春奈の提案に、瞳子も頷く。「陽花戸でのサッカーバトル。MFとしての貴方の働きはなかなかのものだっ たわ。ただし、GKとして長かったからか、キック力とスタミナに不安が残る の。GKにだって体力は要求されるわ。このまま懸念材料を放置するわけには いかないの」監督の話に、立向居は真剣に耳を傾けている。塔子は素直に感心していた。 春奈も瞳子も、チームの見るべきところをしっかり見ている。身体能力が武器 になるのがサッカーといえど、時には相手の弱点を見抜く観察眼一つでひっく り返される事がある。自分も学ばなければなるまい。「立向居君がフィールドプレイヤーになった時は、秋先輩にGKをお願いした いんですけど。大丈夫ですか?」「え?私なんかでいいの?」秋はびっくりして眼を丸くしている。塔子は苦笑してついフォローに入っ た。「何言ってんだよ。陽花戸のミニゲーム、見事なもんだったぜ?あれだけしっ かりゴールを守っておきながら何を言う」「そ、そうかな」「ほらほら。そんなちっさくなんないの!!」 秋しかいない、と。そう思っているのは塔子だけではないだろう。相変わら ず謙虚な娘だ。それが彼女の魅力でもあるのが、もう少し自信を持ってもいい 気がする。サッカーの実力に限った話ではない。陽花戸中で−−沈んだ太陽を再び登ら せた立役者は彼女ではないか。秋がいなければ、きっと円堂は立ち直る事が出 来なかっただろう。加えて−−理由を挙げるならもう一つ。GKは消耗しやすいポジション。正 GKは円堂で次点が立向居だが、もう一人くらい控えがいてもいいように思 う。というか控えは何人いてもいいほどだ。円堂が疲労し立向居も負傷して−−なんてパターンは滅多にないと思うけ れど。念には念を入れるべきだ。現状、円堂と立向居を除けば、秋以外にゴー ルを任せられる人材はいない。そしてその秋も今までずっとマネージャー専任だったのだ。実戦でフル出場 させられるだけの体力がまだないだろう。彼女のスタミナを鍛える意味でも、 この練習は効果的な筈だ。「一番最初のゲームは立向居君にもGKをやって貰いましょう。というわけで 皆さん、くじ引きお願いします〜」「準備ええなぁ春奈…」いつの間に作ったのやら、春奈の手にはくじ引きの箱がある。多分壁山が大 量買いした愛媛みかんの箱あたりを改良したのだろう。綺麗にピンクの色紙で ラッピングされてるあたりが女の子らしい。「Tが立向居君チーム。Eが円堂さんチーム。それ以外の方はベンチです」それ以外って何だそれ以外って。塔子は思いながらくじを引いて−−思わず 顔をしかめた。“今後の出番に期待しましょう”って何なんだ。ハズレなら普 通にハズレと書けばいいではないか。「これで決まりましたね。発表します」GK 円堂 DF 吹雪 MF&FW 照美 聖也 MF&FW リカ 緑川 DF 壁山 立向居「聖也と一緒…不安すぎる」「照美ちゃん!自分に正直すぎ!!」 うわぁ、とあからさまに顔をしかめた照美に、聖也が反射的にツッコミを入 れる。「いいじゃん、ついでだから連携技のテストしようぜ!!それにディフェンスにはふぶちゃんがいるんだから多少無茶してもへーきだろ!!」 「なんつー他力本願…」はぁ、とため息を吐く照美。聖也のお守り頑張れよーと心の中で応援。奴に 眼をつけられたのが運の尽きだ。吹雪は二人の後ろで苦笑いしている。大丈夫なのかな、と塔子は思った。福 岡の戦いから輪をかけて様子がおかしい吹雪。風丸が死ぬ前、試合中から異変 は始まっている。恐らくは彼の人格障害が起因しているのだろうが−−細かな 事は彼自身にしか分からない。試合中の精神状態に加え、風丸の死。どうにか立ち直ったように見えるが− −それもまたいつ崩れるか分からない。このゲームを通して、彼の真実が見え てくればいいが。加えて、北海道育ちの彼には少々厳しい沖縄の気候。身体的な面にも不安要 素があるのは確かだ。この暑さに慣れなければ、今度の試合でまともに戦えな いだろう。−−対する立向居チームは…。ちらり、と見た先にリカと緑川。壁山と立向居が守りを固めているから守備 の心配はないが、照美達と比べれば攻撃力で劣るだろう。その代わり、波の激 しそうな照美達と比べれば安定したプレーが出来る筈だ。−−まあどっちにせよ…この砂の上でまともに走れたらの話なんだけどな。先に砂浜を攻略した者が勝つだろう。これは体だけではない、頭もフルに使 った勝負になる。「それでは…サッカーバトル、開…」「ちょっと待って、古株さん」開始のホイッスルを吹こうとした古株に、突然夏未が制止をかけた。ボール を蹴ろうとしていたレーゼが勢い余ってすっころぶ。うわあ、あれはちょっと 可愛い−−とそうではなくて。 何だ。一体何が起きたのだ?「そこの貴方!一体何をしてるの!?」 夏未が見ていたのは海だった。その視線を辿り、塔子も気付く。波間に、青 い海の色とは真逆の派手なピンクがちらちらと見えている。人だ。遠い為分か り辛いが、恐らく少年。最初は溺れているのかと思った。しかし、段々と彼が波間に漂っているので はなく、波の上を滑るように移動しているのが分かった。サーファーだ。大きな波が来るたび、彼はまるで波を操るかのようにボード を滑らせ、その上を渡っていく。知識のない塔子には、それがどれだけの技術 かなど分からない。サーフィンなどTVの中でしか見た事が無かったからだ。 ただ。凄い、と。そう思った。−−海と…踊っているみたいだ。上がる水飛沫。キラキラと光る様は、どこか幻想的ですらある。しばし、魅 入られてしまった。その様があまりに綺麗だったから。「ちょっと!そこのサーファーさん!!貴方に言ってるのよ!?」 夏未が再び叫ぶ。さすがに今度は聞こえたのは、彼は巧みに波を操りながら こちらへ近付いてきた。そして。 ざばん。一際大きな波に乗ったかと思うと、次の瞬間彼は勢いのまま跳んでいた。宙 に舞い、派手に着地した先は−−なんて雷門イレブンのサッカーバトルのフィ ールド、そのド真ん中だ。「おいっ!何すんだよ、危ないだろ!!」 思わずカチンときて叫んでいた。するとピンク髪のサーファーは眼をぱちく りさせて塔子を見、ぱしり、と時間差で飛んできたボードをキャッチしていた。「やー、悪ィ悪ィ。ちょっと派手に登場しすぎたか?」「そういう問題じゃないっつーの!」「はははっ威勢がいいなあんた」少年が向日葵のような−−そう、円堂によく似た眩しい顔で笑うので、つい つい毒気を抜かれてしまう。「…まったく。この辺りのビーチは今雷門財閥名義で貸し切ってる筈なんだけ ど?知らないの?」 夏未が呆れたように言うて、彼は“悪かった!”と手を合わせてきた。「波に任せてずーっとあっちの方から、海岸沿いに回ってきちゃったんだよ な。そうか、貸切かあ。だからこっち人がいなかったんだな!」「その時点でおかしいと思いなさいよ、もう…」ため息を吐く夏未。部外者を頑なに排除したい彼女の気持ちが分からないで はない。雷門の必殺技飛び交うサッカーバトルは、一般人からすれば危険極ま りないのだ。下手に入り込まれて巻き込んでしまっても、正直責任はとれない のである。無理矢理脅して貸し切り、は確かにやりすぎているが。一般人の安全を守る 事を考えれば間違った選択ではない筈だ。「へぇ、お前らサッカーやんのか!俺も最近始めたところなんだぜ、ノリで!」ニカッと笑う少年。サッカー、と聞いて真っ先に食いついたのが円堂だ。さ すがサッカーバカの名は伊達じゃない(←一応誉めている)。「お前もか!同じくらいの年だよな?もしかして大海原中?」「お、正解!」ボールを拾い上げ、彼は拙いながらもリフティングを開始する。始めたばか り、にしてはなかなかのボールコントロールだ。「大海原中三年、綱海条介!よろしくなっ!!」 「さ、三年!?」 びっくりびっくら、あちこちから声が上がった。健全な中学生たるとも、年 上へのタメ語はまず御法度だ。 だが綱海は笑った。「んな事、この海の広さに比べたらちっぽけなもんだ。気にすんな」 NEXT |
君の記憶に突撃しようか。