自分はこの世界で、ケリをつけるつもりだ。 ティーダはそう前置きして、話し始めた。「輪廻が繰り返される鍵が、三人の契約者にある事…それはアンタ達も知ってん だろ?」「ああ」 頷く皇帝。 契約者−−即ちウォーリア・オブ・ライト。セフィロス。クジャの三人。 彼らが何故この世界の真の支配者に選ばれたかは分からない。その支配者が果たしてどんな存在であるのかも。 ただ彼らは全員契約の代償に、大きく記憶を失う。ライトは元よりコスモスの力で、どのみち記憶は消され続けるのだが。 それにセフィロスがいくつか前の世界で、イレギュラーにより自力で全てを思い出している。おそらく自分がティーダに施したのと同じ方法で。ゆえにこの法則 も揺らぎつつある。 しかしもう一つのルールは破りようがない。彼らは三人とも、巻き戻しが発生してから一定期間後に死を迎える運命にある。それも、他殺か自殺かもよく分からない変死体となって発見されるのだ。大抵これが、オニオンナイトを筆頭にコスモス陣営の疑心暗鬼を招いてしまう。 彼らの死が何故起こるか。何故あんな死に方なのか。それもおおよそだが調べはついている。 以前、クジャの死の直後、その躯から緑色の光が飛び出して彼方に消えるのを見た。一瞬の事だったがあの形状と気配。おそらく、闇の力を宿したクリスタルだろう。 多分契約者達はその体にそれぞれ闇のクリスタルを埋め込まれている。その三つのクリスタルは彼らの体内で成長し、やがて彼らの命を食らって飛び出していく。確証はない。だが三人の変死がどの世界でも必ず起こる事を考えれば、おのずと 答えは出る。あれこそが世界を白紙に戻す為の、重要な鍵を担っているのだ、と。「だから私は、試験的にお前達に命じた。契約者の一人…ウォーリア・オブ・ラ イトの死を回避せよ、と」 ライトが死なない。つまり、闇のクリスタルの完成を防げたなら。あの結晶をライトの体内にとどめおく事ができたなら。輪廻の発生を妨害できるかもしれない、と踏んだのだ。 しかし、いかんせん与えた情報が少なくすぎる。何よりどうすれば彼の体内にクリスタルを養い続けられるか、皇帝にもまだ分かっていなかった事だ。正直そん な結果は期待していなかった。ゆえにそれを見越して。“ライトを死に至らしめる闇のクリスタルが、輪廻の 鍵になっている”という真実をティーダに見せ。その記憶を継承させたのである。 「理論上、方法はもう一つある。つまり、完成前に、三つの闇のクリスタルを破壊 する事。しかし…これが出来れば我々もこんな苦労はしていない」 完成前、という事は即ち。クリスタルがまだ蛹であるライト達の体内にあるうちに壊す、という事。しかし闇のクリスタルは完全に、彼らの肉体と魂に同化してしまっている。彼ら を傷つけずにクリスタルだけ破壊する事は不可能。 つまり、惨い話だが−−生きたまま彼らの体からクリスタルを抉り出さなければならないのである。そして体と魂に深く根を張っている結晶を強引に引きずり出 せばどうなるか? 喩えるなら。妊娠中の母親の胸と腹を裂いて、心臓と胎児を一緒にえぐり出すようなものなのだ。いずれにせよ彼らの死は免れない。「百歩譲ってその非道が成しえたとしても…大きな弊害が二つあります」 皇帝の言葉を引き継ぐアルティミシア。「一つ目は、三つ全ての破壊が必要な事。二つ目は、宿主である三人がいずれも実力者であること」 実は今までの世界で、闇のクリスタルの破壊に成功した事もあったのだ。 そう−−ウォーリア・オブ・ライトの自殺によって。ある世界で、エクスデスが彼に情報を吹き込んだのが始まりだった。“お前の 体内にある闇のクリスタルが、戦いの歴史を繰り返させている”、といった内容 だろう。少なくともこの時大樹はまだ、他二名の契約者の存在に気づいてなかったとみえる。 自分のせいで、悲劇が繰り返されている。そう結論したライトが、割腹自殺を図り闇のクリスタルの破壊を目論んだ。以来。彼は高確率で自害するようになる。おそらくその記憶が、闇のクリスタル の完成間際に蘇るようになったのだろう。肉体的精神的に追い詰められると、記憶 のリミッターが外れやすくなる。同時に狂気のリミッターも。 いつもではないが。ライトは何度かその方法でクリスタルを破壊している。にも関わらず輪廻に影響は出ない。−−それは多分残る二人のクリスタルが、壊されずに完成してしまったから。「闇のクリスタルを三つとも破壊するには。短時間でライトさんとセフィロス、クジャの三人を倒さなきゃいけない…でも三人ともハンパなく強いから、ほぼ不 可能に近い」「そういう事だ」「確かに、一体一で勝つのは無理っぽい相手ばっかっスね。でも…」 くるり、と振り向いたティーダの顔には。子供の顔をした悪魔の笑みがあった。 敬愛するリーダーを殺す算段を立てているとは思えないほどの。「契約者一人対…こっち五、六人なら、どうっスかね?」 Last angels <詞遺し編> 〜3-5・呉越同舟〜 ケフカから聞き出した話は、衝撃的だった。彼に口止めなど、ガーランドも 最初から諦めていただろうが−−あそこまでペラペラ喋られたのでは、頭も痛いだろう。それだけはあの男に同情する、とジェクトは思う。 ジェクトとクジャは場所を移していた。ガーランドの領域であるカオス神殿に長く居座るのは愚の骨頂。壁に耳あり障子に目あり、だ。よって今、二人がいるのはクリスタルワールドである。この空間の実質的な 統治者はクジャだ。ここならある程度の侵入者はあらかじめ彼が察知できる。「前々からおかしいとは思ってたんだよね」 腕組みしながら言うクジャ。「名前や生活に必要な知識は思い出せるのに…この世界に来る前のことがまるで 思い出せない。何で僕はジタンがあんなに嫌いなのかってこともね。そもそも僕等 がいつから戦い続けてるかすら怪しい」 気がついた時には、当たり前のように光と闇の軍勢があって、戦ってきた気がする。 妙なのは、イミテーションの力を借りてカオスサイドが優位に立っている筈なのに、いつになっても決着がつかないことだ。それも、こちら側から戦いが長引くよう仕向けている者達がいるなら筋が通る。「気になるのは“何回も繰り返す”って言ってたケフカの言葉。もしかしたらさ、 決着がつくたび、時間と記憶が巻き戻されるとか…そんな現象が起こってるん じゃない?」「お、おい。そりゃ流石に突拍子なさすぎじゃ…」 「時間を止める魔女がいるくらいだもの。神様ならさ、もっと凄いことできてもおかしくないと思うけど」「……」 こいつ、やっぱりすげぇ、とジェクトは心の中で賞賛した。クジャの頭の回転の早さは知っていたものの、改めて見ると自分のような体育会系とはわけが違う。スケールの大きすぎる話だが。時間が巻き戻るなら、“決着”の記憶が無いの も頷ける。下手すればもう既にそうやって何百回も闘争を繰り返してきたのかもしれない−−そう考えると怖いが。「しかし…となると、神様方は何でそんな真似を?それにケフカはあの嬢ちゃん とずっと戦いてぇみたいだから分かるが、ガーランドがそんな計画に荷担する理由がわからねぇな」「それは…そうだけど。ってかガーランドはどれくらいのポジションにいるんだろ。それにその“計画”の話、ガーランドとケフカと暗闇の雲とセフィロスしか 知らないってことになるのかな…」 険しい表情で、美しい死神は考え込む。そんなに眉に皺寄せなくてもいいのにな、とジェクトは場違いな感想を抱く。ティーダの悩み方とは大違いだ。「その答え、知りたいッスか?」噂をすれば影?いやいやまさか。水晶の柱を上って現れたその姿に、度肝を抜か れるジェクト。「おいおい…何でお前が此処にいるんだよ。しかも」 ティーダの後ろには、皇帝の姿が。「うわぁ、ハンパなく予想外な組み合わせ来た」「逆にお前の反応は予想通りすぎてつまらんな」あっさり言い放つ皇帝。何だろう、今めちゃくちゃ馬鹿にされたような。 ジェクトの隣でクジャも複雑そうな顔だ。驚きと、不信感が入り混じっている。「いろいろツッコミたい事はあるけど…まず。何でそこの君が、当たり前のよう にうちのベースに来てるわけ?」 一応僕達戦争中なんだけど、とクジャ。「私が通した。…この戦いが無意味だと、お互い知っていたからな。クジャ、お前の予想の半分は正しいのだよ」「残り半分は?」「裏で糸を引いているのが神ではないということ。表の実行犯はガーランドだがな」 二人で顔を見合わせる。皇帝のような策士が何も気付いてないとは思わなかったが−−予想していた以上に、色々情報を握ってそうである。 どちらかというとティーダの方が意外だった。性格上、皇帝のようなタイプとは馬が合わないと思っていたし、頭脳労働派だとも思ってなかったのである。「で、そんな話を俺達にするのは何でだ?話す代わりに協力しろってか?」「このままじゃ俺達、この閉じた世界で永遠に戦い続けなきゃならない」 ティーダが口を開く。「実際、前の世界もその前の世界も…俺達全員が悲惨な死に方してるんだ。誰か さんの手の上で踊らされてさ」 最悪だよ、と夢想は苦い表情になる。 確かに−−この戦いが誰かに仕組まれたものなら。自分達はそれに気付かず、ずっと戦わされてきたのなら。 実に不愉快極まりない。「それに、繰り返される限り、俺達は永遠に終われない。普通に生きて死ぬ事も、 元の自分を思い出す事も、元の世界に帰る事もできやしない」「元の自分…」 その言葉に、クジャが俯く。「時の鎖が断ち切られたら、それも思い出せるってこと?」「おそらくは。世界を繰り返しているのは別の存在だが、記憶を消しているのは神々だと踏んでいる。そして神々の力が及ぶのは、この閉じた世界限定である 可能性が高い」 カオスとコスモスが記憶を消している? 何故か−−と考えて、彼らにとってそのメリットはいくらでもあると気付く。 何度も殺し合い、惨い死に方をするさだめの戦士達。死の前の記憶を全て引き継いでいては、精神が持たないだろう。 加えて記憶を消す事で、輪廻の事実を隠蔽できる。自分達もケフカから話を聞かなければ確証は持てなかった筈だ。「……あるの?神様すら従える奴を出し抜いて、輪廻を終わらせる方法が」 「おい、クジャ…」 「ジェクトは平気なわけ?永遠に誰かの操り人形にされる舞台なんて」 僕は耐えられないね、と死神は嫌悪感を露わにする。「教えてよ。話次第では、協力してやってもいい」 どうやら自分も腹を括るしかないらしい。ジェクトはため息を一つついて、話の続きを促した。「…だな。てめぇらの情報、全部よこせや」 さあ、鬼が出るか蛇が出るか。NEXT |
鬼も悪魔も超えてみせよう。