悪魔の根城、パンデモニウム。 憮然とした表情で、エクスデスの前に立ったのはガーランドだった。「勝手な真似を」 彼の不機嫌の理由など簡単に想像がつく。件の光の戦士の事だろう。感覚的には既に“だいぶ前”の話になるが−−それも致し方あるまい。原因が自分にある と、ガーランドが気付くまでそれだけの手間がかかったというだけのこと。そもそも実質的な時間は“経過していないにも等しい”のだ。ガーランドがい つ自分の存在に行き着こうが、結果は何も変わらない。「どうしてくれる。貴様が妙な事を吹き込んだせいで…状況は悪化したぞ。何よ りわしの獲物が、わしと戦うまでもなく自害するようになってしまった」 鎧の下。その表情は伺い知れずとも−−エクスデスに憎悪の目を向けているであろう事は容易く察せられる。ガーランドが言いたいのは−−幾つか前の“世界”の話。 自分はウォーリア・オブ・ライトに、真実の“半分”を告げた。実験的な意味 合いの強い行為だった。口惜しい事に、今までの経験上−−自分達の運命を握るのは自分達自身では無いと知っている。 コスモス陣営の彼らは何も知らない。知らないからこそ−−彼らの選択と対応が大きく鍵を握ってしまう。 ゆえに必要な実験。真実を知った場合、彼らがどんな行動に出てどう対処するのか−−知っておかなければならなかった。たとえその実験が裏目に出て、その“世界”の結末を惨劇で締めくくる事になったとしても。 事実、あの“世界”での結末は散々なものだった。真実を告知されたライトは 自殺。かねてもの“世界”のルール通り−−コスモス陣営の一部の者(今回は主 にティナとオニオンナイトだった)が発狂。 その後はまるでドミノ倒しでも見ているかのようだった。いつも最後はそう。コスモス陣営は自ら崩壊していく。エクスデス自身、ライトが死んだその場で−−オニオンナイトの自滅行動に巻き込まれ、殺された。 恐らくはカオス陣営の他の面子も同じように消されたのだろう。最後は舞台から全ての役者が退場し−−また何もかもが始まりに還る。それが、この宿命の現実。 ガーランドも分かってはいる筈だ。彼は自分達の中でも最も古株の一人なのだから。「そもそも、コスモス陣営は誰一人として、前の世界の記憶は持たない筈だ。確かに私は奴と接触したが…その時私が話した内容など、今の奴は覚えていまい」 「それも一理ある。だが現実に、あの世界以降、あやつは高確率で自ら死を選んでいる。他に原因は思い当たらん」 男の声色に苦いものが混じる。確かに、奇妙な話だ。死の前の記憶を−−引き継ぐ事がそもそも稀なのである。自分を含めたカオス陣営の何人かが例外的に昔の事を覚えているが−−それも全てでは無い。コスモス陣営に至ってはおそらく神以外の誰もが記憶を失っている。 自分とて−−おそらく分かっている真実などたかが知れたもの。何故世界が巻き戻るのか。果たしてどうすれば終わりが見えるのか。 ゆえに、半分。ウォーリア・オブ・ライトに全てを語らなかったのは意地悪でも何でもない−−エクスデスにも知りようの無い事は、単に語りようがなかったからだ。 その事実を、覚えていない筈の勇者が自害を繰り返している。一体何故なのか。「…貴様は不愉快かもしれんがな」 自分のした事が、結果として運命に影響を与えたのなら。「今回の実験はけして無意味ではなかった。私はそう考えている」 世界が繰り返している事にすら気付いていないコスモス陣営の者達に、真実を伝えて反応をみる実験。それは今まで自分以外のカオス陣営が何度も試してきた事ではある。 だがどの場合も、大抵結果は同じ。 告知を受けた者は真実を拒み、あるいは疑心暗鬼に陥り−−最終的には発狂して自滅の一途を辿った。「考えてもみるがいい…あの世界で“発狂”したのはオニオンナイトとティナ、 そしてクラウドとかいう剣士のみ。真実を知らされた張本人であるウォーリア・オブ・ライトは暴走する気配すらなく自害した」「!!」 ガーランドも気付いたのだろう。これは−−いつもとは違う“結果”だと。 「我々は僅かずつだが、幻想の終わりに近付いている」 くるり、ときびすを返す。いつも通りならばこの時間、隣室で皇帝とアルティミシアがチェスに興じている頃だ。あの二人もまだ何かを隠している。おそらくエクスデスが知らない真実の断片も、数多く握っている筈だ。「お前にもいずれ洗いざらい話して貰うぞ、ガーランド」 この男もまた、聞きたい事が山ほどある。 そもそもあの光の戦士にしたってそう。ガーランドは自分を責め立てるが−−そもそもライトの身体に“種”を植え付けたのは、この男の仕業では無いのか? しかし、それを尋ねるにはまだ早い。 情報戦を仕掛けるにはまだあまりにデータが不足している。Last angels <答捜し編> 〜1-1・掴めない旅人〜 人は自分を見て、“無謀というか馬鹿だろ”、と言うのかもしれない。事実オ ニオンナイトには真正面からハッキリ言われた。 多少自覚があったりするので否定できないのが悲しい。何でも真っ直ぐに突き進まなければ気が済まない、それがバッツ・クラウザーの性分だった。「さぁてさてさて…敵の本拠地は何処かな〜っと」 現在地は次元城。そしてバッツは現在進行形で、スパイ大作戦の真っ最中である。敵の懐を探って重要っぽい情報を入手する。その情報を使って作戦を練るのは、リーダー達に任せておけばいい。 カオスに与する連中は、明らかに自分達の知らない重大な何かを知っているらしい。 正直、戦況はあまりよろしくない。カオス軍が生み出した無限の軍勢・イミテーションのせいで、コスモス軍は劣勢を強いられている。 しかしカオスの連中が握っているデータを得られたなら−−情報戦で有利に立てる。あるいはこの闘いを終わらせるきっかけが掴めるかもしれない。多少無茶でも試してみる価値はある。「俺もみんなの役に立たなきゃな…。愉快なお馬鹿キャラで終わってたまるかっ つーの」 あ、言ってて自分で虚しくなってきた。微妙にオドロ線を背負う。 バッツがやや性急とも言える真似をしているのには、訳があった。 ここ連日の戦闘の疲れが出たのか−−リーダーのウォーリア・オブ・ライトが倒れてしまったのである。どうやらずっとキツかったのに無理していたらしい。バッツは“クラウドに説教されるライト”という、世にも珍しい光景を見る事 となった。因みに我が軍のリーダーがライトなら、サブリーダーはクラウドというのが暗黙の了解として決まっている。 彼らの負担を少しでも減らしたい。それは全員に共通する願いであり、バッツもそれは同じであった。 こう見えても、逃げ足なら誰にも負けない自信がある。ヤバくなったらさっさとバックれるだけの話だ。 この城は遮蔽物は多いが、いかんせん空側に回れば動向が丸見えになる欠点がある。よってバッツは屋根によじ上り、上から見下ろす形で偵察を続けていた。「お…あれは……」 人の話声がする。さっと壁の後ろに回り、息を殺す。あれは−−エクスデスとセフィロス?何を話しているのだろう。重い雰囲気からして井戸端会議じゃなさそうである。 バッツはクラウドが提供してくれた集音機を耳につけた。装着してすぐに、一気に煩くなった聴覚に渋面を作る。これはちょっと性能が良すぎだ。「…分かっていると思うが」 独特の低温で話すエクスデスの声が聞こえた。「我々の中で、お前は最大の不確定要素だ。異端児と言い換えてもいい。…理由 は分かるか?」 探るような大樹の言葉に、セフィロスは何も返さない。静かな目で魔導士に一瞥をくれたのみ。「お前は何処まで“気付いて”いる?それとも全てを“知って”いるのか?」 気付いて?知って? 聞いているバッツは眉を顰める。何の事を言っているかはサッパリだが−−一どうにも、カオス軍は一枚岩では無さそうな雰囲気だ。それとも情報伝達がうまくいっていない?「…随分と買い被るんだな」 くっ、とセフィロスは口角を持ち上げる。皮肉ったような笑みだが−−元々が絵画のごとき美貌の片翼の天使。その所作だけでガラリと景色が変わる。「生憎、私は“気付いて”はいても“知って”いる訳ではない」 含んだ物言いだ。バッツにはサッパリ意味が通らなかったが−−エクスデスは思うところがあったらしい。ファファファ、と突然笑い声を上げる。「やはりおぬしは面白いな!気付いてなお絶望せんとは」「さらなる絶望を知っていればこの程度、恐るるにも足らない」「大物だな。流石は英雄よ」その呼び方は嫌いなのだけれど、と、ややむっとした表情を見せるセフィロス。 なんだか反抗期の子供のようだ。「それは失礼。ならば何処まで気付いているのだ、セフィロス?」 お、何やら重大な話が聞けそうな予感。バッツはさらに耳をダンボにする。「……奇妙な点は幾つもあった」 セフィロスは目を伏せて語り始める。「例えばコスモス軍の彼らは皆口を揃えて“戦いを終わらせる”とばかり言う。 が、この膠着状態が続いて久しい。戦闘は終わる気配がない。カオス軍がずっと優位に立っている筈なのに、こちらの勝利も一向に掴めない」 そもそも、我々はいつからイミテーションを操れるようになったのか。それすらも思い出せないのはどういう事なのか−−。セフィロスの言葉に、エクスデスも聞き耳を立てているバッツも目を見開く。「第一…だ。私達はそれぞれ別次元から、神々に召還されてきた筈なのに。 “どうしてこの世界に来る前の記憶がないんだ?”」 私達は いつから神々の戦場にいる?「−−−−ッ!!」 声を上げそうになり、バッツは慌てて口元を押さえた。 分かってしまった。自分も、気づいてしまった。 この戦いの始まりを−−自分は思い出せない!そもそもこの世界に来る以前、自分は何処で何をしていた?誰と過ごし、誰と笑っていた? どうして自分の名前しか、分からないのだ!?「それに…私達には一人につき一人。それぞれコスモスサイドに“真の敵”が存 在する。私にはクラウド、お前にはバッツと言うように」「それがどうかしたか?」「都合が良すぎだ」 顔を上げ、銀髪の青年はその美貌に、嫌悪の色を載せる。「光と闇。まるで盤上の駒。用意されたかのように一対ずつ。しかも私達は彼らの顔を見た瞬間、相手を認識したというのに……彼らと敵対する、その“宿命” の理由すら思い出せない。私は…何故クラウドと戦わなければならないのか…“ 因縁”すら分からない。考える必要すら無かったから」 体が震える。バッツはどうにか自身を叱咤して立ち上がった。 もしかしたら自分は−−とんでもない事を知ってしまったのかもしれない。NEXT |
旅人は気付く、ハジマリはとうに過ぎていたのだと。