ループに似の荷合わせ。
転がらないのはリミット?
 ロンリネスな論理振りまいて。
つまんないから病んでまた不安定。
 
 
 
 
 
この背中に、
白い
無いとしても。
5-17:イバー、スター。
 
 
 
 
 
 最終的に−−試合はそのまま二対一で終了。勝ったのは雷門イレブンだっ
た。
 
−−負けたのに…面白い試合だったな。
 
 見えたのに勝てなかった。こんな戦いがあるなんて。音村はどこか清々しい
気分だった。見えてしまえば何もかも退屈だろうと思っていたら、そんな事も
ない。見えても回避できない未来があるならば、自らの手でそれを作り出す事
も可能。雷門はそれを証明してみせたのだ。
 見える力−−自分の、力。音村はそれを好ましいとも嫌だとも思っていなか
った。何故ならそれは物心ついた時から当たり前のようにあったもの。自分の
右手を嫌う人間が稀であるのと同じ。当たり前の事に深い感情を抱く事は少な
い。音村もまたそうだった。
 ただ、この力のせいで酷く退屈な人生を送る事になるだろうとは理解してい
て、それは少し残念ではあったけど。
 今。生まれて初めて音村はこの力に感謝した。この力があるから、見えた。
そして。
 
「戦ってくれてありがとう。沖縄の戦い、君たちに任すよ」
 
 その悲劇を回避する方法を、探す事が出来る。
「時に…聖也君」
「何だ?」
「ちょっと個人的に話したい事があるんだよね。後で聞いてくれるかい?」
 個人的に。聖也はすぐ悟ったのだろう、一瞬顔を強ばらせて−−すぐいつも
の、ちゃらけた笑みを浮かべた。
「うわぉ、何かな?俺告白されちゃったり?音村クンなら大歓迎よ〜」
「地球が滅んでもそれはないです、安心して下さい聖也さん」
「みやちゃ〜ん(涙)」
 真っ黒笑顔で宮坂に言われて、涙目になる聖也。そのまま抱きつこうとして
必殺技を食らっている。どうやらそれがパターンらしい。
 
「…音村さん」
 
 そして。音村の聖也への言葉に、気付いた者もいる。レーゼが険しい顔でこ
ちらを見ていた−−そう。
 音村は緑川リュウジと名乗る彼が、ジェミニストームのキャプテンであった
レーゼと同一人物であると分かっていた。どんな姿を変えたところで、魂の形
を変える事は出来ない。
 魂の姿をダイレクトに見抜ける音村には、目に見える変装など無いも同然だ
った。
「何かな?“祝際の魔女”、レーゼ君」
「…やっぱり気付いてたのか。私がレーゼだと」
「まあね。…でもそんな問題にするほどでもないでしょう」
 彼が抱く罪の意識。裁かれなければならないという切迫感。全て手にとるよ
うに見える。彼は魔女だが、自分と違って生まれついての魔法使いではない。
自分と比べて遙かに人らしい魂と脳を持っている。
 
「大事なのは今の君の魂。君の意志。それに購いは後でも出来るけど、今目の
前にある問題を解決するのは今しか出来ない。違うかい?」
 
 それに−−実際のところレーゼは被害者の最たるところだ。彼は洗脳され、
記憶を書き換えられていた。自分の意志で従う道をとったマスターランクなら
いざ知らず、そこに彼の意志と呼べるものはない。
 けれどそれを言ったところで、今の彼には届かないだろう。下手な慰めと解
釈されたら、より傷つけてしまうだけだ。
 
「…恩に着る、旋律の魔術師」
 
 やがてレーゼは、そう言って笑みを作った。
 
「君に訊きたいのは、未来の事だ。私は人の本質は見えても未来は見えない。
…聖也に話とは、その未来の事じゃないのか」
 
 だろうな、と音村は思った。レーゼは見抜いたのだろう。自分が聖也の力を
借りようとしている事。そうでなくば避けられぬような未来を見たのだという
事を。
 旋律の魔術師。未来線を読み、風の声を聴き、他者の魂の形を見抜く力を持
つ異質な人間。だが、音村は“それだけ”だった。自分には見る力はあっても、
目の前を遮る邪なモノを祓う力がないのだ。精々それに侵されないよう、仲間
達にアドバイスをするくらいが関の山である。
 本気で遮るモノを除けたいならば。もう一人、“祓う”力に長けた魔術師か
魔女の力が必要だった。今まで音村の周りにそういった存在はいなかった上、
特に悪夢を避けたいと思う感情も沸かなかったから放置していたのである。
 今は−−必ずしも違うとは言い切れないけれど。
 雷門が教えてくれた魔法。無力な人間の、強大な魔法を−−これからも見て
みたいと、そう思っただけだ。彼らがいればこれからを退屈しないで過ごせそ
うな気がする。そして彼らがいなくなったら、きっと自分はがっかりするのだ
と思う。
 真剣に未来を生きる彼らからすれば、極めて不純な動機かもしれないが。ど
んな理由であれ今音村は願っていた。彼らの未来に幸あれ、と。だからその為
に出来る事をしてみようかと、気紛れを起こしたに過ぎない。
 恐らく旋律の魔術師音村楽也の、最初で最後の気まぐれだ。
 
「悪いけど、僕は何も話さないよ」
 
 すっ、と。音村は唇に人差し指を押し当てて、微笑んだ。
「君も魔女なら知ってるだろう?魔女や魔術師は…力ある言葉を傲慢に振り
回すと同時に、自分の不利になる真実はけして明かさない。…未来はね、口に
すればするほど魔法となって世界を縛る。変えたい未来ならば尚更語りたくな
いとは思わないかい?」
「…確かにね」
 言葉は力。力は言葉。言葉にすればそれはまた一歩真実に近付いてしまう。
だから魔女や魔術師はうかつな言葉を口に出来ない。あまりにも、重い力を持
つからだ。
 だから音村は語らない。自分が契約すると決めた相手以外には。
 何より。その可能性を口にすれば未来はさらに選択肢を増やす。その先にさ
らなる悪夢がないとも限らない。ならばより語れる筈がないではないか。
 
「…分かった。でも、これだけは言っておく」
 
 レーゼはため息を吐いて−−苦しそうな声で、言った。
 
「私は…みんなが幸せになれる選択を君がしてくれる事を、願っているよ」
 
 皆。そこには音村も含まれると、暗に彼は告げていた。だから音村は−−皮
肉に思った。
 
「僕はいつだって、自分の幸せの為にしか行動出来ないよ。なんせ究極の自分
勝手だからね」
 
 今まではその幸せさえ、叶えばいいやと思う程度だったけれど。今は少しだ
け、祈れる気がした。自分の、自分達の、仲間達の世界の−−そんな幸せを。
 
 
 
 
 
 
 
『…守りたかった、って言ったな』
 
 頭の中で、綱海の言葉が回る。
 ぐるりぐるり、延々とループする。
 
『じゃあお前を護るのは、誰なんだ?』
 
 塔子は深く息を吐いた。さっきからどうかしている。綱海の事ばかり−−正
確には彼が言った言葉の意味ばかり考えてしまっている。
 何故彼はあんな事を言ったのか。試合中。自分を混乱させる為の作戦か、そ
れとも。
 
−−いーんだよ…あたしは。
 
 今まで当たり前のように護られてきた自分。愛する父がいて、仲間がいて。
だから今度は自分が誰かを護る番だと思った。そんな時、自分とは真逆の存在
である鬼道に出逢ったのだ。
 護るばかりで。ただ愛する者を無性の慈愛で護ろうとするばかりだった鬼
道。その時塔子は直感したのである。自分は彼を護る為に、今まで護られてき
たのだと。自分には力があって、彼は非力だった。強い自分が彼を護るのだと、
それは使命感にもよく似た感情だった。
 まあ実際成長して共闘してみれば、彼は護られるまでもなく強い少年になっ
ていたけれど。その心は、まだまだ傷だらけで。彼の身体だけでなく心まで護
るにはどうしたらいいのだろうと、そう思っていた矢先−−悲劇は、起きた。
 
−−あたしは鬼道が好きだった。大好きだった。…でも。
 
 ぎゅっと拳を握りしめる。
 
−−それは…ただ護る存在が欲しかっただけの、自己満足だったのかな。たっ
た一人の人だなんて思ったのは、勘違いだったのかな。
 
 そんな訳、ない。だが綱海の言葉で揺らされてしまったのも事実だった。自
分を護ってくれる人なんて、もういてはならない。まだ子供である以上ある程
度親の庇護下にあるのは仕方ないとしても−−それ以上は、望む事さえおこが
ましい。子供だからなんだ。女だからなんだ。少女漫画に出て来るような護ら
れ系ヒロインなんて、視界に入れるだけで虫酸が走った。
 言ってやりたい。お前らはそれでいいのか。そうやって護られた結果、お前
のせいで王子様が死んだらどうするんだ。そしたらまたメソメソ泣いて、今度
は王子様のお仲間の足手まといになる気かと。
 だけどそれは−−そう思うのは、ただの意地?
 自分はただ護る存在がいれば誰でも良かったのか?
 
「…塔子?」
 
 分からない。
 自分の事なのに、自分自身で答えが出ない。
「おい!塔子ってば!」
「あっ…」
 はっとして我に返る。どうやら何回も呼んでいたらしい。円堂が訝しげな目
でこちらを見ていた。
「ご、ごめん…ぼーっとしてた」
「珍しいなあ。…悩み事か?」
「何でもない!ちょっと考え事してただけだから!!
 こんな事、誰かに相談する話でもない。自分の心の問題だし、何より話すの
も気恥ずかしい。
 深く考えない方がいいかもしれない。そう思って、塔子はひとまず疑問を頭
の隅に追いやった。
「エイリアとの戦いまであと何日もない。でもこの沖縄が戦場になる事はほぼ
間違いないんだ、今日からはひたすら暑さに慣れる特訓だ!」
「キャン達も協力するよ〜!」
 はいはーい!とキャンが元気に手を挙げる。有り難い事だ。暑さ対策やスタ
ミナ強化は、やはり現地の者達が一番よく知っているだろう。彼らの協力があ
れば特訓一つとっても各段に効率が違う筈だ。
 
「暑さに弱いのは、エイリアも同じかもしれませんよ」
 
 ふと、思いついたように目金が言う。
「この暑さを逆手にとって、相手の体力を消耗させる戦い方も有効かもしれま
せん。前の戦いの時音無さんも言ってましたが、基本エイリアのチームに控え
がいないのも大きなポイントでしょう」
「うわ、目金がマトモな事言ってる。今日は雪でも降るんじゃないか」
「酷っ!ってか夏の沖縄で雪が降ったら世界が終わってますよぉ!!
 あはは、と笑い声が上がる。一之瀬も真顔でハッキリ言うなあと塔子は思っ
た。まあ確かに、目金と言えばフュギュアと必殺技ネーミングにばかり命を賭
けてるイメージが強いけれど。
 
「スタミナも大事だけど、動きの無駄を減らす努力も必要ね。正直貴方達の動
きはまだまだ無駄が多いわ。それで必要以上の体力を消耗してる」
 
 という訳で、と瞳子が取り出したのは小型カメラとセンサーだった。
「これでみんなの動きを徹底的にモニターして、一から洗い直すわよ。みっち
り鍛えるから覚悟して頂戴」
「あのー瞳子監督?その機材はどこから…?」
「お父さんの研究所から無期限で借りてるだけよ」
 いや、それは借りパクと言うんじゃ。
 段々キャラが壊れてきている瞳子。明るくなったのはいいが、ちょっと行き
過ぎてる気がしないでもない。
 
−−ま、いっか。監督もどんどんみんなと打ち解けてきてるって事なんだし。
 
 そんな塔子を、綱海がじっと見つめていた。塔子は気付いていたが、気付か
ないフリを貫いた。
 これ以上余計な迷いは、持ちたくなかったから。
 
 
 
NEXT
 

 

止まれば再び孤独の餌食!