選択の時は近いのかもしれない。ガーランドは秩序の聖域で一人目を閉じる。想いを馳せるように、未来を憂 うように。この世界は、いつもとは明らかに違う方向に進んでいる。確かに皇帝達とテ ィーダが手を組んだ時に既に予兆はあったが−−一体誰が予想しただろう。憎 み合っていた者達が次々手を取り合って運命に立ち向かおうとするなど。 コスモスは秩序の戦士達に言った−−クリスタルを探せと。 カオスは混沌の戦士達に言った−−クリスタルを探させろと。どちらかが嘘をついていたなら、もっと早く神々の思惑に気付けただろう に。彼らはどちらも本当の事を言った。ただ真実の全てを語らない事で皆を誘 導した。自分はまんまと策に嵌ったのだ。−−だが分からん…いくら策を練ろうとも、あのお方ならもっと早く気付いて いた筈だ。何故この段階まで放置されたのか…。わからない。神竜が最善策をとらない理由は知っているが、それにしたって 今回の彼の行動は筋が通らない。せめて自分にだけは本心を話して欲しいのに、と思うのは自惚れだろうか。 自分はあの淑女や武人とは違う。心から神竜の為に尽くし、誰より早くからか の人の側にいる。 同じだけの信頼を得たいと願うのは、間違いなのだろうか。『神竜様からの指示を伝えるぞ、ガーランド』 先程。ガブラスが上からの指示を伝えにやって来た。『…ウォーリア・オブ・ライトに、クリスタルを手に入れさせてはならない。 今のお前の役目は…一刻も早くこの世界を終わらせる事。もしくは粛正までの 時間を稼ぐ事だ』クリスタルを手にした者は記憶を取り戻す。時にはこちらに不利益な記憶さ えも。いくつか前の世界で、ガーランドは仲間達に指示を出した。バッツとオニオ ンを殺せ、と。だが実は、彼ら以上に重大な記憶を握っている人間もいたので ある。その人物こそ、ウォーリア・オブ・ライト。ガーランドの宿敵たる存在 だった。にも関わらず何故、ライトの討伐命令を出さなかったのか。簡単だ。ライト は契約者−−不確定要素がなくとも、短い時間しか生きれない。記憶を取り戻 す事も発狂する事もなく命を落とすのは、今までの経験で分かっていたから だ。しかし、今回ばかりは事情が違う。クリスタルの力があればコスモスが望む 分の記憶を殆ど取り戻してしまう。 そう−−多分、“あの事”も。あの件についてもし彼が思い出してしまったら−−この輪廻そのものが根 本から揺らいでしまう。神竜が誇る“無限”の力。その制約は、どの世界でも 必ず闇のクリスタルに生贄を捧げる事にある。その秘密が漏れるなど言語道 断。 だから−−分かってはいるのだ。その為に必要な事が何なのか。『分かっているなガーランド。絶対にウォーリア・オブ・ライトと直接闘うな』ガブラスの言った事は正論。ライトと戦わない為に今すぐ自殺しろと言わな いだけマシだ。それなのに−−何故こんなにも苛つくのだろう。「…わしは今虫の居所が悪いのだ」 おまけに。 余計自分を苛つかせる要因が、今目の前に。「叩っ斬られたくなくば、さっさとわしの目の前から消えろ。目障りだ」 ちゃぽん、と聖域の水が鳴る。ガーランドのドスの効いた声に怯む様子もなく、コスモスとゴルベーザはそ こに立ち続けている。この場所は女神の支配域。彼女が現れるのは何の不自然もないと分かってい たが−−いざ目の前に出てこられると面白くない。コスモスが嫌いだ。彼女の顔を見ると−−何かを、誰かを思い出しそうにな る。「…ライトと、戦わないおつもりですか?」責めるような声ではない。にも関わらず責められているように感じるのは、 ガーランドにも後ろめたい気持ちがあるからだろうか。「貴方はけして、ライトから離れる事は出来ませんよ。逆も然り。ライトはけ して貴方から離れる事はできない…まるでコイン裏表のように」 振り向くと、女神は覚悟を決めた面持ちでこちらを見ていた。「分かっているのでしょう?貴方とライトが…私達二柱の神の後継者として 配置された駒である事は」まるで嵐のように強い風が。一瞬だけ、三人の間を駆け抜けていった。 Last angels <想試し編> 〜4-64・勇者と猛者の楽園V〜 自分は語らなければならない。あの悲劇の真実を−−そして、全てが始まっ たあの世界の物語を。怪我のせいとは違う痛みで、胸の奥がキリキリと音を立てる。オニオンは自 らに暗示をかけた。落ち着け、一番辛かったのは自分なんかじゃないのだから −−と。「契約者、と呼ばれる三人がいることは、ライトさん以外は知ってると思う」 暗闇の雲の助けを借りて、ソファーに座る。「クジャ、ライトさん、セフィロス。…この三人の体内に仕掛けられた爆弾… 闇のクリスタル。神竜は絶大な力を持ってるけど、世界を巻き戻し続ける“無 限の力”を行使するにはある制約が必要だ。それが闇のクリスタルによる、契 約者という名の生贄」闇のクリスタルを核に、生贄にされた三人の身体を媒介に。神竜の無限の力 は維持され、転生を繰り返す事ができるのである。だがその闇のクリスタルが生贄を食らう前に全て破壊されたら。制約は守ら れない事になり、神竜が転生する為の器も消失する。それで輪廻は打ち破れる −−そう、かつてのティーダ達の狙いは正しいのだ。ただ闇のクリスタルの破壊は生贄にされた人間の死を意味する。どちらにせ よライト達の命は助からない。彼らを助け、尚且つ輪廻を打ち破る方法が、未 だ見つかっていないのが現状である。闇のクリスタルと契約者がいる限り。あの強大な力を誇る神竜をそのまま倒 せたとしてもまた転生されてしまう。堂々巡りだ。「戦士な二十人いた。…その中で契約者に相応しいと判断されるメンバーが、 いかようにして選ばれたかは分からない」自分達に分かる事と言えば、クジャとセフィロスとライトが最終的に選抜さ れた事と、クラウドが候補に挙がっていたという事だけだ。考えてみればクジャとセフィロスとライトは揃って銀髪。しかしクラウドは 違うので、これは単なる偶然かもしれない。「…契約者は全員、俺達が召喚を受けた最初の世界で、ガーランドに闇のクリ スタルを植えつけられた…。そうだよね?」「オニオン…君は…」何で君がそれを知ってるんだ、という顔で目を見開くクジャ。オニオンは唇 を噛み締め黙り込み−−意を決したように告げた。「…本当は。ライトさんじゃなくて僕が契約者になる筈だった」 あの日の事を思い出した時。激情で胸が張り裂けそうだった。あれだけ大きな罪を犯したのに、のうのうと忘れていた自分が許せなかっ た。自分は、生きてる資格なんて無いとすら思った。思い留まれたのは−−知る事ができたから。ティナに、暗闇の雲に、たくさ んの仲間達。自分を愛して、幸せを願ってくれている人達の存在に、気付けた からだ。「闇のクリスタルと人間の魂と身体を融合させるのって、結構手間みたいなん だ。…ガーランドに捕まった僕は…あいつに拷問された。思い出したくも無い 目に遭わされた。…それが、クリスタルを埋め込む為に必要な“儀式”だった んだと思う」身体が震えそうになる。両腕で自分を抱きしめるようにうずくまった。ライ トの顔をまともに見る事ができない。 痛い。 怖い。 気持ち悪い。 やめて。 嫌だ。 助けて。 モ ウ 、 殺 シ テ 。「喉潰されちゃったから声も出せないし。心の中で叫んでた…お願いだから早 く殺して、楽にしてって。もう何もかも諦めてたのにさ…ライトさんは、助け に来てくれたんだ」 その瞬間、涙が出るほど嬉しくて。だけど次には、その喜びを死ぬほど後悔した。その非道な行いを、止める事 すらできなかった。「ライトさんは…僕の身代わりになった!僕と同じ目に遭わされて、闇のクリ スタルの宿主になったっ…!!僕が…僕が弱かったばかりにっ…僕のせいで!!」 殆ど動かない身体で檻に放りこまれ、そこから全てを見ていた。敬愛する人 が身も心もボロボロになる様を。折れて、腱を切られた足では立ち上がる事もできない。唯一どうにか動く左 手で柵を叩き、潰れた喉で泣き叫んだ。だが、地獄は地獄のまま−−何も変わ りはしなくて。 血と鉄の臭いに満ちたカオス神殿。全てが終わって残されたのは、事切れたライトと、身体より先に心が死んだ オニオンだけ。「…そうだ…私も…私も思い出した…」 真っ青な顔で、ティナが呟く。「私…私が見つけたの、二人を。血だらけで…ライトさんは、片方、手がなく なってて…顔の半分も血だらけで…。オニオンも酷い怪我で、二人とも名前を 呼んでも反応がなくて…」 少女の頬を、一筋の涙が伝う。「怖かった…。魔法でどんなに回復しても二人は冷たくなって…頭の中が真っ 白になって…」「ティナ。…もういい」「う…うぅ。ごめんなさい…私…」「いいよ…いいんだ」クラウドに支えられ、嗚咽を漏らすティナ。その姿に、オニオンも涙が滲み そうになる。自分があれだけ彼女のことも傷つけていたのに、それにすらずっと気づけず にいた。なんて愚かしいのだろう。「…それが…ガーランドがオニオンナイトを消そうとしていた理由よ」 暗闇の雲が、苦々しい表情で言う。「ライト達契約者は、闇のクリスタルの影響で…契約時の事に関しては完全に 記憶が戻る事はない。光のクリスタルを得た今でも、全てを思い出せた訳では あるまい…違うか?」「うん。…契約される時、すっごく抵抗した気はするんだけど…記憶は未だに あやふやだなぁ」頭をこつこつと叩いて困った顔をするクジャ。その様子だと本当に曖昧にし か覚えていないのだろう。光のクリスタルは、記憶の結晶そのもの。となれば闇のクリスタルの方もあ る程度記憶に干渉する力があるのかもしれない。「だが…契約者本人ではないオニオンは違う。契約の儀式をただ一人、最初か ら最後まで見ていた。その中に、輪廻継続の為の重大な秘密が隠れていても… おかしくはなかろう」「重大な…秘密…」何だろう。確かにあの時の事は思い出したが。全身を襲う激痛とライトを助 けなければと必死になるばかりで、細かな事までは記憶していないのが実際の ところだ。まだ何か、忘れているのだろうか。思い出さなければと思うほど、あの時の 恐怖が蘇り、額に脂汗が浮かぶ。身体が傾ぎそうになり、暗闇の雲にまた支え られる。「…あ……」「どうしたオニオン?」「えっと…大した事じゃ、ないんだけど…」そうだ。ガーランドがライトに言っていた言葉で−−妙に引っかかった一言 があったような−−。「二回目、って…」『悪いな、ライト。これも必然という事だ』「そう言ってたんだ…ガーランドが」『まさか二回も貴様を…この役目に選ぶ羽目になるとはな』「二回もライトさんを選んだ、って」 NEXT |
世迷えや、世迷え。