何の為に戦うか。何の為に前に進むか。 答えが見えないまま、誰もが歩を進める。分からなければならない。なのに、分からなくても戦うしかないパラドックス。セシルとゴルベーザにだけ、何かが見えているようだった。それは抗い、何かを手にして覚悟を決めた者の眼であった。 イミテーションを打ち破りながら、とりあえず手近なエリアを目指す一行。クリスタルを手にする為に宿敵と対峙する必要があるのなら、まずカオス陣営の者達を見つけなければいけない。 セシル以外の三人と対になる相手−−皇帝、セフィロス、ジェクト。その三人の本拠地を目指そう、というのは至って自然な流れと言える。感情面から言えば複雑にせよ。 とりあえずの目的地は、皇帝の根城であるパンデモニウムとなった。あの城はトラップだらけな上、上にも横にも広く、散策が非常に面倒くさい。実は誰もが詳しい調査を忌避していたエリアだったりする。 が、嫌だろうと何だろうと避けては通れないのであって。探す前から疲れた顔をしてしまうくらいは許してほしい、とティーダは思う。 そのティーダは今、アルティミシア城に来ている。正確にはティーダだけでなく、フリオニール達四人もいるのだが−−手分けして付近を散策する事になった為仲間達は今近くにいないのだ。−−やっぱり、輪廻が繰り返されるたび…エリアの繋がりもランダムで変わるん だな。 記憶を継承できるようになってから発見した事は多い。たとえば、前の世界の記憶を頼りに散策すると痛い目をみる。若干地形や物の配置が変わっている事があるからだ。罠の場所も然りである。 また、エリア同士の配置も異なる。自分達の屋敷が次元城にある事は変わらないが(そして屋敷の内部構造はさすがに殆ど変化しない)、その隣に来るエリアはどうやら世界ごとに異なるらしい。秩序の聖域だったり、闇の世界であったり。 もしかしたら同じ世界でも、変動する事があるかもしれない。残念ながら境界線を越えるまで、その向こうのエリアが何なのかを知るのは難しいのだ。次元城エリアの初期配置が変わらないおかげで、ホームには帰投できるのだが(それでもたまにスコールあたりが迷子になるのが目撃されている)。 こういう時、サイトロ魔法の使えるオニオンが非常に羨ましい。彼のサイトロなら、その時点での地図を一発で具現化できる。調査任務の際は非常に有り難い。そしてこの魔法は彼にしか使えない。 まあ、そのうちバッツがものまねで実践してみせるかもしれないけれど。−−とと。今はそんな事よりも…だ。 ポケットの中。PHSを握りしめるティーダ。メールは既に読んでいる。話したい 事があるから指定ポイントまで来い−−と。相変わらずの上から目線口調。差出人は皇帝だった。 願ったり叶ったり。自分も彼と話したいと思っていたのである。彼らとの共同戦線は未だ継続中だ。前の世界での作戦が失敗した故、次を練らなければならないのは確か。何より、今後の事についても話し合わなければなるまい。 長く沈黙を守っていた女神が示した希望、クリスタル。暴君はそれを、いかようにして受け止めているのか。 皇帝とアルティミシアの望みは、大きく分けて二つ。一つはこの世界の輪廻を断ち切ること。二つは自分達の本来の記憶を取り戻すこと。恐らく、後者の願いは、クリスタルを手にする事で−−叶う。 だとすれば、自分達のクリスタル探しに対しては至って好意的な態度で接してくる筈だが。「アンタもさ…本音は結構複雑、だろ?嬉しいやら苦しいやらで」 足音と気配だけで分かる。後ろに立つ彼がどんな顔をしているかくらいは。「ふん…貴様に言われたくはないな」 皇帝は苦い口調を隠しもせず、言った。 Last angels <想試し編> 〜4-23・義士と暴君の真実U〜 「無駄話は嫌いでな。さっさと本題に入って貰おうか」 これは機嫌悪いな。いや、いいわけないか。 あまりに分かりやすい皇帝の様子に、ティーダはむしろ苦笑したくなる。「同感ッス。…みんなが戻って来る前に話、終わらせなきゃだし」 「だろうな」 現状、自分達と皇帝は敵対関係なわけで。こうして話しているのを見られれば、あらぬ疑いをかけられるか余計な心配をかけるか。どちらにせよ好ましい事ではない。仲間達はこの城をあちこちうろついている筈だ。戻って来られれば厄介極まりない。「ティーダ。貴様、この世界でどうする気だ。いや…言い方が正しくないな。こ の世界限定ではない。これから、どうする気なのだ」 予想していた質問。その答えも、用意してはいた。「…どうする気、なんだろうね」 それは、相手を納得させるに程遠いだろうけど。「…腹括ってたつもりだったんだ。全部捨てて、守る覚悟決めてた筈なのに。今 は…空っぽなんだよ。…考えてる。けど、うまく考えられない」 前の世界の、計画。失敗したのはあちこち不備があったからにせよ、狙いはけして悪くなかったと言っていい。 ウォーリア・オブ・ライト。セフィロス。クジャ。 三人の契約者の体内に封じられた闇のクリスタルを破壊する事で、輪廻の鎖は解き放たれる。少なくとも足がかりにはなる、と。自分達のやった事が的を射ていたからこそ、ガーランド派の邪魔が入ったのだから。多分。あの三人を“きちんと殺す”事ができれば、計画は成就する。今からで も遅くはあるまい。ガーランド派に知られてしまった以上やりにくくはなるにせよ。でも。「馬鹿みたいに、体が震えるんだ。セフィロスとライトさんを殺した瞬間。クジャを殺そうとして、ジタン達と戦った瞬間。…思い出すだけで、もう」 同じ事はもう。「できないよ…。もう…できないッスよ…」 怖い。あんな真似ができてしまった自分が怖くて仕方がない。後悔するつもりも反省するつもりもないけれど。あの時の自分の覚悟を否定する事など絶対にないけれど。 恐怖を知ってしまった。絶望に墜ちてしまった。もう、同じ場所には戻れない。正気のまま同じ罪を犯すなんてこと、できる筈がない。 大嫌いだ。こんな弱くて、身勝手な自分が。「……そうか」 暴君は驚く様子も、罵る素振りもなくティーダを見つめていた。予想通りだった、とでも言うように。「意外ッス。…何がなんでも、もう一回試すって言うかと思っていた」 「私を何だと思っているのだ、貴様」 どうやら失言だったらしい。皇帝の眉間に皺が寄る。「失敗すると分かっている命を下すほど愚かではない。馬鹿者が」そうだな、とティーダは小さく呟く。その名の通り“暴君”のようでいて、こ の男はけして筋の通らぬ真似はしない。無謀な命令もしないし、部下に出来もしない指示を下す事もない。 何より。 言葉にしないだけで、本当はとても情が深いと知っている。それは記憶がないからこその人格かもしれないけれど。でも。 こんな彼だからこそ、ティーダも協力したいと思ったのだ。「…その件についてはひとまず保留だ。今何よりもまず考えなければならないの は、あの女神の示す希望とやら…クリスタル。あれについてはどう考える?」 話したい内容はお互い同じだったらしい。クリスタルについて。女神の言葉をどこまで信用するか。そして仮に信じるとして−−自分達はどんな対応をするべきなのか。「セシルとオニオンとティナはもう、手に入れたみたいッスよ。でもって、記憶と力が戻るのは間違いないっぽい。個人的には、手に入れて損はないと思うけど?俺もあんたらも、さ」「…そうだな」 皇帝が欲しがる、記憶という名の秘密。それがクリスタルを得る事で手に入る可能性は極めて高い。ティーダが予想していたように、皇帝もクリスタルを求める事に異論はないらしい。 だが。「手に入れられるのか?貴様も、我々も?」 静かに告げられた言葉に、ティーダは眉をひそめる。「…どういう意味ッスか?」 それはまるで−−自分達には無理だと言っているようではないか。「そのままの意味だ。…メールで言っていたな。クリスタルを手にするには、宿 敵との和解が必須である可能性が高い、と」「言ったけど…」 「和解、できるのか?客観的に考えてみろ」「……」 黙るしかない。皇帝の言いたい事を悟ったからだ。 自分とジェクトは親子という間柄だが、その確執は大きい。むしろ親子だからこそぶつかる点もある。それは、ティーダが記憶を取り戻してからはより顕著なものとなってしまった。 記憶が無かった時はただの反抗心だったと言えなくもない。しかし今はどうだ。真実を知り、過去を思い出して。自分は真っ先に何を感じた? 否定しようがない。愛情の裏返し−−憎悪だ。父を憎んだ、これ以上無いほどに。 何故なら元いた世界で、自分と父は。「俺もあんたも…同じ理由で、難易度MAXなわけか」 同じ事が皇帝とフリオニールにも言える。もっと言えばセフィロスとクラウドにも。 皇帝にもフリオニールにも、元いた世界の記憶がない。が、そこに感情の差がある。皇帝はフリオニールに対して、青臭い若造だ、くらいにしか感じていない。しかしフリオニールはどうだ。何故だか明らかに皇帝を憎んでいる様子ではないか。 記憶が無いから、原因も理由も分からない。それなのに、一方的な負の感情だけが根強く残っているなんて−−面倒としか言いようがない。「憎しみでクリスタルは手に入らん。仕掛け人があの秩序の女神なら尚更だ」 まったく仰る通りで。ティーダはぐうの音も出ない。そう思いつつも、自分の感情をどうこうする気がないのだから益々厄介な。否。正確には“出来ない”のである。その憎しみが愛するがゆえのものと分か っていながらも、オセロの駒のようにはひっくり返せない。ジェクトが憎い。慢性的にこみ上げてくる黒い感情を、どうすれば抑えこめるのやら。 原因がハッキリしていてもしていなくても、対処法が見つからない。心は本当に不自由だ。「…以前、貴様は言ったな。私の知りたい事は全て知ってる筈だと」 「うん。言った」「それはつまり…私とフリオニールの因縁が何かも知っている。そうだな?」 「…ああ」 何故フリオニールが皇帝を憎んでいるのか。何故皇帝はフリオニールを憎んでいないのか。星が教えてくれた中には彼らに関する記憶もあった。 けれど自分の口から語るつもりはない。それはいずれ皇帝が自らの力で辿り着かなければならない事だからだ。 教えられた言葉だけでは、ただの知識でしかない。心と魂で思い出さない限り、意味は無いと知っている。「…お前はどう思う。私達の確執は解決できるレベルのものか?」 皇帝も理解しているからこそ、訊かない。それでもいつになく弱気な発言だった。基準の判断を他人に委ねるなんて。「…フリオニール次第、だろうね」 ティーダに言えたのは、その一言だけだった。NEXT |
騙るな、黙れ。