拳を上げて。 握り締めた希望を右手に。 戦う勇気を持った者達が導く。 この世界の夜明けに。 この背中に、白い翼は 無いとしても。 5-11:旋律の魔術師。 最終的にサッカーバトルがどうなったかと言えば。照美のチームがどうにか 三点先取し、勝利するに至った。だがレーゼのチームも二点取っている。単な るサッカーバトルの範疇に収めるには惜しい、大接戦だった。聖也はちらりとレーゼの方を見る。唇を噛み締めて俯いてる姿は可愛くて萌 ぇry…とそうではなくて。 −−実は相当負けず嫌いだもんなぁ、リュウちゃんは。それが彼の強さでもある。レーゼが魔女としての力を解放すれば、照美達相 手でも容易く勝てた筈だ。それを禁止したのは自分である。魔女の力はおいそ れと使っていいものではない。いずれ来るアルルネシアとの決戦で本気を出す 為には、予め制約を守って力を蓄えなければならないのだ。歯痒いに違いない。だが分かって欲しい。彼に与えた力はそれほどまでに強 大だ。そして強すぎる力は大いなる破壊の引き金にもなりかねない。時として 守るべきモノさえ壊してしまうほど。力を得れば失うモノもある。だがレーゼには人としての幸せをも掴んで欲し いのが聖也の願いだ。どうか気付いて欲しい。取り返しのつかない何かを失っ てしまう前に。「全体的に、フィジカルに不安が残る人が多いと思う」 さっきのゲームを観察した上で、秋が発言する。「そしてこれは…特に吹雪君なんだけど。体格をカバーする為に脚力に頼りす ぎてる。足にかかる負担がかなり大きい筈」「さすが。よく見てる」 吹雪が苦笑する。「あとは…壁山なんだけど。立向居に下げた判断力はなかなかだと思う。頭脳 プレイが完全人任せだった頃に比べればかなり成長したかな」「そ、そうっすか?」「うん。でも決断が遅い。決断してから動けるまでがまた遅い。身体的な足の 速さは仕方ないとして、これはなんとか克服しなきゃね」「うっ…」一之瀬は結構容赦ない。一瞬喜びかけた壁山はあっさり沈没した。だが彼の 指摘は極めて的確で的を得たものだ。壁山もそれが分かってるから反論しない のだろう。「サッカーって結構観察力大事なんだな…お前ら凄ぇよ。いつもこんな会議し てんのか?」「まぁな」目をまん丸にする綱海。まあ会議と言えば会議かもしれないなぁと聖也は思 う。意見交換と柔軟な発想が必要なのは、サッカーに限ったことでもないだろ う。「なぁ、綱海はサーファーだろ?何でサッカー始めたくなったんだ?」 円堂が尤もな質問をする。それは皆が気になっていたことだ。「ん〜…まあノリなんだけどなー。団体競技で盛り上がるのも楽しいだろって のと」 ぽんぽん、とボールを手で弾ませる綱海。「浜辺でいっつもさ、一生懸命練習してる奴がいて。同じくらいの年の奴なん だけど…とにかくそいつ見てたら、サッカーも面白そうだなって」「同じくらいの年の奴って…大海原中じゃないのか?」「違う。名前訊くの忘れたんだけど、えーと…何つってたっかな」あちらではまた木暮と目金がわーわー騒いでいる。目金の大好きなアニメの キャラソンCDに落書きしたらしい。プチキュアまみちゃん達が髭のオッサン になった!と目金が悲痛な叫びを上げている。学習能力のない目金も目金だ が、練習中まで悪戯に余念がない木暮もどうかと思う。「ああ、そうだ!エイリア学園と戦う雷門中の人間だって言ってたんだよ! ん?お前らも雷門中だっけか?」「!!」 聖也ははっとして、思わず隣の円堂と顔を見合わせた。円堂は、豪炎寺が沖 縄に潜伏していた事を知らないからもっと驚いた筈である。まさか綱海が豪炎 寺て接触していようとは。沖縄に豪炎寺がいる。夕香を救出するまで動けないにしても、試合を見に来 る事くらいは出来るだろう。エイリアの実験の件もある。もしかしたらまた悲 劇が起きるかもしれないけれど−−彼が見守ってくれるならそれだけで気持 ちが違うというもの。−−…魔法、か。サッカーは皆を笑顔に、幸せにする魔法。その言葉が自分達の信念であり真 実だ。豪炎寺も無意識に同じ魔法を使ったのだろう。その姿で綱海を魅了し、 サッカーの世界に引きずりこんだのだ。なんだか、嬉しくなった。どんなに離れていても自分達は繋がっている。サ ッカーが、自分達の絆になる。それが何よりの支えになるのだ。自分達のしよ うとしている事、してきた事は間違いではない−−そう信じられる。 さりげない事かもしれないけれど。今の自分達には何より代え難い事だ。「綱海」さくさくさく。砂を踏む足音と、綱海を呼ぶ声。綱海が振り向き、聖也もそ ちらを見る。そして、目を見開いた。 一目で分かったのだ−−彼が“魔術師”であると。「うぃ!?音村なんで!?」 立っていたのは水色髪に眼鏡をかけた少年だった。さほど背は高くないの に、どこか大人びた雰囲気を持っている。音村、というのが彼の名前らしい。 目をまんまるにしている綱海に、音村は苦笑して言った。「今からそっち行くよ、ってメールしたんだけど。気付かなかった?」「あーいや…今練習やってたからさあ。ってかよく分かったな、俺が此処にい るって」「君の行動パターンは単純だから。僕じゃなくても分かるんじゃない?」どうやら綱海とはそれなりに親しくしているらしい。聖也は注意深く、音村 と名乗った少年を観察した。人間だ。それは間違いない。そして人間の中にも魔女や魔術師の力(円堂や 影山、レーゼなど)を潜在的に持つ者はいる。だが−−人間の身体と寿命のま ま、魔術師や魔女の力をほぼ完全に覚醒させている者は極めて稀だ。音村。彼は魔術師の力を目覚めさせ、既にほぼ完璧に使いこなしているのが 見てとれた。身体も脳も普通の人間なのに、その力に耐えきっている。今まで たくさんの“素材”を見てきたが、ここまでのケースはまだ“二人”しか見た 事がない。「初めまして、雷門イレブンの皆さん」 音村はこちらに向かって深々と頭を下げた。「今日この時間、君達がこの場所に来るのは分かっていたんだ。僕は大海原中 サッカー部キャプテン、音村楽也。よろしくね」「ああ、よろしく!…でも来るのが分かってたって…どういうこと?」 円堂がきょとんと首を傾げる。うわおその仕草超かわえryげふんげふん。落ち着け自分。ここはいくらなんでも暴走するべきところじゃない。「そいつ、魔術師なんだよ」 聖也はなんとか自重して、真面目顔を作った。「さながら“旋律の魔術師”ってとこか。しかも…“ホンモノ”だ。人間の身 体でよく今日まで生きてこれたな、お前」「お会いできて光栄だよ“終焉の魔女”。まあ、僕は生まれついてのキチガイ だからね。後天的に力を得たなら、きっと自殺するか狂って廃人になってたん じゃない」「え?え?ちょ…分かるように説明して?」「つまりだな」 混乱する円堂達に解説する。魔女や魔術師の力は様々な形態がある。超能力に当てはめて大別するならば ESPかPK。ざっくり説明するならESPとは“常人が知れないモノを知る”力で あり、予知や透視、読心などが該当する。そしてPKとは“常人ができない事をする”力であり、念動力などが該当する。早い話何かを“見る”のがESPで何かを“手を触れずに動かす”事などがPKなのである。もっと詳しく説明すればESPやPKにも様々な種類が存在するが、円堂の頭がパンクしそうなの でそこはすっ飛ばした。 音村は前者のESP特化である。彼は“有り得ないモノ、人あらざるモノ”を見る事が出来、かつある程度人の心が読め、未来を見る事が出来るのだ。能力 制限をバリバリにつけた聖也でさえ一目で看破できるほど強い力である。だが それだけの力を持つならば、相応の代償もまた要求されるというものだ。人間が強すぎる“魔力”に耐えられない最大の要因はその脳にある。例えば、 毎日たくさんの死んだ人間が見え、もがき苦しむ感情が自分の中に入ってくる ようになってしまったらどうだろう?大抵の人間は数日と保たずに発狂する に違いない。覚醒した魔女や魔術師がその力に耐えられるのは、根本的に脳の 構造が違う上、不老長寿の肉体を得ている為なのだ。音村はそれだけの力を持ちながら、人間のまま今日まで生きている。恐らく 生まれついて彼の脳だけが“生粋の魔術師”だったのだ。そうとしか考えられ ない。「…けど、僕の脳以外は普通の子供に過ぎないから。多分僕は長生きできない んだろうね。身体の方にもそのうちガタは来るし、世界からも代償請求が来る だろうから…何かに巻き込まれて殺されるかもね」まったく物怖じせず、音村はあっさりと言い放つ。自分の生死に関わる話を しているようには到底見えないだろう。だが。だからこそ彼は“魔術師”なのだ。自らの生も死も超越した場所に、 最初から立っている存在。その異質な“人間”が今や魔女大戦になりつつある サッカーに関わっていようとは、夢にも思わなかった。 これも何かの導き、なのだろうか。「俺達が来るのも、予知で見たから知ってたって事?」「正解だよ、“断罪と浄罪の魔術師”君。まあ見える範囲には限界があるし、 見えるタイミングもまちまちだから…君達のビジョンを見たのは精々二時間 前なんだけどね」円堂を指して“断罪と浄罪の魔術師”と言った音村。やはり本物だ、と聖也 は確信を深める。アルルネシアは円堂を“断罪の魔術師”と呼んだが、その実 円堂にはもう一つ称号があるのだ。“浄罪の魔術師”。人を赦し、罪を洗い流す力。そう、円堂は二つの相反す る力を持っているのだ。まだ眠っている力を音村は正確に言い当てた。聖也も 実際はESPとPKの能力を両方持っているが、ESPに関しては音村に劣るかも しれない。万年を生きた、大魔女である自分が。「綱海君。とりあえず着替えて部室に来てくれるかい。あと君達にも…お願い があって来たんだ」 音村はにっこり笑って言った。「僕ら大海原中と、試合をして欲しい」「試合?」 一之瀬が身を乗り出す。音村は頷いた。「僕はこの先に起こる未来のビジョンを見た。エイリア学園がどんなチームを 送りこんできて試合の中で何が起こるかも知っている。…けど、そこで起きる 悲劇をどうすれば回避できるかはまだ分からない」悲劇。その言葉が自分達の胸にのしかかる。今までは漠然とした暗い予感だ ったのが、“旋律の魔術師”たる音村が宣言した事でほぼ確定してしまった。やはりまた−−悲しい事が起きるのか。自分達は失う覚悟を決めて試合に臨 まねばならないのか。「出来れば、みんなに幸せになって欲しい。僕達大海原中が戦う方が最善か、 君達雷門が戦うのが最善か…それを確かめたいんだ」確かめたい、という事は本来彼の中で既に答えは出ているのだろう。面白い、 と聖也は思った。本物の“魔術師”と戦える機会が早くも巡ってきたのだ。生 かさない手はない。 円堂に目で合図する。円堂も頷いた。「いいぜ!その勝負、受けて立つ!!」 果たして本物の魔法を相手に、雷門はどこまで戦う事が出来るだろうか。 NEXT |
歴史に残らぬ革命だとしても。