終わりは始まり。始まりは終わり。
 だとすればどちらが先でどちらが後なのか。繰り返す歴史が途切れる事はある
のだろうか。
 
「ひっ
 
 ティーダの喉から引きつった音が漏れる。ジェクトはただ呆然とその光景を見
ていた。一拍遅れて−−夢想の絶叫。
 
「何、が
 
 何が起きた、今。声はかすれてうまく言葉にならなかった。
 ジェクトの目の前に転がっているもの。身体を引き裂かれ、鮮血を飛び散らせ
て事切れている青年。ウォーリア・オブ・ライト。
 どことなく様子がおかしいとは気付いていた。ジェクトが来たあたりからどん
どん顔色が悪くなって、咳もし始めていて。戦闘で怪我をしたのかもしれない。
しかし今は手当もままならない−−そう思っていた矢先に。
 それは、起きた。
「こういう、事だったんだ
あ?」
「皇帝が言ってた。ライトさんが必ず死ぬってこういう意味だったんだ…!!
 真っ青な顔で呟くティーダ。
 皇帝が言っていた?彼がライトの死を予見した?
 
「おいティーダ、どういう意味だそりゃ!?
 
 息子の肩を掴み、問い詰める。
 敬愛するリーダーの惨たらしい死。大きなショックを受けている彼に、やや酷
な真似とは分かっている。しかし。今訊かなければこの先−−多分、何も分から
ないまま終わってしまう。
「皇帝が言ってたんだよ。この世界の秘密繰り返してるって」
「あんだって?」
 ポツリポツリと話し始めるティーダ。その内容に、ジェクトの表情も険しくな
っていく。
 何てことだ!では、あの男はこの事を知って−−。いや、知らなかったからこ
そティーダ達に止めさせようとしたのか?いずれにせよなんて残酷な役目をさせ
るのか。
 
「守れなかった!知ってたのに、俺この人がどうなるか、聞いてたの、に」
 
 眼にいっぱい涙を溜め、少年は身体を震わせる。
 ジェクトは。どんな言葉をかけるべきなのか、悩んだ。上手な慰めを言えるほ
ど、息子の事を深く知らない自分に気付く。
 もっと、家族として接してやれば良かった、なんて。今更後悔しても遅すぎる
のに。
「お前のせいじゃねぇ。どうしようも無かったんだ、なぁ」
「親父でも、でも。」
 こんな結果を誰が予想しただろう。
 ライトは自殺したのでは無かった。カオスの者に殺されたのでもなく、当然事
故でもなく。
 ああ、どう説明すればいいのか。どう理解するべきなのか。自分も相当混乱し
ている。
 だって、勇者を殺したのは−−
 
「ファファファ。なるほど、それが真実か」
 
 ハッとして顔を上げる。自分達の前方、数メートル先。突然白い光の輪が浮か
び上がり、現れたのは大柄な体躯。
 
「エクスデスおめぇもグルか」
 
 睨みつける甲冑。その後ろでどんな表情を浮かべているのやら。大樹はジェク
トとティーダ、そしてライトの骸を見下ろし、フンと鼻を鳴らす。
「勘違いをするな。私はただの傍観者。少なくとも今回の世界で、手を出すつも
りは無かった。外側から真実を探る為にな」
「なに?」
「おかげで粗方の謎が解けた。なるほど、契約者はあの三人だったか。そして誰
がどの思惑で動き、何を目指しているかファファファ、面白い」
「待てや!何の話してやがるんだ」
 話が見えない。
 しかしどうやらこのエクスデスも、首謀者の側の人間でないらしい。
 そして−−契約者?何の事だろう。
 
「お前は何も知る必要はない。この世界も終わりが近いここから先は後片付け
よ」
 
 ハッとして、未だ呆然と座り込んでいるティーダを抱えて飛び退く。さっきま
で自分達の立っていた場所に、エクスデスの剣が突き刺さっていた。
 
「息子を庇うか相変わらず甘いなジェクトよ。いいだろう。その甘さごと、無
に沈め!!
 
 戦うしかない。ジェクトはティーダに柱の陰にいるよう一方的に言いおくと、
愛刀を構えて走り出した。
 これが何のための戦いなのか、未だ見えないままに。
 
 
 
 
 
Last angels <猫騙し編>
2-20・ロック 
 
 
 
 
 
 本当に、甘すぎる。
 秩序の聖域で。台座に座り込み、アルティミシアは息を吐く。全身がズキズキ
と痛む。左腕がポッキリ折れている。右足は折れていないが捻挫している様子。
あとはガンブレードの一撃をもろにくらった背中が痛い。多分血まみれになって
るだろう。
 何よりもう、魔力が殆ど残っていない。先の戦闘で殆ど使い果たしてしまった。
 甘かったのは自分にトドメを刺す事すら惜しんだスコールか。それとも、彼を
殺せなかった上、結局行かせてしまった自分なのか。
 
「可哀相な子
 
 スコールを、あの無知で無謀な獅子を思う。
 哀れではないか。本当に、彼は何も知らない。これが何の為の戦いなのか。何故
セフィロスが兵を率いて攻め行ったのか。
 前も後ろもただ地獄。彼の守りたかった者達も、今頃はきっと。
 真の絶望を知る前に、殺してやった方が幸せだったのかもしれない。覚悟を決
めてもどうせ殺せやしなかっただろうけど。
 
「いずれお前も思い知る。けして取り戻せない、時の真理を」
 
 自分は何も教えなかったけれど。それは同罪なのかもしれないけれど。
 取り戻したいものがあった。守りたいものがあった。
 取り戻せないものがあった。守れなかったものがあった。
 どんなに嘆いても、引き止めても、時の流れは止められない。どんなにあがい
ても、叫んでも、凍った歯車は二度と動きはしない。
 だって−−想いはこんなに胸を焼くのに。愛しいその笑顔すらもう、自分は思
い出せないのだから。
 
「愚かね私も貴方も」
 
 やけに安定しない足音。誰かと思えば、金髪の兵士。全身返り血まみれで、表
情は能面のよう。虚ろな瞳、落ち着きのない動作−−ああ、狂ったな、と思った。
 メンバーの中でも発狂率が異様に高い彼。その原因は知らない。でも、彼の暴走
ぶりは今までの世界で見慣れている。
 こんな状態まで陥ってはもう、誰にも止められないという事も。ソルジャーの
パワーには誰も及ばない。できるとすればあのセフィロスだけ。
 でも今。クラウドがここに来たということは。セフィロスが死んだ事を意味す
るわけで。
 
「なぁアンタも俺の、敵?」
 
 普段よりも幼い、少年のような口調。その眼にもう現実は映っていない。
 
「敵だよな?そんなに仲間の血を浴びてるんだから」
 
 ああ、歪んだ彼の視界には、魔女の赤い衣が返り血に見えるらしい。振り上げ
られるバスターソード。どのみちアルティミシアにはもう、反撃する力は残って
いない。
 俯いて、嗤う。結局今回もまた、運命は変えられなかった。いつまで続くのだ
ろう−−この修羅地獄は。
 兵士の顔を再び見る事なく。アルティミシアの首は、胴体から切り離されて宙
を舞っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 ジェクトは考える。この戦いに、果たして意味があるのかどうか。どうしてこの
男と自分が戦う羽目になったのか。残念ながら答えを出すにはあまりに−−自分は
知らない事が、多すぎる。
「私の口を割らせよう、などとは考えぬ事だ」
「!」
 考えはアッサリ読まれていたらしい。自分はそんなに分かりやすいか、と内心
ヘコむ。
 
「ファファファ。私の本能くらい知っているだろう。惨めな敗北を見せるくらい
なら、自ら無になる道を選ぶわ!」
 
 エクスデスはジェクトの目の前にワープすると、魔力で浮かせたニルヴァーナ
を大きく振り上げた。
 攻撃の為拳を構えていたジェクトはゲッとなる。
 
「無をくらうがいい!」
 
 ソードダンス。間一髪のタイミングで難を逃れるジェクト。
 流石に同じ陣営で戦って来ただけある。ジェクトの弱点は知り尽くされている
模様。
 そう。接近戦や中距離戦で絶大の強さを誇るジェクトだが、インファイターで
あるがゆえ二つばかり厄介なウィークポイントがあるのだ。
 一つは、遠距離で待ちに入られると手が出せない事。遠くの敵を叩く手段がジ
ェクトには無い。
 が、これはジェクトの足の速さがあればある程度カバーできるのだ。ましてや
相手は超鈍速にして中距離攻撃型のエクスデス。遠距離から手が出せないのは向
こうも同じ。必然的に、遠くから狙い撃つという選択肢はなくなる。
 問題はもう一つの弱点。
 
「おおおっ!!
 
 大剣を構え、パワーを溜める。そのまま勢いよく前方に飛び出し、エクスデス
目掛けて振り回す。ジェクトブレイドだ。
 しかし。
 
「あーっくそ!」
 
 やられた。攻撃は見事なまでの空振り。鈍速だがエクスデスにはワープ能力が
ある。ジェクトが攻撃した時には既にその姿は別の場所にあった。
 そうなのだ。自分の攻撃は溜めの長い技が多い。その間に逃げられてしま
う事がままあるのだ。
 エクスデスが笑い声を上げる。そして。
 
「無情だな!」
 
 大樹の目の前に現れる、六望星の魔法陣。その中心から鋭い光が放たれる。
 必殺技、デルタアタックだ。
 
「いってぇ!」
 
 回避が僅かに遅れた。魔法の光が右肩を焼く。直撃していたら一発であの世に
ご招待されるだろう。
 防御が攻撃になる最強のプレスディフェンダー。カオス軍でも破壊者と称され
恐れられるだけの事はある。
 
「くっそこんな時でなきゃ、もっと楽しく戦ってやるんだけどよー
 
 今は茫然自失状態のティーダがいる。それに状況から見て、ここで長々とエク
スデスの相手をしているのもマズそうだ。
 
「仕方ねアレだけはやりたくなかったんだけどな」
 
 集中する。ジェクトはEXモードを発動した。
 かつて世界を救い、同時に滅ぼした呪い。大切な仲間を傷つけ、守りたかった
はずの人の命を奪った力−−究極召喚を。
 
「おっぱじめるか!」
 
 人の形をした獣の姿。幻想の名を持つ男は、真っ直ぐ大樹に突進した。
 
 
 
 
 
 
 
 最初は、天国にいるのかと思った。
 目に入った月の光が、あまりに綺麗だったから。
 
「俺
 
 徐々に感覚が戻ってくる。背中が冷たい。どうやら石の地面の上に倒れている
らしい、とフリオニールは分析する。次に感じたのは全身の激痛。その痛みが教
えた−−これは生きた人間達のいる現実だと。
 
「生きてるのか俺」
 
 幸い骨は折れていないらしい。が、体中大小様々な刀傷で血だらけだ。風呂に
入って流したい、などと場違いな事を考える。
 自分はセフィロスと戦い、負けた筈だ。てっきり殺されるものと思っていたが
−−どういうわけか生きているらしい。
 生かされたのかもしれない。
 最後に見たセフィロスの顔は、まるで泣き出しそうな子供のようで−−。
 その彼は、一体何処に行ったのか。
 
「とりあえず戻らなきゃ
 
 よろよろと立ち上がるフリオニール。こんな体では、陣地に戻っても足手まと
いかもしれない。
 それでも、行かないという選択肢は無かった。
 仲間を見捨てたくない。
 自分の夢は−−仲間と共に叶える夢なのだから。
 
 
 
 
NEXT
 

 

愛こそが、それぞれを結ぶただ一つの絆だったのに。