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目の前にどんな絶望が広がろうと。
彼等は、けして。
西暦2098年。それは長い戦乱の時代に明け暮れたその国の朝が、漸く開けた年
であった。
旧・憲法第九条の復活。戦争放棄と銃刀法の再制定。まだまだ全てが解決するに
は時間はがかかるだろうが、漸く国は“日本”であった頃の誇りと平和を取り戻そ
うとしている。
その功労者として語るには、四代目イナズマイレブンの存在が欠かせないだろ
う。彼らは三代目までのように、自らその名を名乗ったわけでもなければ雷門中の
卒業生でも無かったが。知る人ぞ知る者達は、たった十人しかいないそのチームを
そう呼んでいた。
彼らの試合が公式で行われた事は一度とてない。しかしたった一度、八年前に全
国中継されたその試合は、多くのサッカーファン達にとって伝説だった。かつてサ
ッカーの歴史を塗り替えた、イナズマイレブン達と同じくらいに。
そのリーダーシップをとった青年−−ミストレーネ=カルス。
彼は特に有名人である。重い障害を持つ身でありながら王牙学園を主席で卒業
し、軍の通信士として活躍。その後衆議院議員となり、一年前には弱冠二十一歳に
して過去最年少総理大臣となった(この国では二十歳から衆議院議員立候補が可能
である)。
また、彼が少年期に出したCDも知らない者はないだろう。それは亡き彼の盟友
が作った歌であり、絶望の時代に立ち向かう者の歌でもあった。総理になって尚ミ
ストレーネは言ったという。今も昔も我々チーム・オーガのキャプテンは彼一人だ、
と。
そのミストレーネは、今年の元旦。演説の席にて、テロリストの手により暗殺し、
短い生涯を終えている。
どちらにせよ、重い病を患い、あと半年の命と宣告されていたらしい。だが彼は
最期まで弱音を吐く事なく政治の世界に立ち続け、平和の為に尽くした。戦乱の時
代、先に失った仲間達や、死んだ盟友の分まで命を燃やすかのように。
ここに、彼が遺した一枚の手紙がある。彼の人生を記録した長い長い手記の最終
項に挟まっていたものだ。やや支離滅裂で乱れた字なのは、病で手の自由がきかな
かったせいか。それでも何か胸に迫るものがある。
ミストレーネは己の死期を悟っていたに違いない。それは彼が天国にいる盟友
と、これをいずれ読むであろう第三者に向けてあてたメッセージであった。
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ねぇバダップ。最期に君に、訊きたい事があるんだ。
何かは変わったかも、なんて。今更遅いのだとしても。
後悔だって無意味じゃないって、君はきっとそう云うんだろう。
どんな小さな事も明日への糧になる、彼にそう、教えられたもんね。
未来を諦めなければ、どんなコトも力になる。あの日僕等はそう、学んだ。
この世界は絶望だらけかもしれない。美しいとは言えないかもしれない。
それでもオレ達は、美しいモノもあると信じて今を生きていく。
逃げる事や泣く事は弱さだと思ってた。だからずっと自分を殺してきたけど。
一生に一度も逃げないで、強くなれた人間なんかいない。当たり前だよね。
何度も転んで、もう一回、もう一回、次こそはって手を伸ばして。
傷だらけになった先で掴んだ未来にこそ、きっと価値はあるんだろう。
昔聞いた言葉がある。世界で一番貴いのは、負けない強さじゃないと。
何度負けても立ち上がる強さ。それに勝る力は無いと。
数多の試練を乗り越えたと思った先、待っていたのがあまりに悲劇的な結末でも。
その上で今、君に問いたい。
君は、今日まで幸せでしたか?
後悔は、無いのですか?
未練は、ありませんか?
そして今、空の向こうで笑っていてくれますか?
あの頃見えなかった事が、漸く見えるようになった気がするのです。
オレ達の世界はとても狭いものだった。
まるで鳥篭のように閉じた世界だ。
何が正しいのかなんて分からず、ただ流されるままに生きてきた。
大人の引いたレールの上を走り続けるのは楽な事だった、いつだって。
そんなつもりで生きてきたワケじゃないけど、きっとそう。
オレ達は無意識に自分で考える事を放棄してきたんだろう。
信じてきたものが間違ってるかもしれない、なんて。
そう仮定するのはとても、とても怖い事だったから。
だけどそれって、とてもみっともなくて情けないこと。
逃避は時に必要かもしれないけど、それは本当にただ逃げてるってこと。
円堂守。彼に出会ってオレ達の現実は崩れ落ちた。
そして目の当たりにさせられたんだ。オレ達が逃げ続けてきた問題から。
今でも歴史の全てに責任が無かったとは思わないけれど、でも。
歴史に全ての責任を押し付けて、楽しようったって虫が良すぎるでしょう?
幸い、オレ達の世界はまだ終わっちゃいない。
破滅の未来なんかじゃない。まだまだ取り返しがつく。
何より今、オレ達は生きている。
君のいなくなった世界にも、また朝は来るから。
自分の脚で歩いていく。たとえもう、この身体が動かなくなっても。
心までは折られはしない。オレ達はオレ達の誇りを忘れない。
大切なのは諦めない心。
そして戦う勇気。”
それがあれば世界はいくらでも変えていける。今までも、これからも。
今、この手紙を読んでいる貴方へ。
これが僕等の物語。そして彼が生き抜いた、その歴史。
僕等の夜は未だ明けていない。もしかしたら、貴方の夜もそうかもしれない。
ガンバレだなんて無責任なコトバは言わない。
だって生きてるってコトはそれだけで、頑張ってるって事だから。
そして諦めるなって言葉の代わりに、僕は言おう。
諦める必要は無いんだ、と。
どんな人だって、幸せになれる権利と力を持って生まれてきたんだ。
綺麗なだけの言葉と言うかもしれないけれど、僕等は彼の言葉で救われた。
どうか自分に、価値が無いだなんて思わないで。
僕等は自分を愛し、他人を愛し、そして誰かに愛される為に此処にいる。
僕等の世界が僕等の為にあるように、貴方の世界は貴方の為にある。
願い続ければ、望みは叶う可能性はゼロじゃない。確実に道は繋がっていくから。
最期に一つだけ、お願いがあります。
あとどれだけ生きれるか分からない私の代わりに、どうか。
忘れないで下さい。彼が、彼らが生きた証を。その物語を。
勇者の心は、一人でも覚えていてくれる限り、受け継がれていく。
けして死ぬ事はないのです。だから、私は最期まで祈り続けます。
ブレイブ・ハート。戦士よ、誇り高くあれ。
世界もまた、誇りを持った戦士でありますように。
−−チーム・オーガ副隊長 ミストレーネ=カルス
ブレイブ・ハート
〜戦士よ、誇り高くあれ〜
終:ピース、メーカー
FIN.
→後書き
平和の、創造者。 BGM 『みらいいろ〜Teir hope ver.〜』 by Plastic Tree & Hajime Sumeragi