物語は必ず終わるだろう。 再び繰り返すのだとしても、必ず。「オニオン、セシル、暗闇の雲…」 躯と化した三人を見、ゆっくりとティナは立ち上がる。 セシルにトドメを刺したのは自分だが−−既に、力を使い果たした彼の身体は限界だっただろう。失血死スレスレの身体で暴れまわり、EXモードまで発動したのだ。何より彼の精神が保たなかっただろう。『ごめんなさい…ごめんなさい…』 最期に正気を取り戻した騎士は、そう言って逝った。誰に向けての謝罪だっただろう。兄に対してか、自分達に対してか、あるいは両方だったのか。 いたたまれなかった。かつての自分を見ているようで。いつかの誰かを見ているようで。 自分もこんな風に、力を抑えきれなくなって誰かを傷つけてしまった事がある気がする。ごめんなさい、ごめんなさいと謝りながら、でも止める事が出来なくて。 セシルもずっと悲鳴を上げていたのだろう。最後、すぐに暗闇の雲を殺せなかった理由は多分。 重なったから。ティナを庇って傷つくオニオンの姿が。オニオンを慈しむように語りかけた暗闇の雲の姿が。彼の世界を大きく占めていたであろう−−兄の姿に。「忘れない…よ。私、絶対。君達の痛みを、忘れないから」 今の自分が唯一できることだから。「知りたい…」 屍の海を、少女は歩き出す。仲間達の血を浴びたまま、ふらつく脚で。 何故こんな事が起きたのか。自分達は誰と戦い、何のために戦っているのか。 せめて真実を知りたい。その想いだけが唯一、壊れかけたティナの精神を支えていた。 オニオンが何を語ったのは、ティナには聞く事が出来なかったけれど。それはこの世界の鍵を解く、とても重要な事だったのだろう。暗闇の雲の表情を見れば分かる。 そして彼女が口にした名前。「ガーランド…」 あの猛者がきっと知っている。自分の知りたい事の全てを。 ならば、逢って確かめなくては。この陣営に攻め込んできているか、カオスの本陣にいるかは分からないけれど。 少女はあてもなく歩みを進める。いつか何処かで聞いた歌を口ずさみ、折れそうな心を鼓舞しながら。 “「幸せになる方法が分からない」 そう言って君は悲しく微笑んだ 「死にたくないけど生きるのが辛い」 そう言って彼は瞳を閉じた” 崩れ落ちた壁を抜け、瓦礫を踏み越えて。そこで倒れている大柄な人影に気付く。 ゴルベーザだった。瓦礫に埋もれ、破片に貫かれ、それでも身体の下の何かを守るように手を伸ばしている。 兜に罅が入っている。しかしうつ伏せたその顔を見ることは叶わない。 けれど多分−−幸せな死だったのだろう。たった一人の弟を守りきる事ができて。たとえ自己満足だとしても。彼自身がそれを分かっていたとしても。 “世界はとても残酷なのでしょう 積み重ねては崩れていく” 立ち止まり、祈りを捧げ、再び歩き出す。 どうか次に巡る幻想が、幸せな始まりであらん事を。 今はどうか−−おやすみなさい。Last angels <猫騙し編> 〜2-19・ジャズ A〜 “おやすみ どうか優しい夢を 現をまた歩き出せるように おはよう 目を覚ました時には きっと夜明けが来ている事を祈って”「君のことは、嫌いじゃなかったよ…」 カオス神殿。自分が殺したケフカの遺体を見下ろして、死神は静かに呟く。 先ほどまでくすぶっていた熱は、道化を殺した途端急激に覚めていった。 怒り、憎しみ、悲しみ。それらを通り越した時、人はどうするのか。 絶望、失望、落胆。それらを超越してしまった時、人は何を見るのか。「けほ…っ」 小さな咳を一つ。一つの筈が、激しい音の羅列になった。激しく咳き込み、口元を押さえていた手のひらを見る。 そして、笑った。「はは…っ」 笑うしかない。 手のひらにはべったり血がついていた。「あははははっ、はははっ!!」 乾いた笑い声。自分でも虚しいと思ったが、思っただけだった。絶望も悲しみも憎悪を超えてしまえば、もはや狂うしかない。それなのに、狂いきれない自分はどうすればいい? ジタンはもういない。彼の代わりに弟のように思っていたケフカももういない。 咳き込むたび、全身に衝撃が走った。息が苦しい。心臓がドクンと一つ打つたび、腹の奥から突き上げるように激痛が来た。 痛い。苦しい。何故だろう、この痛みを、自分は前から知っている気がする。「僕も…死ぬのかな」 失って失って、たった一筋の光すら見えなくて。そんな中、浮かんだのはたった一人の笑顔だった。いつも気がつけば隣にいて、 ガサツで、人を子供扱いして、保護者面して。苦手な男。そう思っていた筈なのに。「ジェクト…」 今はその顔が見たい。一人じゃ耐えられそうにない。 クジャはよろけながら、宙を滑走し始めた。彼がいるであろう、コスモス陣営のホームを目指して。 “「神様なんていない だって 私達は平等なんかじゃない」 嘆きながら 迷いながら 誰もが それでも 生きようとするんだろう 自分でも、どうしたいのか分からない。 それでもただ、こいつを殺さなければという一念だけがあった。「何でだっ!何であんたはいつも、俺から大切なものを奪うっ!?」 クラウドは刃を振り上げる。バスターソード。なんでわざわざそんな重たい刀を持ち歩いてるんだ、とティーダに聴かれた時はうまくごまかしたけれど(というより自分でも答えが分からなかったのだ。ただ“大切”だという感情だけが残 っていただけで)。 怒りで真っ赤になった頭の隅。今までどう頑張っても思い出せなかった記憶が蘇る。この刀が親友の−−ザックスの形見であったこと。そのザックスは自分を庇い−−セフィロスのせいで死んだ事。「ザックスも、エアリスも、フリオニールも、バッツも、ジタンも!みんなみんなあんたがっ…あんたのせいでっ!!」 フリオニールを見て感じていた懐かしさ。彼とザックスはどこか似ていた。容姿ではない。声でもない。一途な熱血漢で、ひたむきに夢を追う−−その姿を、自分は無意識に重ねていたのだろう。 彼の夢を、自分も叶えたい。それは多分、守られてしまった友の分まで、守れなかった大切な人まで、希望を繋ぎたかったから。 ザックスと同じように。自分の目の前で死んだエアリス。彼女もまたこの堕天使の犠牲者だった。そう、自分の全ては彼に壊され、滅茶苦茶にされたのだ。「あいつらが何をした!俺が何をしたっ!!どうして…どうしてっ!!」 夢を、明日を望む事すら許されない?「アンタさえいなければ!」 怒りに任せたスラッシュブロウ。セフィロスは正宗でそれをガードしてきた。舌打ちするクラウド。 憎い。憎い。憎い! この男が、こんな男に憧れていた自分が!! 笑う。セフィロスが笑う。何かを言ったが聞こえない。煩い。煩い。お前の挑発なんて、見下した言葉なんて聞きたくない。空中で、すっと英雄の左手が動く。殆ど無意識に防御姿勢をとっていた。虚空。 ガードした剣にいくつも重い衝撃が走る。余波で腕や額にいくつも浅い切り傷ができる。ガードしなければバラバラに消し飛んでいただろう。「くっ…」 ガードごとやや吹っ飛ばされ、膝をつくクラウド。殺意でギラついた眼で堕天使を睨む。艶やかに弧を描いた、セフィロスの唇が動く。その顔はどこか青白い。 まるで生きた人間では無いかのような−−。「それでいい、クラウド。お前の憎しみは、私が全て持っていく」映画の中の出来事のようだと思った。つ…とセフィロスの唇の端から、赤い筋 が伝う。そして。 大量の血が、ぶちまけられていた。カラン、と正宗が落ちる。激しく喀血し、身体を折るセフィロス。クラウドは何が起きたのかわからない。 パニックが限界を超えていた。自分の攻撃は一発もヒットしていない筈。ならば、何故。 それに、さっきの言葉、は。「タイムリミット、だ」 視界が真っ赤に染まる。一人の人間から噴き出したとは思えぬほど、大量の紅が散る。クラウドはその血を、頭から被っていた。 何が。何が起きた?何が。これは。一体。 目を見開く。引き裂かれて倒れ、痙攣するセフィロスの身体を身体を見下ろす。「あ…ぁ…」 両手で髪をかきむしり。戦慄きながらクラウドの口が開かれ。「ああぁぁぁぁぁ−−ッ!!」 凄惨な絶叫が、木霊していた。 “おやすみ どうか優しい歌を 希望を信じ続けられるように おはよう 目を開いた先に きっと朝日が輝いてる事を祈って” そう遠くない場所で、爆音と怒号が響いている。ティナはそちらに向かって歩を進めていた。 ジタンとバッツとスコールはまだ帰って来ていない筈。やや帰りが遅すぎる気はしたが、ひとまずそれは置いといて。 セフィロスを追っていったまま、フリオニールが戻って来ていないとすれば−−残るはウォーリア・オブ・ライトとティーダ、クラウドの三人。彼らが戦っている可能性が高い。 戦っている相手は誰だろう。イミテーションか、カオス陣営の誰かか。あるいはその両方か。 来ているのがガーランドなら話は早いのだが。そもそもこの奇襲に、向こうの陣営が全員参加しているかも怪しい。カオス軍が一枚岩でない事はティナも見抜いていた。 戦っている間は夢中で気付かなかった。自分達の生活の場だったそこは、もはや見る影もない有り様である。土砂や瓦礫に埋まり、ガラスや食器らしき破片が散乱し。棚は倒れ、壁も床も穴だらけだ。 荒れ果てたキッチンを通る時、枯れた筈の涙がまた溢れそうになる。 つい今朝まで、ここで朝食を作っていた。料理を教えて、というオニオンに、自分はオムレツの作り方を教授して。彼の作った卵料理は、初めてとは思えないほど綺麗で美味しかった。バッツとセシルはこっそりおかわりまでして。 もう、あんな日々は戻らない。 オニオンも、セシルもいない。セシルはもうああする以外に止める方法が無かったにせよ−−それでも、彼を救う手段は本当に無かったのかと後悔したくなる。 分かっている。それが最大の冒涜だという事は。それなのに−−感情がついていかない。 涙を拭いながら、ホールに出た時だった。「お待ちなさいな」 足を止めるティナ。そこに、小さな人影が立っていた。尖った耳。黒い鼻に大きな眼。「誰…?」 見覚えがない少女(?)は高らかに笑い声を上げた。 そして告げる。「被験体No.6、ティナ=ブランフォート。あなたは此処で死んで下さいな」 “おやすみ 流れ星に願おう 今度はこの手を離さないから おはよう 怖い夢は終わるよ きっと僕等の幸せな明日が 来るから”NEXT |
今はまだ、悪夢の中。それでも少女は、死神は、英雄は、次の朝に祈った。
挿入歌 『End
of world』
by Hajime Sumeragi