多分。自分が今此処に来たのは−−皆の為でも世界の為でもない、本当に個人的な理由なのだろう。 クラウドは考える。あらゆる事の意味と理由を。自分の行いと過去と現在と未来。それらを自分はどれほど誇って生きていけるのだろうか−−と。−−惑う俺でも、答えは見つかるか? まだ、何一つ光は見えない。クリスタルを手にする事が未来へ繋がると言われてもピンと来ないし、クリスタルの為に戦うのも違う気がしている。−−迷う俺でも、誰かを救えるか? セシルに、フリオニールに、ティナ。此処に来るまでの間だけでも、いろんな人達が手を差し伸べてくれた。彼なりに彼女なりに、クラウドが前に進めるように−−背中を押してくれた。未来にも過去にも怯えて立ち止まるしかなかったクラウドに、優しく厳しく導きをくれた。 その手の温かさは、何物にも代え難い。 自分も彼らのようになりたい。彼らのように、誰かを救えるように強くなりたい。気高く生きたい。そんな彼らと共に−−野薔薇や、たくさんの花が裂くであろう、そんな景色を見られたなら。それがいつしか、クラウド自身の願いになった。 これがきっと、夢だ。 まだ欠片のようなものだけど。踏み出す為の最初の一歩を、仲間達の導きがくれたなら。自分は彼らに恥じぬ答えを見つけたい。彼らに胸を張って誇れる戦いをしたい。−−セフィロスの事も、弱い俺自身の事も…赦せる自信はない。けど。 けれど。試す前から諦めて、目を逸らす事だけはやめたい。逃げ続ける自分から変わりたい。迷っていいよと、全部受け止めるよと、そう言って待っていてくれる人達がいるのなら。 自分は自分の、答えを見つける為の戦いから逃げない。どんな真実が待ち受けているとしても、瞳を逸らさず、耳を塞がず、真正面から受け止めたい。そして、その上で価値ある選択をしたいと思う。だから今此処にいる。自分を知る為に−−彼という“憎しみ”を知る為に。 「やはり来たか」 星の体内。碧色の煌めく空の下、銀髪の天使は口を開く。「…追えと言われれば素直に追ってくるお前だ。今回ばかりは…追うな、と告げ ておくべきだったか…」 対峙する。セフィロスはまるで自嘲するように、小さく呟いた。「来なくて良かったのに」 それはとても小さな声。けれど、発達したクラウドの聴覚は、確かにその声を拾っていた。その姿に湧き上がる憎悪は否定できないのに、クラウドには今の彼が、部屋の 隅でうずくまる幼い子供のように思えた。事実、今の彼は何かに怯えるような眼 をしている。−−もしかしたら、ずっとクラウドがしていたのと、同じ眼だった かもしれない。 セフィロスの考えが何一つ読めない。戦士たちの中でも、彼の目的だけが誰にも分からない−−と以前ライトが言っていたのを思い出す。 クラウド来なければ良かった?何故?自分にクリスタルを手に入れて欲しくなかったから、避けていたとでも?いや−−少し、違う気がする。 それに。「そう思うのに…あんたは此処で俺を待ってたんだろ?」 来ない事を望んでいたのかもしれない。それでも、クラウドとの邂逅を望む心が何処かにあったからこそ、彼は逃げも 隠れもせず此処にいる。 何かを賭けるように−−あるいは祈るように。「…くだらない。ただ呆れていただけだ。愚かな人形に成り下がった男にな」 スッと、セフィロスからあの−−幼子のような弱々しさが消える。英雄−−その威圧感が戻ってきた時、不意にクラウドは気付く。気付いてしまう。 彼はたった今−−何かを隠した。消えたのではない、隠したのだ−−自分の自信の本音を、素顔を。「聞いたぞ?流されまいとして、戦う理由を求めているようだが……おまえは求 めるだけで、自分から見つけようとはしていない」 何故そんな必要があるのだろう。セフィロスもまた自分を憎んでいる筈だと、クラウドはそう思い続けてきたけれど。今隠した感情は憎しみなどではない。むしろ、憎しみで何かを隠そうとしているような。 本能的な直感だ。しかし−−理解した途端、セフィロスの紡ぐ冷たい言葉の全てが、クラウドの中で意味を成さなくなっていった。ただ冷たい言葉に覆われた“何か”に−−ざわり、と心が騒いだ。 「だから人から与えられた理由に喜んで飛びつくのだ。平和の為?正義の為?神の意志の為?仲間の為?…その全てが薄っぺらな借り物だとも気付かずにな」 「…そうだな」 今までの自分なら。きっと反射的に、違う!と叫んでいた。だけど。 セフィロスは何一つ、間違った事は言って無かったと気付く。厳しい言葉で−−それでも全てはクラウドを導く為の言葉だった事を今ようやく知る。 求めるだけで、自分から見つけようとしていない。綺麗な言葉で飾り、他人の理由に縋ってばかり−−それでは人形と同じ。ああ、本当にその通りだった。 もしかしたら。クラウドを人形だ人形だと蔑んでいたのは−−それではいけない、と自分に教える為だったのではないか。 理由も誇りも無いまま戦って、後悔するのは自分だと。 憎まれる立場であったから、敵でなくてはならないと知っていたから−−それを貫き通す為に、憎まれ役を演じてきたのかもしれない。「あの連中は、傷つけられても、クリスタルを求め続ける意志がある。だが、おまえはどうだ?自分では何も決められない、流されるだけの人形だ。…失望した な」 決断を他人に委ねるな。自分の覚悟は自分で背負え。人形に成り下がるな−−と。 どうして。自分は彼をこんなに憎んでいるのに。どうしてセフィロスはそうまでして自分を導こうとするのだろう。「…あんた、優しすぎるよ」 ずっと。こうしてセフィロスとまともに話す機会が無かったから−−その前にいつも憎しみにかられるまま刃を振りかざしてきたから、気付けなかった。「あんたの言う通りだ。俺はずっと…周りに流されるだけで戦ってきた。この戦 争の理由も知らないまま。あんた達を殺せば本当に平和になる保証もないのに」 自分が正しいと盲信して突き進んで来れば、楽だったから。「それじゃいけないんだって…あんたはずっと俺を叱っててくれたのに、それも 分からなかった」 セフィロスの眼が見開かれる。殆ど表情の変わらない彼だからこそ−−その動揺ぶりが露わになった瞬間だった。「でもやっと分かった…俺は俺の答えを見つけなくちゃいけない。それは、すぐ 側にあったのに気付けずにいたものなんだ。ここに来たのは、俺自身の意志だ。今ならそう、胸を張って言える!」 初めて英雄が声を上げて笑った。何処か悲しそうな声で。「思い出にすがるだけのおまえが、何を言う」「すがっているのは…どっちだよ」 刃を抜いたのは−−どちらが先だっただろうか?Last angels <想試し編> 〜4-32・兵士と英雄の約束X〜 −−被験体No.7、クラウド=ストライフ。 年齢は満二十三歳。彼のいた世界、その時代を世界的に牛耳っていた大企業、神羅カンパニーの陸軍に身をおいていた。 元は田舎の村、ニブルヘイムの出身だったが、まだ少年の頃に家を飛び出す。幼い彼にとって、セフィロスは世界的な英雄であり憧れの存在だった。都会の街、ミッドガルまで上京し神羅に就職したのも、セフィロスのようなソルジャーになる為であった。−−英雄になるんだ。世界を救って、たくさんの人を助ける…セフィロスみたい な英雄に! それが−−クラウドの夢、であった。同時に彼の親友にして上司である青年、ザックスの夢でもある。 しかし、ザックスとは違い、クラウドはソルジャーにはなれなかった。一般の兵士とは違い、ソルジャーになるには素質が要る。埋め込まれるジェノバ細胞−−この詳細については、セフィロスの欄にて後述する−−や浴びる魔洸の適正が不可欠な為だ。 ソルジャーになれない。自分は英雄には、なれない。その劣等感が、クラウドを卑屈で臆病な性格にしていた。 そんな彼を救ったのが−−神羅軍で出会った仲間達である。親友のザックス、ソルジャーのアンジールにジェネシス。 そして−−セフィロス。−−みんな俺より強くて、偉い人ばかりだった。でも…一般兵士に過ぎない俺に も優しくて…初めての、居場所をくれた。 テロや戦争と戦い、前線に駆り出される日々。けれど出逢えた仲間達の存在が、クラウドに新たな夢と目標を与えた。 彼らと共に、戦い続けたい。当たり前のように笑える場所を、護りたい。 だが−−運命は容赦なくクラウドに襲いかかる。謎の失踪をしたアンジールとジェネシス。様子のおかしくなったセフィロス。 そして−−クラウドの故郷の村の、任務で。セフィロスは豹変する。ニブルヘイムを焼き払い、仲間達を傷つけた。自分は神になるのだと−−冷たく笑いながら。 何故セフィロスが豹変したのか、当時のクラウドが知る由はない。だが−−故郷を滅ぼされた憎悪が、クラウドの全てを支配した。−−母さんを…みんなを…村を返せ…。あんたをそんけいしてたのに…あこがれ ていたのに…。 クラウドはセフィロスを刺し殺した。それがさらなる惨劇の始まりと知らぬまま。 セフィロスとの戦いで重傷を負ったクラウドとザックスは、神羅カンパニーの実験室送りになってしまう。この時施された生体実験によって、クラウドはソルジャー並の身体能力を手に入れるのだが−−同時に、重い精神障害の後遺症が残ってしまった。クラウドの暴走率が高いのはこの実験の後遺症によるものである。 実験室からの脱出の際、ザックスは神羅に見つかってクラウドの目の前で射殺されてしまう。その悲劇もまた、クラウドの精神外傷に拍車をかける結果となってしまった。−−心を壊されて。記憶も消されて人格も書き換えられて…俺は…ミッドガルを さ迷った。 やがて。クラウドはとあるテロリスト達に手を貸した事がきっかけで−−星を救う旅に身を投じる事になり。 ジェノバの力のせいで死にきれなかったセフィロス−−その存在と再び巡り会う事となる。許しがたい仇敵として。 世界を滅ぼす堕天使。クラウドはかつて彼と共に過ごした日々の幸せを忘れたまま−−新たに得た仲間達と共にセフィロスと戦う事になるのだ。 その道中でセフィロスに仲間の一人−−エアリスを殺され。さらなる憎しみを積み重ねながら。 だが。セフィロスを完全に殺す方法は、誰も知らなかった。同時に、彼が何故突如世界の敵になってしまったのか−−その理由と真実も。 結果、クラウドは三度セフィロスを殺し−−三度目のその時、セフィロスの真実と己の真実を知る事になり。 そのあまりの重さに潰されかけたその時−−彼は神々の召喚を受けたのだ。セフィロスの死がクラウドの暴走の引き金になる理由は、その“真実”に起因 する。−−どうして、俺だけが生きてるの?何一つ護れなかったのに…何故?NEXT |
こんなはずじゃ、なかった。