おそらく、バッツに他意は無かったのだろう。最初はフリオニールの“夢”の話から始まったのだ。彼は、野薔薇の咲く世界 を夢見ている。以前ひょんな事から口にして以来、事あるごとにティーダ達に乙女チックだとからかわれていた。 けれど、笑われているわけではない。その夢があるからこそ、彼は前向きに戦い続けていると知っているからだ。 そこでバッツが始めた、もう一つの夢の話。「先見、っていう力を持つ人がさ、どっかの世界にはいたわけだよ」 旅人の彼は、いろんな地を見て回ったのだろう。時折なかなか興味深い話をしてくれる。愛すべきお馬鹿キャラ扱いの彼だったが、知識に関しては相当豊富だった。「何処の世界だったかは思い出せないんだけどさー。とにかく、未来の事を夢で見られるわけ」「未来を?予知って事?」「そうそ。正確には」 クラウド達が作ってくれたおにぎりを頬張りながら、バッツは言う。「正夢を見られる…っていうのが正しいかな」 数を考えずおにぎりを消費していく彼を注意しようとしたライトは−−その言葉で手が止まる。 正夢。昨晩のおぞましい夢の事を、思い出してしまった。「便利な話だねぇ、それは」 バッツの手をはたきながら、梅干しのおにぎりを確保するオニオン。「本当にそんな力があるならさー。すなわち未来を変えられるって事じゃないか。 悪い夢を見たらそうならないように、道筋を変えられるでしょ」「あー、信じてないな!?」 「理論的に有り得ないね」 マセた言動の割に、さっきからやっている行動が幼い。おにぎりを奪還せんと奮闘するバッツの手を余裕ぶってかわし、満面の笑みで海苔をかじる。勿論わざとだ。 いや、これはオニオンよりバッツの方が大人げないのか。おにぎり一個に地団太を踏むのはいかがなものか。時折彼の精神年齢を疑いたくなる。「未来の夢か…便利だけど、なんかちょっと怖いなあ。未来が見えちゃったら面 白くないし」 のほほんとお茶を飲むセシル、その前には空になったサンドイッチのケース。ボケボケしているくせにちゃっかり自分の分はキープしている。 ベースで片付けをしているクラウド達の分、ちゃんと残してあるだろうか。なんだか不安になってきた。「でもどうせ未来が見えるなら」 見上げた青い空に、セシルの呟きが溶ける。「この戦いの行く先くらい、知りたいもんだけどね…」 終わらない戦い。先の見えない、神々の闘争。どちらの軍も疲弊していくばかりで−−一向に、決着が着かずにいる。この戦いの終わりを、予知夢で見れたなら。それが良い夢ならば安堵出来るし、 悪い夢なら変えられる。 何が良くて悪いのか、その基準は別としても。「…まさか、な」 昨晩の夢が予知夢などであるものか。確かにリアリティの強い夢ではあったけれど。 あんな凄惨な未来など死んでもごめんだ。仲間達があんな風に壊れていくなんて−−あんな終着点なんて。「正夢になどしてたまるものか」 それが半ば自分への言い聞かせである事に、ライトは気付いていた。気付いていたが−−どうしようもなかい。 あの夢を否定出来ない自分を−−どうにかして否定したかったのだ。Last angels <語外し編> 〜0-2・はかない ゆめ〜 本日の撃破数、四十三。単位をつけないのは、ここに“人間”が含まれないからだ。今日は結局カオス 側の“本体”の誰にも遭遇しなかった。倒したのはイミテーションばかりである。 無限の軍勢、イミテーション。発明者は優秀かもしれないが、同時に相当悪趣味とみた。偽物とはいえ仲間と同じ顔をした相手を殺すのは気分が悪い。断末魔までそっくりだから尚更だ。 とはいえいくら姿は同じでも、戦闘能力はオリジナルを遥かに下回る。今のところ数で押してくる相手を、どうにか実力で持ちこたえていた。 だが−多勢に無勢なのは確かである。いつまで五分の戦いが出来るか。満身創痍でベースに戻ってきたスコールを見て思う。此処にいるのは精鋭ばかり。けしてその戦闘能力は低くないというのに。 昼の休憩時間。ライトは仲間達の元を離れ、次元城の付近を彷徨いていた。 この場所はいつも青空だ。歪んだ水色が頭上に広がる。此処もまたちぐはぐの断片だと示すように。「いつまで…続くのだろうな」 ポツリと呟いた言葉に、意味は無い。ただ一人きりで考える時間が欲しかった。 先の見えない戦いに、皆が不安を感じていると知っている。 カオス軍を繊滅するまで、この闘争は終わらないのか。とはいえイミテーションの数は日毎増すばかり。当のカオス本体を叩けば終わるのだとしても−−神への道は果てしなく遠い。自分達は未だ混沌の姿すら知らないのだから。 コスモスは何を考えているのだろう。彼女の負担を増やしてはいけないと分かっていながら、今自分は知りたくて仕方がない。 まだ自分は甘えているのか。最後に道を決めるのは、彼女ではないというのに。「終わらせたいか?」唐突に降った声。ライトはゆっくりと振り向いた。この次元城は“彼”の領域 −−姿を見せても不思議ではない。 逢いたい相手かどうかは、別として。「…何の用だ」 どうしてこうも悪役は高い場所から登場したがるのだろう。城の屋上に現れたエクスデスは、ライトの言葉に気を悪くした様子もない。 自分も鎧姿だが彼など顔面まで覆っている。その表情を伺い知る術はない。「今朝、夢の話をしていただろう。予知夢がどうとか…実に興味深い」 「立ち聞きか。いい趣味とは思えんな」 ストレートな非難に、大樹は鼻を鳴らすに留めた。「何とでも言うがいい。…架空の夢は、無からは生まれん。無から生まれるのは “現実”のみよ」 ファファファ、と特徴的な声で笑うエクスデス。何が言いたいのか。ライトが眉を潜めると、大柄な体は自らのすぐ側にワープしていた。「お前も見た事は無いか?現実を」「!?」 「予知夢とは、未来という名の現実だ。未来は過去と今と同じように、紛れもない事実」 まるで自分が昨晩悪夢を見たと、知っているかのような口振り。だがそんな事よりも、男の言葉が気にかって仕方がない。 架空の夢が、無から生まれる事は、無い。 どういう意味だ。 こいつは何が言いたいのだ。 表には出さずとも、ライトはじわじわと混乱の波に飲まれつつあった。先の悪夢の恐怖を思い出す。バッツの話を聞いた時の静かな衝撃を、未だ体が覚えている。 あの光景に覚えなどない。そもそもあれが過去であったなら、今ティーダ達は生きていまい。 だとすれば。「あれが…予知夢などであるものか…!!」 ふざけるな。あんな、あんな救いの無い未来など、認めるものか。 心が、受け入れる事を拒否している。「どう解釈しようと、自由だ」ただ、私は“現実”を教えてやりに来ただけだ。耳元で、大樹は囁く。 「しかし、お前も終わらせたい筈だ。終わり無き幻想を、神々の闘争を。…その 為に必要な真実…知りたくはないか?」 そして、ライトが頷くより先に−−エクスデスが語った、その事実。 全ての否定は、赦されなかった。 心の何処かが冷静に、その現実を受け入れていた。男は嘘を言っていない。自分は拒絶してはならないのだと−−そう告げている。 歴戦。光の戦士としての、経験と本能が。 そろそろ今日も終わりにしよう。オニオンナイトがそう言ったので、ティナはEXモードを解いた。 二人は闇の世界にいた。 本日の戦闘の反省から、彼に特訓に付き合って貰ったのである。遠距離型の自分は一見安全圏から追撃出来そうなのだが、オニオンのように素早い相手には回避されやすい。 また、回避された場合の隙が大きく、反撃を食らいやすいのである。今回の戦いではその弱点が露呈し、苦戦を強いられてしまった。 皆の足を引っ張りたくない。オニオンは自分を守ってくれると言ってくれたけれど。守られるだけなんて、絶対に嫌だ。ましてや彼は自分よりずっと幼いというのに。 彼が自分を守ってくれると言うのなら、自分も同じだけ彼を守れるようになりたい。だからこそ無理を言って、オニオンに特訓に付き合って貰ったのだ。「もうこんな時間…仕方ない、ね。付き合わせちゃってごめんね」 「いいってそんなの。ティナが頑張るって言うなら、僕は喜んで付き合うからさ」 にっこりと笑う少年。癒やされるなぁ、と内心でほのぼのする。以前それを言ったら、ティナも十分癒し系だよ、と返された。 そうなのだろうか。単に女の子が自分一人しかいないから、な気がしないでもないが。「ティナ、オニオン」「あ、ジタン」 尻尾をくるくる回しながら、盗賊の少年が歩いてきた。まだ起きていたのか。「あっりー…ここにもライトさん、いない?参ったなー」 「何、ウォルに何か用?」 ちゃっかりリーダーを呼び捨てするオニオン。ジタンに睨まれても気にしないあたり大物だ。「いや…報告し忘れ事があったんだよな。で、捜してるけど見つからなくて。晩 飯にも来なかったし、何処行っちゃったのかなぁ」 珍しい事もあるものだ。確かに彼は散歩と称して一人になりたがるところはあるが、基本は超がつきほど生真面目なのである。 昨晩のように、疲れから寝過ごす事も本当に希なのだ。 そんな彼が時間を守らないなんて−−明日はメテオでも降るんじゃないのか。「私、帰り道探してみるよ。私も今日の事で報告があるし」 特訓のお陰で発見もあったし、幾つか素材もライズできた。一番最初にリーダーに報告を入れたい。「なら、俺も一緒に行く。こんな夜中に女の子の一人歩きは危ないし」「そりゃ正論だ。ティナ、オニオン、頼むな」「もう、二人とも…」 フェミニストな二人の申し出に、ちょっとむくれる。自分だってコスモスに選ばれた戦士だというのに。こういう時まで女の子扱いされるのはちょっと複雑だ。 彼らが好意から言ってくれてると分かっているから、無下にもできない。「…俺とティナはクリスタルワールドの方へ行ってみるよ。ジタンはパンデモニ ウムの方面を頼む」「OK」 話がまとまるやいなや、じゃあまた後で、と言いおいてジタンの姿は闇夜に消えた。いつも思うがなんて足が早いのだろう。コスモス陣の中でも鈍足を自覚しているティナは羨ましく思う。「じゃあ、私達も行こうか」「そうだね」 彼が消えたのと反対方向。天空に登る闇の階段を見据える。あの律儀なリーダーの事、ベースからそう遠い場所にはいまい。 少女と少年は、知らなかった。 自分達が逃れようのない、死の螺旋の中にいる事を。 秩序の軍勢は、誰一人として気付かなかった。 自分達が救いようのない、閉じた運命に囚われていることを。NEXT |
破滅の足音は、すぐそこに。