皇帝、アルティミシア、クジャ、ティーダ、ジェクト。このメンツの中で一番足が速いのはティーダである。 が、彼はライトの血を頭からもろにかぶっている。とてもその姿のまま彷徨かせるわけにはいかない。必然的に暗闇の雲を追いかける役目は、次に足の速いジェクト、クジャとなった。残る面子は証拠隠滅係である。−−くそ、最初から最後まで後味悪ぃ…。 ジェクトは小さく罵りの言葉を吐く。暗闇の雲に恨みは無かった。ただ偶然にも(偶然かどうかは状況的に微妙だが)、ライト殺害の現場を見てしまったからに他ならない。口封じなんて、一番やりたくない事だ。子を持つ親として、ケフカの保護者代わりだった彼女には個人的に親しみもある。 仲間に引き込めば、口封じの必要はない。そうでなくとも、ゴルベーザのように封印をかければそれで良かった筈である。 だがタイミングが最悪だった。敬愛する勇者を殺めた直後、ティーダの精神状態は酷く不安定だったに違いない。そこに降って沸いたイレギュラー。動転して反射的に剣を向けたのも致し方ない事ではあった。 そして一度刃を向けてしまえばもう仲間に引き込む選択肢は無い。それにもし彼女がゴルベーザにかけた封印を解いたなら、同じ手段を用いるのはナンセンスだというのも分かる。状況に、残る四人は瞬時に対応していた。すぐにティーダの援護に回ったコンビネーションはさすがと言える。 分かってはいるのだ。それでも、感情の問題はまた別で。−−なぁティーダ。俺達がやってる事は…本当に正しいのかよ? まだ何かを隠しているフシのある息子。おそらく世界の真実に関して、まだ自分の知らない秘密があるのだろう。あの、誰より仲間と夢を愛した彼を、こんな方法をとらざるおえないまで追い詰めた何か。 諦めない、という選択肢は無かったのだろうか。いや、諦めないからこそ今足掻いているのだろうか。 けれど、ジェクトもティーダも、平和になった世界を見る事無く消える運命。セフィロスを殺し、ライトを殺し、暗闇の雲も殺し。そうやって一人ずつ消えていったら−−一体最後に何人が生きて日の当たる場所を歩けるのだろう。 一体何人が、幸せになれるというのだろう。「おかしいな…。確かこっちの方面に来た筈なんだけど。見当たらない…」 ジェクトからやや遅れて飛んできたクジャが、困惑したように呟く。それは暗闇の雲の姿が見つからないせいだけではあるまい。彼女の気配を追って、自分達が辿り着いた先は−−コスモス陣営のホームのすぐ近くだったのだ。 何故、暗闇の雲はわざわざ敵陣の方に飛んでいったのだろう。確かに現状、カオス陣営に戻るのも危険だったのかもしれないが−−。「無知とは…愚かな事よ」 「!?」 ジェクトとクジャは反射的に飛び退き、身構えていた。ジェクトの背筋に冷たいものが走る。先程から予想外の事ばかり起きる−−何でこの男が、こんな時間にこんな場所に現れるのか。「ガーランド…」 憎々しげに名を呼ぶクジャ。そういえばクジャはガーランドを呼ぶ時、いつもこんな表情をしている。まるで親の仇でも見るような、怒りと殺意に満ちた、眼。何故だろう、といつも気になっていた。クジャとガーランドは別の世界から召喚された筈で、元の世界での因縁などあろう筈がないというのに。「何でアンタが此処にいるわけ?用が無いなら帰っておくれ。今、僕は機嫌が悪いんだ」 死神の憎悪を、猛者はどこ吹く風とばかりに受け流す。そんな事はどうでもいい、と言わんばかりに。「大した用ではない。ただ、何も知らずにあの者どもに踊らされる貴様らが…あ まりに不憫でな。隠された真実を教えてやろうと思ったまでよ」「何…!?」 「まさか貴様らがやろうとしている事…このわしが気付かなんだとでも思ってい たか?滑稽だな」 ガーランド。自分達カオス陣営のリーダーであり、輪廻継続の監視者でもある男。自分達の閉じた運命を管理する支配者、その前に立ちふさがるケロベロスと言ってもいい存在。 迂闊だった。計画遂行にばかり気を取られていたが−−最大の邪魔者がすぐ傍にいたのだ。 しかし、分からない。ならば何故問答無用で戦闘に持ち込まない?わざわざ不意打ちを捨てて、裏切り者にも等しい自分達に話しかけてくる? それに−−。「この俺様が踊らされてる…だと?どういう意味だ。あの者ども…ってのはティ ーダ達の事かよ?」 隠された真実?確かにこの男は、自分達より遙かに多くの事を知っているだろうが。「セフィロスとウォーリア・オブ・ライト。闇のクリスタルは全て破壊された筈なのに…何故世界に変化が現れないのだと思うか?」 「な…?」 そこまでバレていたのか。いや、今はそんな事より。 闇のクリスタルが破壊されてから、時の鎖が断ち切られるまでは、いくらかタイムラグがあるからだと思っていた。実際皇帝達からそう聞いている。けれど、本当の理由は−−そうではない?「簡単だ。…闇のクリスタルはまだ一つ、残っている。契約者は全員で三人いた 。それだけの事」 スッ、とガーランドの腕が持ち上がり−−真っ直ぐに、クジャの方を指差した。「三人目の契約者は…お前だ、クジャ。あの者どもは最後にお前を殺すつもりで 、その力を利用したのだ」 世界がひび割れる音が、確かに聞こえた。少なくとも−−ジェクトの耳には、確かに。Last angels <詞遺し編> 〜3-20・虎視眈々〜 この世界から消えるより先に、気が狂ってしまうかもしれない。早朝、ベッドの上でティーダは思う。 この世界が始まってからというもの、毎晩ろくに寝れた試しがない。真夜中に用があって抜け出しているせいだけではなかった。明らかに精神的なストレスである。この一週間だけで体重も四キロ減った。 セフィロスを殺し、ライトを殺し。それだけでもおかしくなりそうなのに、まだあと一人契約者は残っている。その上ライト殺しに至っては、知らぬ存ぜぬを突き通さなくてはならない。元々感情的になりやすい自分が、いつまで役者になれるだろう。 眠いのに、眠れない。そのまま結局朝になってしまった。そろそろ誰かしらが異変に気付いて騒ぎ出す時間帯だ。 ドンドンドン! 噂をすれば影。慌ただしい足音と共に、乱暴なノックがあった。さて、来訪者は誰だろう。布団にくるまり、寝ているフリをしながら思う。部屋が両隣にあるバッツかジタン、に一票。「ティーダ!大変だよ、起きて!!」 予想は大きく外れた。いつも寝坊常習犯のオニオンナイトの声。ライト不在を知らされて飛び起きたのかもしれない。そう思いながら緩慢な動作でドアに向かい、鍵を空ける。「う〜…何ッスか、朝っぱらから」 我ながら白々しい物言いだが、自分は何も知らないフリをしなければならない。目をこすりながら顔を出す。実際、眠いのは確かだ。「ごめん、煩くして。今、みんなを起こして回ってるところなの」 ティナも一緒だったらしい。少年の後ろから、やや申し訳なさそうな顔で佇んでいる。「あぁぁっ…こんだけ騒いでるんだから自力で起きてきてくれてもいいのに!セ シルもまた寝坊してるし…あああっもぅっ!!布団の上からサンダーかましてやり たいよ」「オニオン…それ、やると後が怖いからやめて。全力でやめて。私まだ死にたく ない」「…右に同じ」 コスモス陣営の影の支配者と名高いセシル。本気で起こらせちゃマズい人リストNo.1。確かに彼の朝の弱さは酷いものがあるが、下手な起こし方をしようもの なら、何が起こるか分かったもんじゃない。真顔で冷や汗をかくティナに、心から同意するティーダ。「……あのね。私もよく知らないんだけど。ライトさんがいなくなっちゃったみ たいなの。クラウドの話だと、装備一式なくなってるらしくて…自分から出て行 った可能性が高いんじゃないかって」 だろうな、という呟きは心の中だけで。 屋敷を抜け出して、自分は月の渓谷エリアまで彼を呼び出した。つまり、そこまでやって来たのはライトの意志であり、彼は死に場所まで自ら歩いて来た事になる。 これも計算のうちだった。誰かに襲われた、あるいは浚われたと認識されるより、自分から出て行ったと思って貰った方が都合がいい。そちらの方が深刻に考えられずにすむ。実際、嘘ではないのだから。「自分からいなくなったって…一体何処に?まぁあの人が無茶な真似するとは思 えないけど…」 「私もそう思う。ただ、夜中にこっそり出て行ったみたいで…それがどうしても 気になって」「うーん」 半ばパニックになっているオニオンを横目で見ながら、ティーダは頭を掻く。そして考える。 ライトの遺体は、セフィロスの遺体を埋めたのとそう遠くない場所に弔ってある。特に目印があるでもない、広いエリアだ。そう簡単に遺体が見つかるとは思えないが。「もしかしたら、心当たりある人がいるかもしれないし。とりあえず全員に話聞いた方がいいんじゃないッスか?自分から出て行ったなら、誰かに何か話してるかもしれないッスよ」 万が一、という事もある。全てが発覚する前に、計画を完遂させなければ。あとはクジャの体内の闇のクリスタルさえ破壊すれば、全てが終わるのだ。 昨日はごまかしたが、スコールの事も気になる。もし自分に不信感を持ったとしたら、このタイミングでのライトの失踪への関与も疑われるかもしれない。 部屋だってそう。鍵はかけて出たが−−マスターキーさえ借りれば、全員の部屋を簡単に開けられるのである。昨晩も部屋を抜け出した事に、気付かれた可能性もあった。−−けど、まだ確証は何も無い筈だ。 全てが確信に変わる前に、ケリをつける。クジャを殺した後、正確には何が起こるのか分からないけれど。時の鎖さえ断ち切れたなら、自分はそれでいい。仲間達にどれだけ憎まれようと、罵られようと、彼らさえ幸せになってくれるのなら。 この想いも、迷いも、悲しみも。戦いが終われば全て消えてしまう。それは苦しくて−−けれどそれが、救いでもある。 この心が耐えきれなくなる前に。闇に呑まれてしまう前に。全てを消して、終わらせてしまえば、いい。−−ユウナが聞いたらきっと…怒るんだろうな。それじゃユウナレスカがやってた事と変わらないって。わかっていながら罪を重ねる自分を、人は愚かと笑うのだろうか。 「それとね…ティーダ」 「うん?」 どこか固い表情で、ティナが言葉を続ける。「スコールの目の前で…昨日の晩。暗闇の雲が死んだらしいの。カオス陣営で何 かあったらしくて…酷い怪我してたって」 「!!」 冷や汗が流れた。あの夜どう探しても見つからなかった妖魔。まさか獅子の前で力尽きていたとは。−−まさかスコールに…俺達の事を話しちゃいないだろうな…!? 確かめなければ。 大事な時に妨害されたら−−今までしてきた事が水の泡になる。NEXT |
既に歯車は、正常に廻っていない。