「おやおや、今度は別の獲物がご到着かい?」 ケフカが愉快げに言う。ティナは涙に濡れた瞳で、現れた二人の青年を見る。「クラウド、セシル…どうして此処に?」 「そいつを追ってきたんだ」 クラウドが指したのは、オニオン。「操られて…しかもボロボロの状態で、オニオンは俺達の前に現れた。俺達で止 められれば良かったんだが、隙をついて逃げられてな…。このままじゃマズいと 思って探してたんだ」「操ったオニオンの力を試す為に、世界のあちこちを走り回らせてたってとこかな。で、たまたま目についた僕達を襲わせてみた…。でも、オニオンの意志が強 くてうまく事が進まず、さっさと撤退させたんだ…違うかい、ケフカ」 険しい表情のセシルに、ケフカはフンと鼻を鳴らす。「彼に一体何をしたんだい?」 道化は答えない。ただニヤニヤと笑うばかり。「そんなクズなど放っとけ。せっかく改良型の操りの輪をつけてやったのに、全然従わないばかりかあっさり壊れやがって」「クズですって…!?」 「それよりどう?僕と一緒に破壊を楽しむ決心はついた?」 ギリ、と唇を噛み締めるティナ。自分の宿敵。自分の向き合うべき相手。でも。「私は、あなたとは違う…ッ!」 出来るのか。こんな憎しみに囚われたまま。こんな黒い感情に支配されたまま。自分はきっと−−ケフカを殺す。殺してしまう。それがこの閉じた世界を継続させる事になったとしても。 オニオンを−−愛する人を殺したケフカを−−赦す事なんて、できる筈がない。「無理無理。偉そうなこと言っても、どうせ力に溺れ、誰かを傷つけるに決まってる!」 あなたとは違う、ティナがそう言った一瞬。ケフカの眼に、見たことのない感情がよぎった気がした。それはすぐに消えてしまったけれど。「あなたに…あなたに何が分かるって言うの!」 同情も、殺し合いも、奪われるのももうたくさん。たくさんだ。他に何も考えられない。激情に、魂まで塗りつぶされていく感覚。「憎しみに支配されるな、ティナ」 スッ、と肩に手を置かれた。クラウドだった。「言っただろう。まだ終わりじゃない、と」 突然。白い光が、オニオンの遺体を包んでいた。優しい光だ。少年の頭上に銀色の輪が浮かび上がる。「オニオンにはソルジャー並の体力がない。その上途中で逃げられたからな。こいつを救える保証は無かった。しかし」 理解する。これは、この魔法は。「一度きりの大博打。どうやら、成功したらしい」 たった一度だけの蘇生魔法−−白魔法究極奥義、リレイズ。抱きしめた身体が、暖かくなる。とくん、と小さな鼓動が耳に届き、ティナは目を見開いた。青白かった頬に赤みがさす。小さく、身じろぐ気配がする。 そして、オニオンナイトは再びその眼を開いた。ゆっくりと、しかし今確かに。その若草色の瞳が、ティナを見上げている。「ティ、ナ…」 「ぁ…」 奇跡。まさか、こんな事が。クラウド達が。「あんたの世界はまだ、死んじゃいない」 凛とした兵士の声が告げる。「あんたは今一度、地獄に叩き落とされた。そこから這い上がってみせろ。守りたいものが、あるんだろ?」 迷いは、無かった。ティナはオニオンにケアルガをかける。「ティナ…僕は、一体」 「お帰り。…オニオン」 まだ状況が理解できてない様子の少年に、微笑みかける。「大丈夫。…私は負けない」 振り向く。泣きそうな顔でそこに立つ暗闇の雲と目が合う。「彼を、お願い」「……分かった」 妖魔に少年を託し、立ち上がる。ケフカはせっかく殺した少年が生き返ってしまったことに、不満を露わにしている。クラウド達とティナの会話にも退屈そうに欠伸をする始末だ。 目の前の悲劇にも、奇跡にも、何かを感じる事が出来ないとしたら。それはとても虚しくて−−きっと、悲しいことで。「…オニオンが生き返っても、一度あなたが彼を殺した事実は消えない。あなた だけは、許さない。でも」 憎しみで見失ってはいけない。光は、此処で生きている。「あなたから、あなたの言葉から私は逃げない。見つけたの。守りたい未来を。どんな力にのみこまれようと、私はもう、何も見失わない!」 彼と、彼らと共に生きる。生きていく。 ハイ、もう終わったの、ハイ、とぶつぶつ言いながら聞き流すケフカ。今の自分の言葉は道化の心に届かないのかもしれない。でも。 これは自分自身への宣誓でもあるから。「フーン、だったら」 道化の合図に、闇が膨れ上がる。現れたのは−−漆黒の猛者と、墜ちた英雄。「すべて破壊するまで!」「裏切り者も、微かな希望も。永遠に光を奪い去ろう」 セフィロスの姿に、苦い顔になるクラウド。裏切り者−−暗闇の雲のことだろうか。少年を抱えた妖魔は動けない。代わりにセシルが剣を抜く。「お前達も我らの力に溺れるか?それとも……」 「乗り越えてみせる。私達、全員の力で」 もう、揺らがない。一度死ぬほどの絶望を味わい、ドン底まで墜ちたからこそ、言える。「セフィロスとガーランドは僕達に任せて!」「分かっているな、ティナ?」 二人に向き合うクラウドとセシル。オニオンを守るべく、暗闇の雲は後退する。「うん。私は……」 ケフカを振り向く。自分は、決着を着けなければならない。自分と、自分自身の過去と、彼と生きたであろうかつての世界に。大仰なため息をつくケフカ。「力に溺れて心が壊れちゃえば、もっといいオモチャになれたのに」「…なんて人」 悲しい。悲しい人だと、そう思う。心が壊れて世界のオモチャにされたのは−−多分、きっと。「誰も壊せない臆病者は、僕に楽しく壊されちゃいな!」 今。置き忘れてきた過去が、想いが交錯する。Last angels <想試し編> 〜4-14・少女と道化の懺悔Y〜 −−被験体No.6、ティナ=ブランフォード。 年齢・満十八歳。幻獣の父・マディンと人間の母・マドリーヌの間に生まれたハーフ。それゆえ彼女の時代から千年は前に、魔大戦で失われた筈の魔導の力を生まれながらに宿している。 十六年前、幻獣界に侵攻してきたガストラ帝国に母を殺され父を封ぜられ、帝国に拘束された。幼くして目の前で親を殺されたせいで、記憶はないものの“愛 する人”を奪われる事へのトラウマが大きい。 戦士としての潜在能力は計り知れない。ゆえにガストラ帝国に拘束されてからは、操りの輪によって思考をコントロールされ、殺戮兵器として生きる事を余儀無くされる。 そこに彼女の意志はなくとも、彼女の手によって奪われた人命は数え切れない。その時彼女を操っていた直属の上司がケフカであった。−−何も感じず。何も願わず。ただ壊していけばいいと信じ込まされていたあの頃。今なら分かるの。あの感情は…私じゃない。ケフカのものだったんだって。 その後トレジャーハンターのロックとの出会いや、世界を救う旅を得て自由を得るも、トラウマと環境による後遺症が随所に見られる。 感情表現が苦手な上情緒不安定。それは精神的外傷のせいもあるが、生まれ持った力のせいが大きい。人の器にあまりあるほどの幻獣の力は、かつての旅の中で一時安定したものの、この世界に召還された際再び均衡を失う。 原因は、この世界に召喚された事で能力が強化された為。通常は記憶を失う事で戦士達の能力は大きくダウンする筈だが、彼女だけは例外。召喚して初めて発覚した事だが、ティナは世界を渡ることでその場のライフストリームを吸収し、力を蓄える体質を持っていたのだ。 これは管理者側が意図的にいじったものではないと言っておく。 その為、記憶喪失による能力ダウンと合わせて、彼女のみ召喚前よりやや力がアップする結果となった。それゆえ制御能力が追いつかなくなったものと考えられる。−−力が、怖い。私は誰も傷つけたくないのに。誰も死なせたくないのに。お願い…私を、一人にして。 孤独を望んだ少女を救ったのがオニオンナイトである。オニオンには元来、近くにいる他者の能力を安定させる性質があるが(これも召喚後に発覚した能力だ)、それだけではない。 実は召喚直後に、ティナは力を暴走させかけ、オニオンを負傷させている。しかし傷を負ってなお、少年は少女を見放さず隣にいることを望んだ。またリーダーのウォーリア・オブ・ライトも、全て知ってなお彼女を受け入れた。 彼らが少女の中で別格視されている要因はここにある。 しかし、同世界にてこの二人に悲劇が見舞う。ガーランドによる拷問により命を落としたライトと、同じく拷問を受けた上目の前で勇者を失い心が壊れたオニオン。ボロボロにされた二人を一番最初に発見してしまったのがティナであり、彼女の力と精神の不安定さに拍車をかけることとなってしまった。−−あの子が、あの人が苦しんでいる時、私は何も出来なかった。二人は私みたいな化け物も人間として扱ってくれた。救ってくれた。それなのに……私は、何 の恩も返してない。ありがとうの一言すら。 ティナの暴走率の異様な高さは、以上の原因によるものである。 ライトとオニオンの死、または暴走が彼女に与える精神的ダメージは大きく、度々ギリギリの制御状態にトドメを刺してしまう。 また記憶が回復した際、能力アップの幅が最も大きいのがティナ。それゆえ精神的に持ちこたえたとしても、ストレスによる記憶回復により制御を失う可能性が高い。 コスモスがメンバーの中でも特に彼女に対し念入りに記憶操作を行っている理由は、つまるところ記憶というより彼女の力を封じているわけである。 感情と力のコントロールに多大に課題を残すティナだが、完璧な制御を行えるようになった暁には見違えるほど素晴らしい魔導戦士になれるであろう。それほどの素材、筆者としても是非とも完成が見てみたい。 その為の最大の鍵はやはりオニオンナイトの存在であろう。 いずれ解放される彼女の記憶と力。しかし今まではティナの制御が未熟すぎた上オニオンナイトの素質も不完全だったため、二人が一緒にいても暴走を食い止めるのは困難だった。 だが輪廻が繰り返される中、二人の能力も磨かれつつある。また、ティナのオニオンへ向ける感情が変化しつつあるのも大きい。 元の世界で、孤児達の母親代わりを務めていたティナは元より母性が強い。当初彼女がオニオンに向けていたのはそういった想いの延長線上にあったが、今は恋愛対象としても意識し始めている模様。−−ありきたりな言葉かもしれない。でも。あなたが好きだから。あなたの未来を、私に下さい。その為なら何度だって立ち上がれる。 オニオンの素質と彼への愛情が、ティナのコントロール力を大幅に引き上げていく。一歩ずつ、確実に。 彼と共に歩む先で、彼女は我々に、限界のさらに先を見せてくれるかもしれない。NEXT |
祈る言葉に思いを乗せて。
BGM 『積木崩しと破滅の歌』
by Hajime Sumeragi