これがこの世界において、最後の戦いになる。きっと皆がそれを理解してい た。それでも尚立ち向かう事を選びそこに立っている。
−−私は、幸せだ。
ライトは剣を掲げ、祈りを捧げる。 神にではなく、仲間達の為の祈りを。
−−善き仲間に恵まれた。どんな世界であるとしても…彼らと共に在るその場 所こそが楽園だ。
イミテーションの群。その最奥にいるガーランドにたどり着く為、道を切り 開いて欲しい。それが、ライトが仲間達に頼んだ事だった。 一体一体は大した強さでなくとも数が多すぎる。あの数に僅か19人で挑む など自殺行為。しかも皆万全の状態ではない。たとえ辿り着けても必ず、犠牲 はでよう。それが分かっていながら−−ライトは残酷な頼みごとをしたのだ。 仲間を犠牲にする選択。それを、かつての自分が見たら間違いなく憤り糾弾 しただろう。お前が仲間の盾にならなくてどうする、と。 今もまったくそう思わないわけじゃない。仲間達が傷ついていく姿に自分が どこまで耐えられるかも分からない。こんな特攻をしてもガーランドまでたど り着けずに終わるかもしれない−−。 それでも選んだのは、生きる為。この鳥籠の世界を脱し、仲間達と当たり前 のように生きる未来を掴む為だ。光のクリスタルを此処で手に入れる事ができ なければ、今までの仲間達の努力は水泡に帰すだろう。 針に糸を通すような僅かな可能性。掴み取る事さえできれば、次の世界では 変えられるかもしれない。悲劇の連鎖に終止符を打てるかもしれない。 その未来の為に、今、命をかけて抗う。秩序も混沌もなく、それぞれが手を 取り合って。
「行くぞ」
剣を一閃。 さながら始まりの鐘を鳴らすように。
「突撃−−ッ!!」
「Yes,Sir!!」
イミテーションの群に、飛び出していく十九人。皆がライトの提案を呑んで、 戦う事を選んでくれた。ライトと同じく、満身創痍のセフィロスとクジャも含 め、全員が立ち上がってくれた。 それは誇り。 運命は今、変わる。
いつかの世界にもこんな風に大勢の敵に立ち向かう事があったな、と。多く の仲間達が追憶する。
バッツは思う。 あの時自分達はたった二人だった。そして多数の脅威を前に、親友を護る事 もできず、仲間の帰りを待つ事もできなかった。
ティナは思う。 あの時自分は絶望に折れかけていた。仲間達を喪うまで、仲間に叱咤される まで希望の存在にも気付けなかった。
フリオニールは思う。 あの時自分は真実がまだ見えていなかった。その先の悲劇を知らず、ただが むしゃらに刃を振るう他無かった。
セシルは思う。 あの時自分は兄に依存するあまり世界を見失った。仲間の血に塗れ、仲間の 手を汚してなお目が覚める事は無かった。
クラウドは思う。 あの時自分は護られた事の意味すら分からなかった。過去に囚われ今に怯 え、信じてくれた仲間を傷つけた。
そして今、誰もが気付く。 あの時は見えていなかった景色が、今なら見えているという事に。 クリスタルが与えたのは記憶だけではない。力だけでもない。それぞれの手 の中にある言葉だけでは表現しきれない、そんな“何か”なのだ。 かつて護れなかったものを今度こそ護り抜く為に。かつて犯した罪を生き抜 く事で贖う為に。 誰もがそれぞれの答えを背負って、運命に立ち向かう。
体力の残ってないライトをカバーするように。仲間達が駒を蹴散らし、ガー ランドへの道を切り開いていく。 ヒールクラッシュ。スコールの一撃がまやかしの妖魔を頭から打ち砕き。 ジェクトフィンガー。ジェクトの光る拳がいにしえの淑女を吹き飛ばす。 「僕だって…まだ、死んでたまるかっ!!」 「手伝うぜクジャ!」 苦悶の表情を浮かべながらも、クジャが渾身の力でEXモードを発動させる。 その隣ではジタンも同じくトランス。 通じ合い、絆を取り戻した兄弟は絶妙なコンビネーションで大地を駆ける。 ラストレクイエム。リバースガイア。クジャの光の氾濫とジタンの突進攻撃 が、幾多ものまがい物達を蹴散らしていく。
「何故だ…」
徐々にガーランドへの距離が詰まっていく。男は呆然とした様子で呟く。
「何故、諦めぬ。何がお前達を突き動かすというのだ…?」
何故。正直、ライト自身にもそれをうまく説明できる自信はない。 うたかたの夢想、その刃がライトの背を切り裂いた。熱を持った痛みに構わ ず剣を振る。離れた場所で、血しぶきを巻き上げながら倒れ、しかし立ち上が ろうとする皇帝の姿が見え。その皇帝を、フリオニールが支える姿が見えた。 憎しみは罪ではない。しかし憎しみを乗り越えた先に真の幸福がある。 彼らの姿は自分に、一番大切な事を示してくれる。
「私はもう、何からも逃れるつもりはない」
再び、発作の激痛が走り、強かに血を吐く。そこに、襲ってくるのは虚構の 英雄の刃。脇腹から血が吹き出すが、なんとかこらえてレイディアントソード を見舞う。 「だからお前からも、私自身の真実からも逃げはしない。…お前がいくら逃げ ようと、この命果てるまで追い続けてやる」 「戯けた事を…!そうまでして何を得るというのだ。貴様、本気でこの世界を、 仲間を救うつもりか?そんな事ができるとでも思っているのか!」 「それが、我らの使命。…いや、私自身の願いだ」 使命だから。そんな言葉で誤魔化すのはもう、よそう。ライトは真っ直ぐに ガーランドを見据える。
「希望はまだ、ついえていない」
睨むような眼差しに、ガーランドは俯き−−どこか自嘲するように、笑う。
「愚かだな。貴様の望むもの、それは幻よ。追いかける、と言ったな。それは いつまでだ?真実とは…追いかければ逃げ、追いついても決して手には入るこ とはないものよ…」
沈むような声色。きっと彼は今甲冑の下で、かつての自分と同じ眼をしてい るのだろう。 諦める方法を、必死に探していた頃のライトと。
「いずれ思い知る。この戦いの真実を。救いを求めるなど愚の骨頂。世界は、 貴様を裏切るのだ!」
ガーランドもまた、何かに裏切られてそこにいるのだろうか。
「たとえ世界がどうあろうと、光は我らと共に在る」
模倣の暴君のフレアをかわしきれず、肩に火傷を追い。さらにまやかしの少 年の剣がふくらはぎを貫き。 発作の痛みと傷ついていく仲間達の姿に耐えながら−−ライトは辿り着く。 決着をつけるべき、宿敵の前に。
「仲間達が私に与えてくれた光…お前にも教えてやる。お前自身の心を、お前 が裏切るな。私と戦え。真実を手にし、戦いを終わらせるために」
まだ、倒れはしない。霞む意識。ガタガタの身体を精神の力で支えて、勇者 は猛者の前に立つ。
「この戦いに真の決着をつけ、おまえさえ救ってみせよう!」
Last angels <想試し編> 〜4-66・勇者と猛者の楽園X〜
−−被験体No.1、ウォーリア・オブ・ライト。
本名、ミネルヴァ。といっても、その名ではもう“彼”を定義する事は叶わ ないかもしれない。また現在の外見年齢は二十四歳、性別は男性のように見え るが、それも仮初めのものでしかないのである。 恐らくこのレポートを読む者達全てが疑問に思うであろう彼の正体。それに ついて今、我々が知りうる限りの事を全て記そう。 といっても、彼について分かっている事はさほど多くはない。ただ、彼が世 界を渡り統べる真の神である事だけは間違いない。私が彼を手にし駒とする事 ができたのも、運が良かったからにすぎないのだ。 ミネルヴァ。その女神−−そう、一番最初に筆者が彼を目にした時、彼は神々 しい女神の姿をしていたのだ−−は傷つき、弱っていた。 どうやらある世界(後にこれがクラウドの世界の数年前と判明)の戦士と戦 い、傷を負っていた模様。その力は、当時兵器開発のアイディアに煮え詰まっ ていた筆者には実に魅力的に映ったのである。 我々はミネルヴァを捕らえ、研究した。そしてどうやらミネルヴァが、自在 に姿を変え、力の趣を変え、全てを超越できる夢の素材である事を知ったのだ。
−−私はその時、戦いの傷から抵抗する事も叶わなかった。ある絶望に捕らわ れ、逃げる気力をも失っていた。
実験の一環として。ミネルヴァの姿を青年の姿に変え、記憶を一切消し、と ある世界に送り込んでみたのである。 データが一切消えた脳で、いかにミネルヴァがゼロの状態から成長できるの かを知る為。彼本来の性格と思考を図る為に。 その結果。実に興味深い事態が起きた。 彼を送り込んだ世界で出逢ったある男が、人格変異を起こし、コーネリアと いう国の姫君を人質に立てこもるという事件を起こしたのである。 その男こそ、ガーランド。詳細は後述するが、とにかくミネルヴァが現れる までは高潔な騎士だった彼が、不可思議な暴走行動に走ったのだ。 コーネリアの城に滞在していた記憶喪失のミネルヴァは、依頼されるままガ ーランドを倒す。しかし、死んだ筈のガーランドは繰り返し生き返り、ミネル ヴァ−−現ウォーリア・オブ・ライトと戦う事になるのである。まるで宿命と いう名輪廻に囚われたかのように。 戦うたびに、力をつけていく二つの存在。混沌の神、カオスの力を得たガー ランドと、本来の姿が光の女神であるライト。その様子は我々に、新たな実験 アイディアを提供してくれた。 真の兵器とは、壷毒によって造られる。限界まで戦わせて、何度でも蘇らせ る事ができるのなら。 そうすれば究極の生物兵器を作る事も、夢ではない。
−−戦いなど、本当は望んでいなかったのに。いつしか人々に私は“光の戦士” として戦い続ける役目を望まれるようになってしまった。
光が先か闇が先か。ライトとガーランドの宿命は加速する。 戦いを繰り返すたび堕ちていくガーランドの中に生まれた、もう一つの闇− −カオス。カオスに対抗すべくライトが生み出した新たな光−−コスモス。 我々はその存在を彼らから切り離し、封じることに成功した。 その当時我々に要求されていたのは、全てを破壊できる兵器。切り離された 混沌を育てるべく、我々の大いなる実験は始まったのである。 混沌にはカオスという名の男神の姿を。秩序にはコスモスという名の女神の 姿を。そのモデルは−−ああ、今はまだその話に触れるのはよそう。 二柱の作り出された神を主軸に。その生みの親たるガーランドとライトを、 予備用のストックに据えて。 せっかくならば、兵器の数は多い方がいい。神の手駒がガーランドとライト だけでは虚しかろう。なんとか他の世界からも呼び出しては来れないだろう か。 さらに彼らを闘わせる為の広大なステージは−−筆者に忠誠を誓ってくれ たあの者に用意させよう。
−−全ては、私の存在があったせいだ。私が仲間達を巻き込んだ。契約者とい うだけではない。私こそが、全ての始まり。
我々はまだ、自らの業に気付いてはいなかったのだ。
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光も闇も、全ては同じ。