思えば、ティーダと本気で戦った事は今まで無かったように思う。模擬試合。お遊び。そんなものでなら幾度となく刃を交えて来たが。 あんなものは、本気からはほど遠い。ジタンは身を持って痛感していた。「つっ!!」 降り降ろされる刃を、一瞬迷った後短刀をクロスする事で受け止めた。そしてすぐ、その選択が正しかった事を知る。 一撃が、重い。片手で受けていたら確実に吹っ飛ばされていた。あの細腕のどこにこんな力が眠っていたのか。全体重を乗せた剣に、支える腕が痺れる。 ジタンの判断は早かった。膠着状態からさっと飛び退き、素早く距離をとる。途中、ティーダのボールが飛んできて回避行動をとった。彼の父−−そのオリジナル技であるジェクトシュートだ。くらったら洒落にならないダメージをくらう。「ここまで離れりゃ、手は出せないはず…」 彼は、近距離と中距離での戦闘が得意だった筈。ある程度距離をとってしまえば、ティーダはジェクトシュートくらいしか手がなくなる。あの技は威力がデカいが、モーションが大きいのでかわしやすいのだ。 離れることで、ジタンの方も攻め手は減る。得意の空中戦に持ち込む事も難しくなる。しかし、こちらはまだ遠距離からでも攻撃手段がある。距離を保ちつつ、ダイダルフレイムなどで攻めていけばいい。 だが。そんなジタンの目論見はあっさりと打ち砕かれた。「おいおいおい…っ!?」 待て。ちょっと待て。 剣士であるティーダ。今まで一度たりとも、彼が魔法を使うところは見た事が無かった。そのせいか誰もが、彼は魔法が使えないタイプだと思っていたのである。ジタンも例外ではない。 ところが。あの様子−−何やらスペルを詠唱しているように見えるのは、気のせいか?「連続魔法…」 ティーダが片腕を振り上げる。「ダブル・ホーリー!!」 その手が降り降ろされるのを確認する前に、ジタンは全力で地面を蹴っていた。白魔法究極奥義、ホーリー。仲間達や兄の使うそれとはやや趣が違う。巨大な聖魔法の球が幾つも浮かび上がり、逃げるジタンを追撃する。 そして収束し、光の氾濫。大きな爆発が二度起こった。「ぐぁっ!!」 自分の足で無ければ、とうに餌食となっていただろう。ジタンの足ですら完全にかわす事は出来なかった。背中に爆風を受け、吹っ飛ばされる。どうにか受け身はとったものの、背中に走る激痛。多分火傷で素敵な事になっている。「よく避けたっスね。雑魚なら一撃目で粉々になってるとこっスよ」 余裕綽々でティーダが言い放つ。かわされた事にさして驚いてもいない様子で。「このヤロ…魔法使えたのかよ!しかも連続魔法なんて…マスタークラスの賢者 でも難しい超高等技術じゃねぇか」「記憶を取り戻したら、元いた世界の技や魔法も使えるようになったんだよな。別に隠してたわけじゃないっス」 次はガレベル魔法オンパレード行ってみる?と。あっさり言い放ってくれたティーダに顔がひきつる。 作戦変更。遠距離からちまちま攻める方がよっぽど危険。魔法で狙い打ちされたらひとたまりもない。「上等だ…!」 正直。今のティーダに、どうすれば勝てるのか皆目見当もつかない。魔力はマスタークラス、剣技もマスタークラス、スピードですら互角。空中戦に持ち込めば勝機はあるかもしれないが。 なのに。何故だろう、気分が高揚して仕方ない。彼との戦いが楽しくなっている自分がいる。命懸けであることも忘れて−−否、命懸けであるからこそ。「行くとするか…!」 やってやる。自分の道を貫く為に、理解し合う為に。 持てる力を全て出し切って、最高の舞台を。Last angels <詞遺し編> 〜3-25・疾風怒濤〜 何なんだアイツは。 魔導師として最上位の力を誇る自分だからこそ分かる事。ジタンと一騎打ちに入ったティーダに、クジャは驚愕する。 ティーダの本領は剣術だ。長い戦争−−刃を交える機会は幾度となくあったから、知っている。おそらくその認識は間違いではない。だが、今までの彼は全てでは無かったのだと思い知る。 記憶が戻った事で、かつての世界での力が蘇ったというのか。まさか本当の彼が、あそこまでオールラウンダーとして動けるなんて。ただでさえ難易度Sランクに位置するホーリーを、連続魔法で操ってみせるとは。 本来の剣術に加え、あの魔力の高さ。記憶を取り戻していない為、本来の実力を発揮できないジタンには少々荷が重い相手だ。 意外とプライドの高い弟は怒るだろうが−−助太刀に入るべきか。そもそも彼が仲間であるティーダと戦う羽目になったのも自分のせいなのだ。「と…そう簡単にはいかせてくれないか」 やはり、近くで待機していたか。背後に現れた気配に、ため息をつくクジャ。驚きは無い。ティーダが単身で自分の前に出て来るとは、最初から思っていなかった。「大人しくしててよ、オバサン」 苛立ちをそのままぶつけると、アルティミシアはあからさまにムッとした顔をした。自らの美貌を自覚している魔女相手だからこその台詞。実際、外見はともかく年齢的に“オバサン”なのは確かだろうし。 「戦いにも礼儀があるのですよ」「挑発も立派な戦略だと思うけど?」「その割には幼稚ね、子供並の悪口ですか」「その子供並の悪口で苛ついてる人に言われたくないね」 駄目だ。彼女と口喧嘩すると日が暮れてしまう。どちらも負けず嫌いだから余計にである。 最終的にはそれこそ幼稚園児並の悪口合戦になって終わるのだ。アレは分かっていても惨めである。以来クジャはなるべく彼女と口喧嘩はしないように気をつけていた。暴走を始めれば止まらなくなる自信がある。「意外だね。まさかのこのこ出て来るなんて。皇帝と一緒にまた影から狙い撃つ気なのかと思ってたよ」 それも戦略としてはアリだと知っている。実際彼女と皇帝の能力は、不意打ちと騙し討ちに適しているのだ。「この場所での奇襲は難しいですよ。見通しが良すぎる」「そりゃ分かるけど」「それに」 魔法の構えをとるアルティミシア。「これは私なりの、戦いの礼儀。…一度は共に戦った仲間に対する、ね」 台詞が終わるやいなや、魔力の弾が山なりに飛んできた。ショックウェーブパルサー。クジャは素早く回避して、自らも攻撃体制をとる。「なるほど。そりゃ予想外だ!」 仲間。その響きが少しだけ切なくて、少しだけ胸を打った。 こんな世界で無かったら。こんな運命で無かったら。こんな関係で無かったのなら。 自分達も本当の意味で手を取り合って、笑いあって−−共に闘う未来もまた、ありえたのだろうか。 ティーダVSジタン。 アルティミシアVSクジャ。 戦い始めた彼らの姿を、影から見つめる皇帝。「頭の痛い話だ。まったく…」 もはや策も何もあったものではない状態である。本来の目的を忘れて、ジタンとの勝負に夢中になってしまっているティーダ。下手なプライドに拘って、クジャとサシで戦い始めてしまったアルティミシア。 一応魔女の方は、多少囮として立ち回るつもりもあるようだが−−彼女の戦闘スタイルは、真正面からの戦いには向いていない。それはクジャにも言える事だが、まだ彼の扱う魔法の方が使い勝手がいいと言える。 ティーダを囮に、クジャをジタンの助太刀に向かわせ、その隙を狙い撃つ。それが最善であった事が分からないほど馬鹿な女ではないと知っている。にも関わらず、正面から戦いを挑んだのは何故なのか。「…魔女といえど人間の枠組みからは外れられん、か…」 時々。彼女は理屈に合わぬ真似をする。仲間。友情。愛情。絆。そんな目に見えぬものに執着して、暴走する事があるのだ。 多分その理由を、彼女自身もよく分かってはいないのだろう。おそらく亡くした記憶の中に、その答えが眠っている。何故彼女が魔女として生きる事になったのか。何故あんなにも、あの獅子に執着するようになったのか。「見ていて飽きん、生き物だな」「エクスデス…」 お前まで余計な真似をするつもりじゃなかろうな、と。睨む皇帝を、鎧の大男は涼しい顔で流す。 いや、その甲冑のせいで表情など窺い知れないが。なんとなく、その下に隠れた感情を察する事はできるのだ。大樹と呼ばれるその中身が、人間とはほど遠い存在であるとしても。「お前が我々に協力しようと言ったのは…単に目的が同じだったからだけではあ るまい」 自分も人の事をどうこう言えた口ではないが。このエクスデスという魔導士は、かつてのセフィロスと同じように単独行動を好むフシがある。 それは性格的なものというより、本能的なものだろう。 全てを無に帰す意志を宿した大樹。ゆえに、最終的には本人の存在も、協力した者達の事も全て抹殺対象となってしまうのだ。 必ず消さなければならないと分かっている仲間など、誰が好んで作ろうとするだろう。だからこそ−−皇帝にはどうしても、この男がただの“大樹”には見えないの である。情をわく対象を作らないように気を配るなんて、まるで人間ではないか。「世界は無から生まれ、無に帰すさだめ。その宿命から、逃れる事など出来はせん…」 私も、お前も、奴らもいずれ死ぬ。必ずや世界から消える時が来る、と。エクスデスの貫禄ある声が響く。「それが分からぬほど愚か者ではあるまい。百年、お前達を見てきて知った。お前達は全てが限りある時間だと、いずれ全て無になる事を分かった上で有を求めているのだと」 独特の言い回しだったが−−なんとなく、彼の意言いたい事は分かる。 人はいつか、必ず死ぬ。それがいつかの違いはあれど、死の宿命は絶対。しかし、それでも自分達は、僅かな時間と不確かな未来の為に抗っている。「ほんの少し…。少しばかりの興味よ。いずれ全て無になる。それは、輪廻の鎖 が解き放たれればいつでも出来る事。ならばそれまでの時間、お前達が如何様にして足掻くか観察してやろうと思ったまで」 興味。 それこそ、人間しか抱かない筈の感情ではないか−−そう思ったが、暴君が口に出す事は無かった。「無限…限りの無い可能性とやら。近くで確かめてやろうとな。だが…」 ハッとして、皇帝は顔を上げる。エクスデスも気付いたのだろう−−その雰囲気が堅い。 空気がピリピリと肌を刺す感覚。重く深い−−憎悪混じりの殺気。こんなオーラを放つ人物を、自分は一人しか知らない。「まさか…っ」 「どうやらこの世界も見限られたようだな」 哀れな僕のお出ましだ。口調に皮肉を乗せて言うエクスデス。 そして、その声が聴覚を震わした。『兄弟の絆…。実に忌々しい響きだ』 聖域が血に染まり−−絶叫が響き渡るまで、そう時間はかからなかった。 終焉を齎す者達が今、ゆっくりと舞台に上がって来たのである。NEXT |
魔法と剣と鏡を武器に、さあ、踊りましょうか。
BGM 『This moment』
by Hajime Sumeragi