多分、彼らはまだ自分達に隠し事をしている。根拠があるわけではない、殆ど直感だ。論理的に策を練る策士であるクジャも、 その実一番に信じているのは己の勘である。全ての策はその勘に基づいて組み立てられていたりする。 その勘が言う。ティーダ達は嘘を言ってない。しかし、事実の全てを語ってはいない、と。−−さて、どうするかな…。 輪廻を断ち切る。その目的には賛成だし、その為に自分の力が必要なら手を貸してもいいと思う。だが、信用しすぎてはいけない。いずれは彼らから全ての情報を引き出す。 その為には信用したフリをして、向こうにこちらを信用させる。 いいだろう。食うか食われるかの騙し合い。どちらが真の策士かハッキリさせてやろうではないか。 それまではとことん利用させて貰う。それが自分のやり方だ。「クリスタルって、星の生命エネルギーの結晶だとか、そもそも外部世界から持ち込まれた異生命だって説もあるけど」 眉をひそめて言うクジャ。「闇のクリスタル…ねぇ。その存在は確かなの?しかもそれが“セフィロスとウ ォーリア・オブ・ライト”の体に埋め込まれてるなんて」 あの後、クジャはジェクト、皇帝、ティーダと一緒にパンデモニウムに来ていた。彼らから話を聞く為に。 今四人にアルティミシアを加え、五人で作戦会議中というわけである。「クリスタルかどうかは、まだ推測の範囲だな。だが、奴らの変死は全ての世界で必ず起きている上、遺体から光が飛び立つのは私もアルティミシアも何度も見ている。奴らの存在が鍵である可能性は相当高いだろう。便宜上の名前として“闇のクリスタル”と呼んでいるだけだ」 話す時の癖なのだろう。手に持った杖でカツンと床を叩く皇帝。「これで確実に断ち切れるとは言えないものの、奴ら“二人”の持つクリスタル を破壊する事で、輪廻に何らかの影響を与える事は確かだろう。やってみる価値は充分にある」 なるほど、その為に自分とジェクトの協力が必要だったわけか。納得がいった。 認めるのは癪だが−−ライトもセフィロス、半端な実力で倒せるような相手ではない。片やコスモス陣営でNo.1の実力を誇るオールラウンダー。片やおそらく 総合力でカオス陣営No.1になるであろうブレイドマスター。 ハッキリ言って、ここにいる五人の誰が当たっても、サシで勝てる相手じゃない。セフィロスに至っては以前の戦闘訓練で、ジェクトと皇帝とエクスデスの三人ともを同時に蹴散らした事すらあるのだ。 その為の、この人数。 実力で劣るならば、知略で勝負するのが定石。瀕死レベルまでダメージを与えるか。うまく隙をつき、動きを封じてクリスタルをかすめ取るか。「セフィロスは前の世界で随分面倒を起こしてくれたみたいだし…早めにケリを つけた方が良さそうだね。どのエリアで待ち伏せるのが一番勝率が高いかな…」 「月の渓谷が最適かと」 口を挟んだのはアルティミシアだ。「あそこの管理者であるゴルベーザの説得次第でもありますが。あのエリアは 障害物が多く、物陰からの奇襲に適しています。また広さも申し分ないので、 遠距離からの狙撃にもいいでしょう」 そういえば彼女の本領は、遠方からの魔法狙撃だったな、と思い出す。セフィロスを相手にする際、正宗のリーチの長さに気をつけなければならない。 パンデモニウムなどの狭い通路などでは、追い込まれると逃げようがないのだ。 その点隠れる場所があり、なおかつ拓けた月の渓谷は最適といえる。「ライトさんとは…戦わないで済むかもしれないッスよ」 一応周りで待機しててもらうけど、と付け加えるティーダ。「あの人の性格的な弱点は…俺もよく知ってるし。仲間の為になら平気で命投げ ちゃう人だから。俺が全部話せば、自分からクリスタル破壊に乗り出すかもしれない。ってか、だから今までの世界で、あの人の自殺率が高かったわけだし」「それなら楽なんだがな」 皇帝は溜め息をついて答える。あっさりと、仲間殺しの相談をする息子を、ジェクトがひどく複雑そうな顔で見る。相変わらずお人好しな男だ。確かに簡単に信頼を裏切るような人間になられて、喜ぶ親はいないだろうが。今回ばかりはどうしようもないではないか。 たとえ自分達が何もしなくても、彼らはいずれその身に宿したクリスタルに、生きたまま体を食い破られる。その運命は避けようがないのだから。「……そういや、気になったんだけどよ」 ずっと口を閉ざしていたジェクトが、苦い表情で言った。「その…真の支配者さんとやらよ。世界を繰り返す目的って何なんだろうな。神さん達と俺達とを長々戦わせて、一体何がしたいんだ?」Last angels <詞遺し編> 〜3-6・鳥籠〜 ジェクトの言う通り、それが最大の謎だった。 自分達を長い間ただ戦わせ続けて。死んだら何度でも生き返らせて。それは一体何の為なのか。事実を知った者なら誰もが同じ疑問を抱いた筈で ある。「…これは僕の個人的な考えだけど」 皺のよった服を直して、クジャは柱に寄りかかり直す。「儀式か実験か娯楽…もしくはその全部じゃないかと思ってる」 「何だそりゃ」「まず儀式っていうパターンから解説するけど。呪詛…つまり誰かを呪う為の手 段として、似たような呪術の話を聞いた事があるんだよね。詳しくは知らないけどさ…確か壷毒って言ったはず」 本来なら、呪いの為に人間を使ったりはしない。用意するのは壷と虫。虫と言っても、蛇を使う事もある。あとは百足などが一般的らしい。言い伝えでは “金蚕”という虫を使うべきらしいのだが、いかんせんこの名前の虫が実在しない のだからどうしようもない。それらの虫を何十匹か壷に入れて閉じ込める。それを数ヶ月間地中に入れて おく。すると何が起こるか。「閉じ込められちゃってるんだから、食べ物がなければ逃げ場もない。まぁ、 共食いしちゃってるだろうね。もしくは全滅」「うへぇ…」 想像したのだろう。ジェクトは嫌な顔を隠そうともしない。「まぁ全滅しちゃってたら意味ないし。一匹だけ残ってること前提で。まあこの一匹はつまり、入れたたくさんの百足か蛇の中で、一番強かったやつってわけだ」この“最強の一匹”は、壷を埋めた“主人”の家に莫大な富をもたらしてくれ る。ただし、あくまでこれは呪術。その対価は重く、定期的に人間を一人殺して生贄に捧げなくてはならない。怠れば“主人”が生贄にされてしまう。 もし途中で虫を養えなくなったら。虫が授けてくれた富を金銀に変えて、利子をつけた上で、虫を壷に入れて道に捨てる。これを稼金蚕という。 万が一この壷と金銀を誰かが拾ってしまったら、その時点で拾い主は強制的に主人となってしまう。彼、もしくは彼女はまず、そんな呪術の存在など知らない。 虫を養わず、呪い殺されてしまうのは目に見えている。 あえてこれを呪殺として用いる場合もある。 共食いで生き残った虫を壷に入れて、金銀と一緒に呪いたい相手に送りつけるのだ。相手は何も知らずに生贄を絶やし、死んでしまう事になる。「…我々は虫か?冗談じゃない」 クジャの話から悟ったらしい、皇帝が忌々しげに吐き捨てる。「つまり貴様が言いたいのは。我々の状況はまさしく、その呪法を再現しているという事だろう」「正解。虫にあたるのが僕達。壷にあたるのがこの閉じた世界そのものってね」 知れば知るほど厭らしい物語。脚本家の悪趣味ぶりがよく分かる。「まぁ壷毒は一つの例えなんだけど。大勢の同種族を一カ所に閉じ込めて戦わせる。それ自体に儀式的意味合いがあるのも確かなんだよね」自分達を“虫”として最強の一人になるまで戦わせる。この“壷”の広さと いい“虫”の強さといい、その規模は通常の呪術とは比べものにならないほど 大きい。それも、一匹の媒介を作るのに何十回何百回分も手間をかけるというなら。最後に発動する“呪い”の強さは−−どれほどのものになるだろう。 「でも、ただの儀式にしちゃ手間かけすぎな気もするっスね。最後に強大な存在を呪い殺す為…って言うより、俺達を戦わせる事そのものが目的みたいに見える っていうか」 こいつ、意外と使えるかもしれない。的を射た発言をしたティーダに、クジャは口元で笑みを作った。「ケースその2…実験、だね。僕達はモルモットにされてるって場合だ」 この閉じた世界が、真の支配者にとってフラスコのようなものだとしたら?やや安直だが、例えば“最強の戦士”を作る為に神々や自分達が召喚され、殺 し合いを強制させられているなら筋は通る。 しかも一回や二回だけでなく、何回も繰り返し戦わせることで、全体的な経験値やレベルも上げられる。時間を巻き戻す数が、最後の一人の強さに比例するだろう。 ただ、もしそうなら。神々が戦士達の記憶を操作するようになったのは、支配者からすれば喜ばしくなかったはず。確かに純粋な肉体や魔力のレベルは、体が覚えている以上蓄積されていくが。教訓や経験もまた、優秀な戦士としては重要な要素である。 何故、支配者は何も手を出してこないのだろう。神々の妨害をする気配すらないなんて。「そして、最後の一つは娯楽…ですか。私達の戦争を眺めて楽しんでいる輩がい る、と?馬鹿な…」 「無いとは言い切れんな」 その美しい面に、嫌悪感を露にする魔女。皇帝は静かにアルティミシアを遮る。「実際、私の国ではあったのだよ。…そういう退屈な遊びを好んだ輩が」 「アンタの事じゃないだろうな、それ」「さぁな。ただ残念ながら私は、私自身のやったことに関する記憶は殆どなくしているのでな。自分の名前すら思い出せん」 からかい半分で言ったジェクトは−−自分の失言に気付いたのだろう。罰が悪そうに頭を掻いた。 クジャが思ったのは別のこと。皇帝は先ほど、自分は死ぬ前の世界のことを正確に覚えていると言っていた。しかし−−召喚前の世界の記憶が殆どない?確かに、不思議には思っていた。皇帝は何故“皇帝”なのか。何故自分の名前 を名乗ろうとしないのか。 名乗らないのではなく−−名乗ることができなかったのだ、彼には。「多分法を作ったのも施行したのも先代だろう。規定年齢になった国民の子供達をランダムに十数名選び、仮想の町で最後の一人になるまで殺し合わせる。そして誰が最後まで生き残るか、皇族と貴族の賭の対象になっていた」「最悪だな」 このケースが一番考えたくない。そう思ったのはクジャだけではないだろう。自分達は命懸けで戦ってきたというのに。「…この話は、今考えても答えが出そうにないな」 行き詰まったところで、皇帝は結論を出した。「支配者の目的はともかく、今は勇者と英雄対策だ。時間はそう残されていまい」 猶予は、ない。闇のクリスタルが完成するまでに、ケリをつけなくてはならないのだから。NEXT |
謎解きパズル、勝者は未だ不在。