アルティミシア城エリアに、人影は無かった。どうやら城主も配下達も今は外に出ているらしい。ひとまず再び集合したフリオニール、セシル、ゴルベーザ、クラウド、ティーダの五名。通路の隅で、作戦タイム中である。「アルティミシアと、皇帝…一緒にいるのかも。まあ一緒にいたところで、二人 で襲ってくる事は無いと思うけど」「何でそう思うんだ?」 段差に座り。足をぶらつかせながら言うティーダに、フリオニールは首を傾げる。彼の物言いは随分と確信的だ。魔女と暴君の性格を熟知しているかのような。「不思議?」 ティーダはちらりとこちらを見て、少しだけ唇の端を持ち上げる。普段の彼らしからぬ、どこか苦い笑み。「戦えば分かるッスよ。あの二人プライド高いし、戦いへの礼儀ってヤツに凄く拘ってる。ああ見えて正々堂々戦いたいタイプっしょ。それに…クリスタルを手 に入れる為には、サシで勝負しなきゃ駄目っぽいだろ。二人とも、俺達がクリスタルを手にしてくれた方が嬉しい筈だし」 フリオニールは、クラウド、セシルと顔を見合わせた。クリスタルを手にすれば、敵方の連中は不利になると思わないのだろうか。それとも−−自分達が知った“輪廻”という名の真実を、既に彼らも知ってい るのか。「…記憶が欲しいんだ。アルティミシアと皇帝は。話、聞いた事あるから」 自分達の疑問に気付いたのだろう。尋ねる前に答えるティーダ。「輪廻の事実には気づいてても、自分達が元いた世界の記憶は戻らない。だから、知りたいんだって言ってた。自分達が何処から来たのか。一体誰なのか。特に…」 夢想はフリオニールの方を見る。「皇帝は…自分の本名も思い出せないから。称号しか名乗れないのが、歯痒いの かもしれないッス」「……!」 そういえば、と気付く。皇帝の名前を、自分達は誰も知らない。あの男が名乗った事など一度も無いからだ。彼はいつも自らを“皇帝”と自称する。それはず っと、自らこそ王であるというプライドゆえの名乗りだと、ずっとそう思っていた。 違ったのだ。皇帝は名乗らなかったのではない、名乗れなかったのである。フリオニールは何やらやり切れなくなり、下を向いた。 自らの本名も、分からない。それがどれだけ不安な事か。ウォーリア・オブ・ライトとオニオンナイトの二人もそうだった。 本当は、自らの存在が確立できない事が怖くて仕方ないのだと。一度だけ、たった一言だけオニオンがもらしたのを聞いた事があって−−どうしようもなく胸が痛くなったのを覚えている。 クリスタルが手に入った時、自分達はどこまで思い出す事ができるのだろう?そもそも自分は元いた世界で、彼の本名を知っていたのだろうか?「…考えたんだ。戦う理由。俺なりに…さ」 「うん?」 何の為に戦うのか。理由と目的は本当に同一なのか。最初に話を切り出してきた本人であるクラウドを見る。「野薔薇咲く世界。その夢を叶える為に戦う…それでだけでいいて思ってた。… 今でも、その夢は捨てちゃいないけど」本当はずっと“本当にそれでいいのか”と思っていた。矛盾に気付いていた。 それでも、立ち止まるのが怖くて、知らないフリで目を逸らしていたのだ。「ティーダの言葉でハッとしたんだ。俺達が戦う…もしかしたら戦って殺す事に なるカオスの連中にだって、正義はあるんだって。奴らの誰かを俺達が殺したら、誰かは悲しむかもしれない」果たして自分が夢を実現させられたとして。その“誰か”にとってはどうなの か。大切な誰かを奪うような“平和”を受け入れる事ができるのか。憎まずにい られるだろうか。 自分にはきっと、無理な事で。「平和な世界を手に入れる為に戦争をして、誰かの幸せを奪う。それってあからさまな矛盾なんじゃないかって思ったんだ」「フリオニール、でもそれは…」 「分かってる。それが現実だって。何かを犠牲にしなければ得られないものもある。仕方ない事もある。誰もにとっての真の平和なんて綺麗事でしかないって。…でも」 矛盾を矛盾のまま諦めて。叶える努力もしないなんて。赦される事だろうか。 仲間達は赦すかもしれない。神々も、世界すらも赦すかもしれない。 けれどきっと、フリオニール自身が赦せない。他の誰が赦しても、自分だけはきっと自分を責める。それでいいのかと、一生責め続ける。 だから。「…この戦いに限っては…可能な事もあるんじゃないかって気付いた。俺達が真 に戦うべき相手がカオスの連中じゃないなら。あいつらの幸せをわざわざ奪い取る必要なんてきっと、ない。それは俺達の心の問題なんだ」 自分達が彼らを倒したいと願うなら。その滅びを望むなら。それはあくまで私怨にすぎないと認めなくてはならない。 平和の為に。正義の為に。仲間の為に。−−そんな綺麗な言葉で飾っては、ならない。それではただの偽善者だ。「俺はまだ皇帝が憎い。でも…夢を叶える為にあの男を殺したら、俺は自分の手 で夢を汚す事になると思う。それだけは…絶対に嫌だ」 自分は私怨では戦わない。夢を叶える為に戦うと、そう決めたから。「決めた。野薔薇咲く景色を…みんなで見る。コスモス陣営のみんなだけじゃな い…カオスの奴らも含めて全員でだ。だから今、立ち向かう。それが俺の、戦う 理由だ」 苦しんで、迷って、足掻いて。その果てに今、見つけた答えがある。独りきりではけして辿り着けなかった、自分だけの真実が。Last angels <想試し編> 〜4-25・義士と暴君の真実W〜 答えも見えないまま、流されたくない。戦いに納得できる理由が、欲しい。 何故そう思ったのか、正直自分でもよく分からないが。ただ、覚えてもいない筈の記憶が頭の隅で疼く気がする。それでいいのか、お前はそれで満足なのか−−と。 だから仲間達に尋ねる事で答えを得ようとしたのだろうか。彼らの理由を知れば、自分の理由も分かるのではないか、と。−−だとしたら…とんだ甘ちゃんだな、俺も。 クラウドは自嘲の笑みを浮かべる。フリオニールは、期待した以上にハッキリとした意志を見せてくれた。答えを示してくれた。なのに−−その答えを聞いてなお、迷っている自分がいる。 否。答えを聴いたからこそ、迷っているのかもしれない。それとも焦っているのか。 彼に比べて、自分には人に誇れるような理由などない−−と。「…クラウドって、結構分かりやすいよね」 振り向くと、セシルが苦笑しながら立っていた。「ティーダ達はあっちでおやつタイムみたいだけど。参加しなくて良かったの?」「…いい。それより今は…一人で考える時間が欲しかったからな」 「だろうと思った」 自分はそんなに分かりやすいのだろうか。確かにティーダやバッツに比べて、お世辞にも感情表現豊かとは言えないが。「…クラウドって、いろいろありすぎて、背伸びしてさっさと大人になっちゃっ たタイプでしょ。今は精神年齢に外見年齢が追いついてるみたいだけど」 そうなのだろうか。記憶が無い以上、イエスともノーとも言い難くて、難しい顔になるクラウド。 ま、それは君に限った話でもないけどね、とセシルは笑う。「戦う理由……そんなの、ちゃんと考えたことなかった。僕も君とティーダの話 にハッとさせられた一人でね。…ちょっと後悔したな。一番最初に考えなきゃい けない事が目の前に転がってたのに…未来の事や目的ばっかり考えて、見失って た」 目的。そう、最終的に到達すべきゴール。 課程と結果のどちらかだけが正しいなんて言えない筈で。それなのに人は気付けば結果ばかりを追い求めてしまうから不思議だ。 世界を救う。それは課程ではなく結果。理由ではなく目的。道筋もあやふやなままそこに辿り着けたとして−−自分は果たして納得できるのか。ふと振り向いた先には、山のように屍の山が積まれているかもしれないというのに。「クリスタルを手に入れても、まだまだ見えない事って多いんだ。戦うって事は、誰かを殺して奪う事になるかもしれないって事。でも…それだけの覚悟を決め てまで戦う理由って分からなくて。そもそもカオスにしろ神竜にしろ…誰かを倒 せば僕らの願いが叶う保証はないでしょう」 でもね、とセシルは続ける。「フリオニールの夢。素敵だなって思ったんだ。…戦う事=奪う事にしない。憎 しみすらも越えて…文字通り“みんな”を救おうと願うこと。…それも一つの、 とても大きな覚悟だ」「“全員”で野薔薇咲く世界を、見る。それがあいつの本当の夢。それを叶える まであきらめず戦い続ける…か」 「フリオニールらしい答えだよね」 真っ直ぐで、折れない強い意志。騙されやすいほどの誠実さ、ひたむきさ。 クラウドには、あまりにも眩しいものだった。記憶にはないのに、喪失感だけは覚えている。自分は夢を亡くしたのだ、と。 だからこそ惹かれるのかもしれない。間逆の場所に立つ、義士の夢に。「野薔薇咲く、いつまでも平和な世界。それを、闇も光も隔てずに見ようなんて…。言い方は悪いが、甘すぎる。子供みたいな……夢だ」 「だからこそ、あんなに真っ直ぐなんだよ」「…知ってる。星にでも願ったのかもな」 流れ星に祈れば叶う、なんて。そんな夢幻を当たり前のように信じていた頃があった気がする。 けれど。現実はあまりに残酷で。残酷すぎて。大人になるにつれ否が応にも思い知らされた。 願っても、願っても願っても、叶わない事もある。泣き叫んで希っても、ボロボロになって手を伸ばしても、届かない星は必ずある。フリオニールの夢は、そんな“星”のようなものだ。現実の中で生かしていく にはあまりに綺麗すぎる。彼自身、それを分かっている筈なのに−−どうして諦めずに、いられるのだろう。「…君は否定しそうだけど。クラウドとフリオニールって、凄く似てるよ?境遇 なんて特に」「境遇?」 小さく笑みを浮かべて、こちらを見るセシル。分からないかな?とその眼が言っている。「似てるよ。…二人とも、宿敵を殺したいほど憎んでる。記憶が無いからその理 由も分からないのに、ね」 そうだ。ある意味で自分とフリオニールは、同じ場所に立っていた筈なのだ。 だがフリオニールは、みんな−−その皇帝すらも含めたみんなで、平和になった世界を見たいと言った。それは憎んでいる筈の宿敵すらも救うという事で。「俺には…できそうにない」 感情しか残っていないのに。セフィロスの事を考えただけで心がぐらつく。頭の中が真っ赤になる。 フリオニールも同じだった筈なのに。どうして相手を赦せたのだろう。「誰かを憎むのは自由。でも、自分を最後に救うのは憎しみじゃないから」 もう少し、考えてみればいい。そう言う騎士の声は優しい。「フリオニールがどうやって憎しみを乗り越えるか。見届けてみない?君が答えを出すのは…それからでも遅くないさ」 NEXT |
見つめる眼差し、その果ての未来。