コスモス陣営のリーダー、ウォーリア・オブ・ライトは、カオス神殿エリアを一人歩いていた。 考えるのは同じ事ばかり。コスモスの言っていた−−クリスタル。絶望を打ち砕く力の事。それはどうすれば手に入るのか。 また、仲間達の安否も気がかりではある。例の騒ぎが起きてからそれなりに時間が立つが、すれ違い続けているのか一向に誰にも逢う気配がない。 これは一度ベースに戻る方が無難だろうか。−−…彼らの性格からすれば、志を遂げるまで嫌でもベースには戻りそうにない が…。 逆に言えば、クリスタルを既に手に入れて、戻ってきているメンバーがいる可能性もある。 正直、誰にも接触できずにここまで来てしまったのは痛かった。完全に情報不足だ。コスモスが何も語らないならそれには意味があるのだろう。それでも、目的め何も分からないまま進むのは辛いものがある。 クリスタルとは、何なのか。 どうすれば手に入るのか。 手にすれば何が起こるのか。彼女の言う−−“選択肢”とは一体何を指すのか。 −−みんな…無事だろうか。 仲間とはぐれて、意図せず単独行動をとる羽目になってしまっているのが自分だけだといいのだが。 ライトは自覚していた。他の面子と比べて、自分はかなり図太い精神構造をしている、と。例えば、バッツやジタンが面倒事を起こしてくれたとして。 とりあえずは捕獲し、とりあえず説教はするものの、問題そのものに関しては“何とかなるだろう”と楽観視する。 厄介な事を考えなければならなかったら、ひとまずお茶を飲んで一息ついてから考える。それでも分からなかったら試しに動いてみてからもう一度考える。 仲間達には意外だと言われたが−−これがウォーリア・オブ・ライトという人間だった。思ったより頭は使っていない気もする。リーダーとしてアレかもしれないが、ウダウダと悩むのは性に合わなかった。 だからこそ今までうまくやって来れたのかもしれない。同じく司令塔的立場に立つ事の多いクラウドとフリオニールは、目の前の問題に頭を抱えて悩んでしまいがちな人種だった。 要は真面目すぎて、ストレスを溜めがちなのだ。真面目といえば自分もそう分類されるかもしれないが、悩まない分ストレスとは無縁なのである。 だからこそ。互いに長所と短所がある。決断が早い分長い目で見ればなかなか最善策のとれないライトと、頭を抱えすぎるけども客観的な判断を下せるクラウドとフリオニール。 年長組は、それでバランスがとれていた気がする。「だから、心配でもあるんだかな」 声に出してため息をついた。辺りに人の気配が無いからこそだ。どこかしら繊細な自分以外のメンバーが、このゴタゴタした状況に神経をすり減らしていないかどうか。 フリオニールはリーダーに向いている分、あれこれ悩みすぎるふしがある。その果てに感情が振り切れると、とんでもない奇抜な行動に走ったり、思い込むと周りが見えなくなったりする。 オニオンは年に似合わず聡明で冷静。けれどどうにも自己犠牲精神が強すぎて、子供ならではの無茶をしがちだ。特にティナが絡むとその傾向が強い。 セシル。年長者らしく視野が広いのに、自分自身の事に関しては優柔不断。相手−−特に兄を思いやるがゆえに前にすすめなくなる事もしばしば。 バッツ。一見問題児とはいえ、個人的には彼が一番心配していない。ただし、強すぎる好奇心が吉と出るか凶と出るかが問題だ。 ティナ。戦闘能力では何ら問題が無いのに、自分に自信が無さ過ぎる。もっと自己主張して構わないのにといつも思う。 クラウド。普段は冷静で、周りのストッパーにもなる頼れる青年だが、彼が精神に重大な問題を抱えているのは周知の事実である。何事もなければいいが。 スコール。芯が強く落ち着きがあるが、仲間頼る事が弱さだと誤解しているフシがある。また方向音痴にも関わらず単独行動に走りたがるのはいかがなものか。 ジタン。周りに気遣いすぎていつもストレスを溜めている。またオニオン同様、彼も自分の身を省みないところがあって心配だ。 ティーダ。どんなに無理をしていても笑っていようとする。また何を隠しているのか、ここのところ思い悩んでいるらしい。誰かと一緒にいてくれればいいのだけれど。「…此処で考えこんでいても仕方ない、か」 悩むより行動すべし。 結論。とりあえず帰投。屋敷に誰もいなかったらその時はその時という事で。「やはり私は楽天家…なのか?」 このへんが、皆にもライトが単独行動を赦される理由の一つである事を、彼自身はよく分かっていなかった。Last angels <想試し編> 〜4-42・秩序と混沌の幕間劇W〜 自分の心。本当の、自分。知識として知れた事はたくさんあるけれど−−それは事実であって、真実とはまた違う気がしている。 ガレキの塔で。オニオンは一人、拾った棒切れを玩んでいた。カラカリカリ、と小さな音が響く。ビーカーの前。タイルの上に白く積もった埃。棒の先で線を引けば、茶色く薄い模様が浮かび上がる。「そうしてみると」 女性の声。警戒すべき相手でもないので、振り向かない。「本当に普通のガキにしか見えんな。ラクガキか?何を描いておるのやら」 くつくつと暗闇の雲は笑って、オニオンの手元を覗く。隠すものでもない。少年は少し体をズラして、妖魔にそれを見せる。 芸術的でもない。写実的でもない。子供らしい、シンプルな絵に−−しかし彼女にはそれが指すものが分かったのだろう。「逢いたいか、ルーネス」 静かな口調に、しかしオニオンは首を振る。「逢いたいよ。…逢いたい。でもね…僕はもう、“ルーネス”じゃないから」 きっと、逢えないよ。 自分で呟いた言葉が、自分自身の胸を抉る。思い出した現実はあまりに辛くて、でも泣く資格なんかがあるとは思えなくて。「どんな理由であれ…僕が“ルーネス”を殺しちゃったんだ。きっとみんな、恨 んでるよ。だってともうどんな結末になっても…みんなが帰って来れたとしても 。きっと彼は、二度と戻って来ないんだから」 アルクゥ。気が弱くて、でも誰より心優しかった幼なじみ。自分の一番の親友。自分が強くあろうと頑張れたのも、彼がいてこそ。 イングス。父母の温もりを知らない自分にとって、兄のようであり父のようでもあり。無茶をしがちな自分をいつも止めてくれた。 そして−−レフィア。彼女が自分に対し淡い想いを抱いてくれていた事、今なら分かる。あの時の自分は何も気付けなかった。皆にも、彼女にも愛されていた事に。 きっと傷つけただろう。それなのに自分は結局何一つ、彼らに返せないまま。この命すらも。「逢っていい筈、無いよ」 可愛い、下手くそなラクガキの中で。三人の顔は笑っている。オニオンの記憶にある、一番の笑顔で。“ルーネス”はもう、いない。 自分は確かに“彼”だったけれど。今はもう、“彼”にはなれない。 オニオンナイトとは、そういう存在なのだ。ルーネスが自己満足で仲間達を助ける為に差し出した代償。あらゆる記憶をはぎ取られ、容姿を変えられ、人格を奪われ、少年でありながら性別すらあやふやにさせられ。 その果てに、オニオンという人格と姿が作られた。自分から全てを奪った神竜の手によって。本当なら自分の存在そのものが憎むべきものなのだと分かっている。仲間達を闇に捕らえ、彼らから永遠に“ルーネス”を奪った“オニオンナイト ”を。 「僕は、僕自身が憎い。殺したいほど憎い。…だけど」 『私の一番強い気持ちは…オニオン。あなたと、ずっと一緒にいたいってこと』 「それじゃ…駄目なんだ。僕の事を想ってくれる人が一人でもいるなら…僕はそ の人を、その人達を裏切っちゃいけない」『私はあなたを信じる。あなたが私を信じてくれたように。だから一緒に生きよう、オニオン』「生きなきゃ。生きて…償わなきゃ」 それが死よりも辛い罰だとしても。 生きる。この命も存在も、全てをかけて贖う。それ以外に、何が出来るというのか。「…馬鹿め」 腕が回される。妖魔とは思えぬほど温かな手が。「確かにあの娘も仲間達も、お前の生を望んでおる。お前はそれを忘れてはならぬ。だが…それはお前に、不幸になって欲しいからではあるまい」 暗闇の雲の腕に抱かれて、優しく囁かれて。自分は愛されているのだと、再確認させられて。 だからこそ、胸が痛い。「少なくともわしは…わしがお前の仲間達だったら。お前には償いなど忘れて… 幸せになっと欲しいと願うがな。此処まで命懸けで走ってきたお前を、誰が恨むものか」 その言葉は答えにならない。彼女はアルクゥ達ではないのだから。 だけど。その優しさに縋ってしまいたくなる。ああ、まだまだ自分は弱い子供だ。「泣けばいい。お前は、お前自身の痛みの為に」 駄目だよ。泣いちゃ、駄目なんだよ。 そう言いたかったが、無意味だと悟る。頬に伝う雫を感じて。「お前の精一杯の足掻きこそが手向けだ。神竜にかけられた呪いを解く方法。奴に逆らってもお前の死を免れる方法が…必ずある筈よ。求め続けるがいい、小僧 。そうやって人間は進化し続けてきたのだから」「…何言ってるんだか。あんただって人間じゃないか、セーラ姫様」 「…その名で呼ぶでないわ、馬鹿者」 額をこずかれ、のけぞる。デコピンとはまったく恐れ入る。 そっと自分の胸元に手を当てた。心臓に刻みつけられた神竜の紋章。契約に違反した時、その呪いは魂を縛り、心臓を止めてしまう。それは確実に迫る、死。オニオンが“ルーネス”としての記憶と名前を取り戻した時点で、契約違反に なってもおかしくなかったが。まだ自分が生きている事を考えると−−確実に輪廻から外れる行動な出ない限りは、ギリギリセーフなのかもしれない。 輪廻から外れる行動−−つまり。主たる神竜に、刃を向ける事をしなければ。「諦めたその時こそが絶望だ。人が最も強くなれるのは絶望を倒れてなお立ち上がり、大事な何かを護ると誓った時。…わしにそう教えてくれたのは、お前だろ う?」 抱きしめられる腕は温かく力強い。「…うん」 思い出す。かつての世界でも自分と仲間達は絶望を前に倒れ、諦めかけた事を。人々の闇を引き受け続けた暗闇の雲、その強大な力を前に−−それでも立ち上がる事ができたのは。 愛してくれた人達の呼ぶ声が、聞こえたから。 そして知ったのだ−−絶対の未来なんてない。運命は打ち破れる。 自分は独りなんかじゃ、ない。「ありがと」 ずっと忘れていた、手にしていた筈の強い気持ち。 それがある限り、きっと揺らがずに生きていける。 この先にどんな絶望が広がったとしても。NEXT |
船は出て行く、憂愁の調べを聞きながら。